第4話 ゆうべはおたのしみではなかったですか?
「……おはようございます」
「……おはようございます」
気付けば朝。
やはり異世界も普通に朝日が昇るらしい。
あの後、俺・
それはカミトさんも同じだったらしく、彼女は……いや、彼女も俺と同じく何処か照れくさそうな表情をしていた。
「昨日はその、なんというか……」
「謝らないでください。道を外れたとはいえ聖職者たる私もつられて泣きわめいていたので、その、お互いさまという事で……うぅ……あんなはずじゃ――」
頭を抱えて少し蹲るようなポーズのカミトさんは実に可愛かった。
改めて、廃墟の壊れた屋根から差し込む朝日に照らされた彼女は、俺よりも少し年上のようだが……やっぱりとんでもなく綺麗で、やっぱり年齢関係なく可愛い、うん。
「ああ、でも、貴方の叫びを聞く事が出来てよかったです。少しはお力になれたでしょうか?」
「少しなんてもんじゃないです。めちゃくちゃに力をいただきました」
正直、あのままの精神状態だったら、俺はどう朝を迎えていたのか、想像がつかない。
こうして元気を取り戻せるなんて、想像すらできなかったのだ。というかそれ以前に命すら危なかったのだが。
「本当にありがとうございました。何か、御礼が出来たら……ああ、そうだ。少し待ってくださいね。
神殿に行けば、お金……うっ」
せめて御礼にお金を少しと思って呟きかけた瞬間、少し怒った風情の半眼で彼女がこちらを睨んでいた。
「そういうの、無粋というか、お金の為にやったわけじゃないんで、やめてくださいね」
「あ、はい。そ、そうですね……すみません」
「でも、感謝の気持ちはありがたく。誰かの……貴方の力になれて、本当に嬉しいです」
そうして一転笑いかけてくれた彼女は、ややあって少し笑顔を緩め、普通の表情に近づけつつ俺に尋ねた。
「それで、これからどうされますか?
確か異世界の方の住まいがあるとの事。そちらに行きます?
その前に、私が裏路地に行って奪われた品々を取り返してきましょうか?」
「あー……いや、その、正直、何も浮かば……」
気持ちは前向きになったものの、これからなにをどうするのか、どうしたいのかが浮かば――――ない訳でもなかった。
「ない、ですけど、当面の目標は決まった気がします」
「目標? お聞きしても?」
「勿論です。
その、昨日叫びを聞いてもらってて、俺は自分が弱いのが気に食わないんだって、心底理解できたんで。
だから――――強くなろうと思います」
「……強く」
「はい。自分も他人も余裕で助けて、見返りがなくても鼻で笑えるような、心身ともに強い人間になってみたいな、って」
ああ、そうだ。
自分で言葉にして心底納得できた。
せっかく強くなれる要素、可能性がたくさんある――少なくとも元々の俺がいた世界よりも――異世界にやって来たのだ。
もし契約が、神様の言葉が本当なら、死んでも蘇る事さえも出来るのだ。
それをフル活用して限界ギリギリまで挑戦するのも悪くはない、いや、きっといい。
と、そこで俺は重要な事柄を今の今まで忘れていた事に気が付いた。
「あ、そっか」
「どうかしましたか?」
「俺、今のところは死んでも生き返れるの、すっかり忘れてました……」
「……。それはつまり――――ああ、いえ、なんでもありません」
その事に何かを言いかけたカミトさんだったが、最終的にはその言葉を霧散させたようだ。
何故そうしたのか元々何を言おうとしたかは俺には知り様もないが。
「道から外れてはおりますが、神に仕えし聖職者の端くれとして、生き死にの感覚が麻痺するのはどうかと思うで、忘れるぐらいの感覚でいいと思いますよ。
えっと、その、憂治さん――いえ、憂治君、そう呼んでいいですか?」
彼女がそう言った瞬間、俺は全身に電撃が走るような衝撃を覚えた。
そして、その衝撃ゆえに言葉を失い沈黙してしまった――――のだが、カミトさんには勘違いさせてしまったようだ。
彼女は少し慌てた様子でこちらを窺いつつ、上目遣い(かわいい)で言った。
「憂治君? だ、ダメですか?」
「あ、いえ、家族以外の誰かに名前を呼んでもらうの久しぶりでちょっと感動してました」
正確には、言葉どおりの意味+カミトさんみたいなとんでもなく素敵な人に名前を呼ばれた感動+彼女の仕草の凄まじいかわいさ=超絶感動、という有様だったんんだが、流石にそこまでは言えなかった。言えるわけないだろ。
「ああ、なるほど」
もしかしたら、そんな事で感動する?みたいなツッコミをされるんじゃないかと心配だったが、カミトさんは額面どおり受け取ってくれたようだ。その純粋さにただただ感謝である。
「なので、今後も遠慮なく名前呼びでお願いします。是非」
こんな好機は二度とあるまいとごり押しする俺。
力押しを引かれてないか心配だったが――よくよく考えてみれば大丈夫だろう。
昨日見せてしまった醜態に比べれば、全然……考えてて自分自身にダメージだけど。
そんな俺の思考が正しいかどうかはともかく、カミトさんは俺の提案を笑顔で受け入れてくれた。
「ええ、では、憂治君」
「なんでしょう?」
傍から見ればキモいだろうなぁと思いながらもノリノリで即座に返事する俺。
そんな俺の眼を真っ直ぐ見据えて、カミトさんは言った。
「憂治君は強くなりたいと、そう言いましたね?」
「はい」
「それでは……私の元で少し修行してみませんか?」
「え? ええー?!」
優しく微笑みながらのカミトさんからの提案。
想像外でありつつ正直大歓迎のその提案に、俺は思わず大声を上げてしまったのであった――――。
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