第1話 はじまりのまちにて
白い光が収まった後、俺・
多分神殿もしくは教会、そういうものなのだろう。
なんとなく作りがそれっぽかったというか、中で歩き回る人々の半数程が先程の神様に近い白い衣服を纏っていたからでもあった。
そこで俺をまず襲ったのは不思議な感覚だった。
いつも感じている五感……それに加えて、何か、自分の中にある熱いもの、今まで感じた事がなかったものに触れているような、そんな感覚がプラスされている、そんな気がした。
暫くその感覚に、悶絶、という程ではないけれど、近いのは酒に酔っている感じだろうか、それに少し頭を抱えていると、一人の女性がこちらを気遣いつつ話しかけてきた。
普通に言葉が通じる事に驚きつつ答えると、彼女はこの神殿に勤める巫女の一人との事で、ここにいる者達は神からの啓示を受けて異世界の……俺達の住む世界からの人間への対応の為にいるとの事だった。
そう、俺達。
ここにいる半数……十数人ほどは、明らかに俺と同じ世界の人間であった。
服装が間違いなくそうだし、俺と同じように、俺以上に頭を抱えている人もいたからである。
正直、客観的な証拠としてはもう少し足りていないけれど、ここはやはり異世界なんだなという実感が涌いてきた。
さておき。
巫女の女性は、俺がそんなに具合は悪くないと伝えると、ホッとしたように表情を緩くすると今俺達がいる大広間から脇にある小部屋の一つへと案内し、そこで簡単にあれこれ説明をしてくれた。
それは先程からの神様の説明、その補足であり、そこから発展した、俺達がこの世界で暮らす上で必要な事の伝達であった。
まず聞かされたのは、俺達の世界に存在している、とあるRPG《ロールプレイングゲーム》シリーズについて。
俺も趣味である程度プレイしていたそれが、俺達の世界の神様とこちらの世界の神様、そして双方の人間たちによって作られた、この世界でのチュートリアルだったらしい。
巫女はそれがどういったものなのかよくわかりませんがと、前置きしつつ、そのゲームのシステムが俺達の魂にコピーされていて、ゲーム感覚で様々な事が確認できるらしい。
教えてもらうままに感覚に沿って『操作』すると、自分のステータスが確認できた。
立体映像的に見えている感覚だが、そこに何かが実際に浮かんでいるわけでなく……強いて言えば、脳内に直接投影されている、という表現が正しいだろうか。
表記はヒットポイント、とかではなく体力、魔力、知力など大体は漢字、一部はカタカナによるものだった。俺の出身国ゆえなのかもしれない。
さておき、そうして表示された自分のステータスだが、なんというかしょっぱかった。
レベル5、だけれど、大体の数値は一桁台。かろうじて二桁なのは賢さ、直観力だけ。
特別なのは、あの神様、トゥーミ様が重要視していただろう魔力関係で、それらは三桁前半の数値を示していた。
許可を得て――プライバシーのため、明確に敵対状態か、もしくは許可を得た状態でないと人間のステータスは見れないようになっているらしい――彼女のステータスを見せてもらうと、彼女は同じレベル5だけど魔力を除く大体のステータスが俺と同じか上回っていた。魔力は意外な事に一桁台。
いや、受けた説明からすれば以外という訳じゃないのか。
ちなみにステータスは、この異世界召喚計画に関わっている人々が、便利だからと神に許可を得て同じシステムを使用している人間以外は、使う事はおろか見る事さえ出来ないらしい。
ちなみに巫女の女性は、恥ずかしながら私も興味があって、とステータスを見れるようにしてもらったとの事だ。
なので、俺達は互いのステータスを見せあって、少し世間話をした。
俺の腕力がさほどない事について、俺達の世界には魔物がおらず、自分も過度な肉体を使う労働はしていない事、逆に巫女は力仕事がそれなりにあるとの事などなど、他にも世界の違いについて様々に話してもらった。
そういった雑談も交えつつ、時間にすれば一時間(その辺りの俺達の世界での感覚とこちらの世界は大体イコールであるらしい)ほど確認事項や契約(主に死んだ場合の蘇生についての)をこなした後、その衣服では目立ちすぎるからと、再び案内された別室でこちらの世界の衣服などへの着替えを勧められたので、さもありなんと俺は従った。
着替えた衣服は紺色系統の地味な、それでいて動きやすいものを選んだ。下着はこちらの世界のものを模倣したものをサイズ別に準備してくれていたものがあり、それらを何着分受け取る。
それらを、準備されていた当座の資金その他が詰められた荷物袋に詰め込むと、ここで出来る事は終わりだと巫女は語った。
あとは、ここから出て少し歩いた先にある集合住宅……俺達の世界で言うアパートの1つがあるので、そこの一室を使ってもらっていいとの事だった。
そこで今後の計画を練るもよし、ずっと住み込むもよし。
ただ、渡す予定の金額を使い切ったら、あとは自分で稼ぐ他ないらしい。……いや、ここまでしてもらってるだけでもありがたいとしか言い様がない。
教えてもらった貨幣感覚だと、もらったお金分でも普通に飲み食いするだけなら、一年はゆうに暮らせるようだし。
現在この町には数百人程度異世界人……俺と同郷の人間がおり、早速冒険者稼業に挑むもの、ここ……神殿の伝手をたどって、魔法や武術を学ぶもの、ぼんやりゆっくり過ごしているものと様々らしい。
一番多いのは冒険者稼業で、皆近場のモンスターに挑んでは何度も死につつ、少しずつ腕を……レベルを上げているとの事だった。
ちなみに、召喚されたばかりの異世界人が蘇生しやすいのは、俺達はこの世界にとっての異物であるため、らしい。
生物学的にはこちらもあちらも人間としての構造に変わりはないのだが、魂の構造は微妙に異なっており、そんな存在がこの世界で死んで転生に混ざるとややこしい事態になるらしく、それを回避するために蘇生魔術の成功率がほぼ100%になるとの事だった。
死んで復活までのプロセスとしては、死ぬ→先程神殿で作った魔術的な契約書が反応する→蘇生担当が魔術を行使→蘇生の場所として設定された神殿で復活、となるらしい。
死んだ場所での復活は場所によっては仮に水中であったりした場合、同じ場所で何度も死にかねない、というか実際にあったらしく、改良の結果、現在の形になったという。
しかしシステム上そうなっている、蘇生が出来るとされているとはいえ、皆よく何度も死んで挑む、なんて事が出来るもんだ。
俺は少なくともちゃんと復活できると確信できるまでは死にたくないし、復活できるんだとしても何度も死ぬような場所に挑みたいとは思わない。まぁ冒険のロマンは分かるつもりだし、憧れはあるのだが。
ともあれ、俺はこれからどうしようか、ひとまずアパートで考えるかと、巫女さんにお礼を告げて――お金を支払わなくて大丈夫かと尋ねると笑顔で遠慮された――俺は神殿を出た。
完全には慣れていない新しい生まれた感覚に酔いながら、町をぼんやり歩き進む。
神殿の外、広がる大空や太陽は俺達の世界と変わりなかった。
町はというと、こういうと失礼かつにべもないが、テンプレートなファンタジーの城下街といった風情であった。
ファンタジーの街並みをイメージしたそのままの風景がそこにあり、人々が生き生きと生きていた。露店で販売している、何かしらの食べ物の甘い匂いが鼻腔をくすぐる。
なんでも、この町そのものが神の啓示の下、俺達の、召喚者の為に準備されており、俺達が気軽にお金を使用する為にこの世界の一般的な町よりもお金の流れが活発なため、至る所から商売その他各自の目的で人々が集まり賑わっている、らしい。
そうして町一つを準備できるという話から、この世界の神と人の距離は、俺達の世界とは比べ物にならないほど近く、それゆえに影響や信心深さは段違いなのだと俺は感じ取った。
……ただ、そうして人が集まり賑わっているという事は、単純に良い事ばかりではないだろう。
そう考えていたまさにその時だった。
「た、助けてくれぇぇぇぇっ!!」
悲痛な老人の叫びが、この辺り一帯に響き渡った――。
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