第3話 親睦会
初めての戦闘訓練は、結局わたしたちの勝利に終わったのだった。
「ねぇ…… 本当にあなたたちって昨日会ったばっかりなの?」
授業の後、医務室のソファに寝っ転がって不服そうに紙パックのジュースを飲んでいるミユは、お菓子を頬張る彩芽に話しかける。
「ん?そうだけど」
「なんでそんなに息ぴったりなのよ」
「なんでだろ?ディアちゃん分かる?」
「えっ!?え、えーっと…… なんでだろう?」
わたしがミユではなく、彩芽に向けて放った風刃は、彩芽が急に力を緩めたことによりバランスを崩したミユに命中した。結果、3ヒット扱いでダウンとなったのだった。
「言っとくけど、
「うぅ。すごい自信。確かにミユは強いけど」
「うん。でも最初から使われてたらわたしも負けてたと思う」
「…… 分かってると思うけど、アレめちゃくちゃしんどいから使いたくはないのよ」
「分かる。異能って使いすぎると疲れるよね」
サンドイッチを頬張りながら彩芽は頷いた。
「…… ほんと、よく食べるわね」
「えへへ。あたしもミユの剣受けてた時、異能の出力上げてたからね」
「はぁ。まったく、千撃一断を受けるなんてよくやるわよ。しかも力のコントロールまでされてたなんて」
ミユは飲み切った紙パックをくしゃりとつぶして立ち上がると、軽くのびをする。
「さて、私と優菜は今日は午後からの授業は取ってないから街でも歩こうかと思ってるけど、あなたたちは?」
「あたしも今日のは取ってないよ。あ、ディアちゃんはまだ選択授業のことは聞いてないよね?」
「うん。まだ何も」
「そっか。じゃあ…… 」
彩芽が目を輝かせながらこちらを見ていた。
「聞かなかったことにして一緒に遊びに行こ!」
「ちょ、彩芽っ!?」
「いいんじゃないかな~。アサギちゃんも大賛成~。せっかくチームなんだから交流会しちゃお~」
「アサギまで!?」
「あはは…… えっと…… せっかくだし、みんなと仲良くなりたいなぁ…… なんて」
「…… はぁ。まぁ、どうせ今日申請したところで受講できるのは来週からだから、別にいいわよ。多分、今週中にはゴリ山から話があると思うから、それだけは忘れないでね」
「ミユ、優し~。アサギちゃんには容赦なかったくせに~」
「それはあんたが寝てたからでしょ。私が教えなかったら今ごろアサギはまだ1年生よ」
「うぅ~。ミユがいじめる~」
「いじめてない!ほら、こんな話はどうでもいいから行くわよ!早く準備しなさい」
ミユが優菜の鞄を持ち、優菜の手を引いて起こす。
「なんだかんだ面倒見いいよね。ミユって」
「姉妹って感じがするね、あの二人」
「言われてみれば確かに。そういえばディアちゃんにもお姉ちゃんがいるんだよね?」
「うん。すっごいお姉ちゃんなの。大型プシュケーをたった1人で駆除したこともあるし、わたしなんかとは比べ物にならないほど強いの」
「ディアちゃんも強いのにお姉ちゃんはもっと強いんだ!?しかもS級異能なんだっけ?すごいなぁ、憧れちゃうなぁ」
「ふふっ。わたしの自慢のお姉ちゃんだよ」
そんな話をしていると、廊下からミユの声が聞こえてきた。
「2人ともー!置いていっちゃうよー!」
「待って!今行く!」
わたしと彩芽は同時に立ち上がると、顔を見合わせて笑った。
***
「さて、着いたわよ。ディアちゃん」
「あれ、ここって……」
4人でのんびりお茶でもしようという話になり、ミユがおすすめのカフェへと案内してくれたのだった。そこは、つい昨日、プシュケー出現前にわたしが立ち寄っていたカフェだった。
「ん?もしかして来たことあった?」
「あ、うん。プシュケーの警戒警報が鳴ってた時にちょうどここにいたの」
「そっか。コーヒーブレイクを邪魔されたのは残念だったね。せっかくだし、今日はちゃんとゆっくりしていこうか」
木製のドアを開けると、心地よい鈴の音が鳴った。
「いらっしゃいませー。あ、水優さん。今日は…… 珍しいですね。4名ですか?」
「ええ。新しくチームに入った子がいるから親睦会って感じでね。空いてるかしら?」
「はい。奥の席が空いてますのでそちらへどうぞ。メニューはすぐお持ちしますね」
「ありがと」
ミユの後ろについて歩く。
「ミユはね〜、ここの常連さんなの〜」
「ええ。スタンプカードは7枚目よ」
自慢げに黒色にスタンプカードを取り出すミユ。ウェイターさんがメニューを持ってくる。
「ちなみに7枚目っていうのは、特典でケーキセットが半額なんです。まだ23人しか持ってないんですけど、水優さんはその中でも最初の1人なんですよ」
「というわけで私は季節のケーキセットで決めてるから。アサギたちが決まったら注文するわ」
「わたしも季節のケーキセットにしようかな」
「あたしも!」
「アサギちゃんも〜」
「…… 結局みんな季節のケーキセットじゃない」
セットのコーヒーを、わたしとミユが日替わりグルメコーヒー、彩芽と優菜が季節のブレンドコーヒーで注文した。
「さて、改めて。ようこそディアちゃん。あたしたちのチームへ!一応、あたしがチームのリーダーをしてるんだ!」
「最初は私がやる予定だったんだけど、アサギがこうもだらしないとね…… お世話しなきゃいけないし」
「へへへ〜。ミユちゃん大好き〜」
「…… はぁ。なんか上手く乗せられてる気がするのは気のせいかしら。まぁいいわ。私は主に後方支援役といったところね。プシュケー出現時の最優先事項は一般人の避難誘導、と言ったところかしら。終わり次第戦闘支援を行なっているわ」
「それで〜、アサギちゃんは火力支援班なの〜。プシュケーの外殻をどーん!って吹き飛ばしちゃうよ〜」
「あたしは知っての通り重撃担当。核を一撃で砕くくらいの重さと力を持ってるんだけど、昨日みたいな素早いプシュケー相手はどうも苦手でさ。ディアちゃんみたいに機動力がある子が一緒にいてくれると助かるんだ」
「とはいえ、必ずチームで動くってことでもないけどね。昨日みたいに私やアサギが不在の時だってあるし。大規模戦線やる時なんか、合同チーム組むんだから」
「まぁ、とにかく連携できる時は連携しよ、ってこと!…… あっ、ケーキセット来たかな?」
白桃のケーキがテーブルに乗せられる。続いて良い香りの湯気が立つコーヒー。
「わぁ!美味しそう!」
「美味しそう、じゃなくて美味しいのよ、彩芽」
「うんうん、美味しいんだよ〜。それじゃあいただきま〜す」
優菜がケーキを口へと運ぶ。
「ん〜。やっぱりここのケーキは美味しいねぇ。ほっぺた落ちちゃうよ〜」
幸せそうな顔で優菜が呟く。彩芽もそれに続いてケーキを一口。
「ホントだ、すっごい美味しい!」
ミユとわたしは、顔を見合わせて笑った。
「まだ写真撮ってないんだけど…… まぁいっか。また今度撮ろうっと」
「うん。彩芽ちゃんたちを見てるとこっちもお腹すいてきちゃうね」
「そうね。じゃあコーヒーが冷めちゃう前に私も。いただきます」
「いただきます。…… ん。美味しい。甘いけどさっぱりしてて、あっさりとしたコーヒーとすごく相性がいい」
「ディアちゃん、すごいね。実は日替わりグルメコーヒーって季節のケーキにぴったりなコーヒーを出してくれるのよ。マスターが世界中のコーヒー豆を取り寄せて、その日の天気とか、気温とかに合わせて使う分だけ選んでるんだって」
「マスターのこだわりがすごい……」
「ここだけの話、分析系の異能者らしいよ。オペレーターの業務を引退した後に、異能を活かして仕入れをやってるとか。あと、オペレーター不在の時の代理オペレーター業もやってるんだって」
「そんなすごい人なんだ」
「うん。そんなマスターだからなのかな、グルメな異能者のお客さん多いのよね、ここ」
「うぐぐ。こんなに美味しい店なのに、あたしが知らなかったなんて……」
「彩芽はどっちかっていうと屋台とかキッチンカーの食べ歩きが好きなんでしょ」
「それは…… そうだけど…… 。こんなおいしいところがあるなんて知ってたら定期的に通うもん」
「じゃあ、今度からプシュケー駆除後の打ち上げ会場の候補にいれておこうかしら」
「賛成!」
その声をかき消すように、けたたましい警報が鳴る。
「1番街方面にプシュケーの反応あり。付近4キロ以内の異能者は駆除に向かってください」
ミユが大きなため息をつく。
「…… ふぇ~。もしかして出動~?」
「最っ悪。彩芽。アサギ。ディアちゃん。行くわよ」
「うん!あたしの名前でステーション予約しといたよ。でも、連日プシュケーが出るなんて珍しいね」
「確かに言われてみればそうかも?」
「考えるのは後。急ぐわよ」
カフェを飛び出し、ステーションに向かう途中。すぐ近くで風が揺らいだ気がした。
「…… ?」
不思議な少年がこちらを見ていた。何かを伝えようと口が動いている。
「ディアちゃん、どうしたの?」
彩芽に呼ばれ、はっと我に返る。
「ん、なんでもない!今行く!」
もう一度振り返ると、少年は最初からその場にいなかったかのように消えてしまっていた。
「なんだったんだろう…… 」
わたしは、思考を振り払うように彩芽の背中を追った。
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