第2話 一撃と千撃
2限目は戦闘能力の測定テストを行うようだ。
「よし、揃ったな。んじゃ、各自得意な訓練用武装を借りて行ってくれ。今日は対人訓練を行うぞ。ルールはいつも通り、チーム内で2対2に分かれてヒット判定を3回もらったらそいつはダウンだ。2人ともダウンしたら負けとなる。早めに勝負がついたら適当に組み合わせを変えてやりあってくれ。では各自用意ができたら開始だ」
「ミユ〜。アサギちゃんと組もう~?」
「はいはい。いつも通りね。じゃあ、そっちはまずディアちゃん&彩芽ペアでいい?」
「うん。大丈夫だよ」
「いいよ。ミユ、優菜ちゃん、私たち、強いからね?」
「えー。お手柔らかに~」
「アサギ、あきらめなさい。それじゃ、行くわよ。戦闘開始!」
合図をするや否や、優菜が大砲を生成する。
「どーん」
巨大な砲弾が容赦なく飛んでくる。ギリギリのところで横へと飛び躱す。
「幽撃!」
魔力の泡が弾ける。
「風よ!」
弾けて漂う魔力の泡を吹き飛ばすと、少し遅れて爆ぜた。
「てりゃあっ!!」
ハンマーを振りかぶった彩芽が優菜へと飛びかかる。
「ミユ〜。助けて〜」
「ああもう仕方ない!幽撃!」
魔力の壁が優菜の前に生成される。ガンッ、と鈍い音が響く。キリキリとヒビの入る壁。
「力押しぃ!」
さらに力を込め、壁を押し潰そうとする。
「あ。ヤバいかもミユ……」
「アサギ!ちょっと限界かも!避けて!」
「させない!」
壁を押さえているミユへと風切り刃を飛ばす。
「えっ!?わわっ、ちょっとまっ……」
回避するために集中が切れ、魔力の壁が消える。その勢いのまま優菜にハンマーが叩きつけられた。
「きゃああっ!?いっっったぁあああ……」
「大丈夫?もー、彩芽!ちょっとは力の加減してよー!」
優菜に駆け寄りながらミユが抗議する。あちゃあ、と漏らして彩芽が笑う。
「ごめんごめん、どのくらい加減すればいいか分からなくて……」
吹っ飛ばされた優菜がフラフラと立ち上がる。
「うぅ……とりあえず1ヒットは1ヒットだよね〜?大丈夫、続けよ〜」
「オッケー!ディアちゃん、上から行こ!」
「うん!」
足元に風の足場を作り、宙に浮く。
「ん〜。アサギちゃんにまかせて〜」
小さな砲台が6門。優菜の左右に展開される。
「あっ」
やらかした、みたいな顔でこちらを見る彩芽。
「……へへっ、多分これ避けられない」
「え?」
「ばーん」
魔力の砲弾が撃ち出される。幽撃、と叫ぶ水優の魔力が目の前に3層の壁を作り出す。砲弾は壁に当たる度に分裂し、3層目を突破する頃には避けられないほどに増えていた。
「わぁっ!?」
「うひゃあ!?」
魔力が爆ぜ、下へと叩き落とされる。
「ぶい。アサギちゃんの勝ち〜」
「……アサギ。あれ、この授業では1ヒット扱いよ」
「……このまま決着つけちゃお〜」
再び生成された砲台がこちらを向く。
「ディアちゃん、あたしを上に!」
「分かった!」
再び彩芽を上空へと打ち上げる。同時に、風の流れをコントロールして弾避けのサポートをする。
「アサギ、彩芽を頼める?」
「がってんしょうちのすけ〜」
砲台を上空へと向けると、狙いを定める。
「ディアちゃんは私とタイマンね」
「うん。でもわたし、強いよ?」
「ふふっ、それは楽しみ。それじゃ……行くわよ!」
一気に踏み込んでくるミユ。訓練用の木剣が風切り音を立てて突き出される。横へと飛び退きながら投擲訓練用の木片を撃ち出す。
「この程度っ!」
木片を弾いたミユは、低い姿勢のまま突進の構えをとる。
「反転ッ!」
ミユの左足付近を中心に強い風を巻き起こす。
「ひゃあっ!?」
バランスを崩して倒れ込むミユ。再度木片を撃ち出す。
「あいてっ」
情けない声をあげてフラフラと立ち上がる水優。
「ヒット……でいいのかな?」
「そうだね。いやぁ、風の異能って侮れないなぁ」
「一応、自然を操る力だからね」
ミユは剣を構え直すと深呼吸をした。
「お互い1ヒットずつ。さて、どうなるかしら、この勝負」
「分からないけど、負ける気はしないかな」
「ふふっ、奇遇ね。私もよッ!!」
同時に動いた2人の剣は、軽い音を弾ませながら重なった。
***
「彩芽ちゃ〜ん、アサギちゃん疲れたよ〜」
「なら、ヒットもらっていい?」
「ダメ〜。ミユに怒られる〜」
気怠そうに砲門を向けるアサギ。これでもまだ彼女は本気を出していないのである。風の足場に乗りながら砲弾の雨をかわすけれど、近づくことはできていない。幸い、ディアが弾除けの補助をしてくれているのかヒットをもらうことはないのだが、打開策が無いことも確かな事実であった。
「ディアちゃん、強いねぇ」
優菜がちらりとミユを見る。
「ん?」
「ミユが向こうでヒットもらってるみたい〜」
「ミユが?」
「うん〜。だからアサギちゃんが彩芽ちゃんからヒット取らないと不利になっちゃうんだ〜」
そう言うと優菜は砲台を12門に増やす。
「風はもう計算済みだよ〜。彩芽ちゃんにアサギちゃんの4割本気、避けられるかな〜?」
幽撃の支援を受けた砲弾ほどでは無いものの、先程とは比べものにならない量の砲弾が撃ち出される。
「ちょっ待っ、うわわわわ」
避けるのに精一杯で優菜を視界に入れることができない。弾除けの風も読まれているのだろう、砲弾の軌道が不規則に変わっている。
「こんの……ッ!」
なんとか砲撃を続ける優菜を見つけ、ハンマーを握りなおす。
「1ヒット……上等ッ!」
腕に砲弾を受け、訓練用の障壁が展開されて吹っ飛ばされる。
「わーい。ヒットだ〜。こっちはアサギちゃんの勝ちかな〜」
そしてその勢いのまま天井の支柱へと飛び、ぐるりと旋回する。
「遠ッ……心……ッ」
ハンマーを振り回し、砲弾を弾き飛ばしながら飛ぶ一直線に優菜へと飛ぶ姿は、隕石のようであった。
「……ほぇ?」
「力ッ!!」
「うぎゅ」
声にならない奇妙な悲鳴を上げつつ、優菜はミユの方へと吹っ飛ばされていった。
「あたしも、1ヒット!」
***
「なかなかやるね!」
「ミユちゃんこそ!」
支援能力が高い異能者は、異能者本人の身体能力が求められることが多い。それゆえに、近接戦闘となると異能の強さよりも技量勝負になりやすいのだった。
「くっ」
「てやぁッ!」
彩芽を風で補助しているわたしは、能力の発動にある程度の意識を割かなければならない状態に対してミユは全ての意識をこちらに向けていた。しかし風を切らしてしまえば、わたしと彩芽はきっと負けるだろう。
── 転機があれば、きっと。
「よそ見なんて、随分余裕そうね?」
「ミユちゃん、意地悪だね。分かってて言ってるでしょ」
「悪いわね、私はこういう女なのよ」
ミユが幽撃と共に薙ぎ払う。魔力が爆発を起こし、剣を吹き飛ばされる。
「今の、よく防いだわね。剣を飛ばされるだけで済むなんて」
「わたしだって、負けてはいられないからね」
わたしは今、ヒットを狙うわけではなく、むしろヒットをもらわないことを主軸に戦っている。どちらかと言うと時間稼ぎをしているのだ。
「私たちを分断してそれぞれダウン取ろうって考えだったかもしれないけど、甘いわね。私の相手を彩芽に任せなかったのは良い判断だっただろうけど」
「そう?でもわたしはちゃんと考えがあってこの戦い方を選んだんだよ。ね」
レイピアを突き出す。それを弾いたミユは反撃のためにくるりと体をひねる。
「もらっ……ッ!?」
彩芽に吹っ飛ばされたであろう優菜が、ミユへと激突する。
「きゃあっ!?」
「わぁっ!?」
2人揃って障壁に激突する。
「おかえり、彩芽ちゃん」
「ただいま。ありがとね、ディアちゃん」
ハイタッチをして、ミユと優菜の方を振り返る。
「ごめんね、ディアちゃん。1ヒット取られちゃった」
「ううん。こっちこそ1ヒットも取れなくてごめん」
ミユと優菜はよほどの衝撃だったのか、立ち上がれずにいた。
「うぅ……」
「いたたたた……アサギ、大丈夫?」
「もう……無理〜。アサギちゃんはダウンでいいよ〜」
「アサギ!?」
「2ヒットもらっちゃったし、アサギちゃんはもう動けないよ〜」
「ああ、そういうこと。じゃあもう休んでいいわよ」
「ん。医務室行ってくる〜」
そう言うと優菜は砲台を消し、壁に手をつきながらゆっくりと訓練場を出ていった。
「ま、そういうことで不利な状況になっちゃったけど。まだまだわたしは1ヒット……ああいや、今ので2ヒット判定かしら。せめて、彩芽のダウンかディアちゃんのヒットは取りたいわね」
剣を支えに立ち上がったミユ。
「幽撃の本当の力、見せてあげる。幽撃の異能、完全解放!」
ミユの剣に青紫色の魔力が溢れる。
「ディアちゃん。気をつけて。ミユのあの剣は幽撃の能力の中でも最上位の支援スキルの1つ、
「さて、こっちから行かせてもらうわ」
踏み込むミユが剣を振り下ろす。
「避けて!」
彩芽のその声と同時に飛び退くと、ミユの剣がつい一瞬前まで立っていた場所に突き刺さった。先ほどまでの剣とは比べ物にならないほどの重圧。訓練場の障壁が壊れんばかりに揺れ、その威力の恐ろしさを示していた。
「ミユがあそこまで本気になるの、珍しいんだよね」
彩芽がハンマーを立てながらそう呟いた。
「よし。あたしも、ちょっとだけ本気。あたしが一瞬だけ隙を作るからさ」
── お願いね、ディアちゃん。
言い切る前に飛び出していった彩芽。
「そう、なら彩芽から!」
彩芽のハンマーとミユの剣が打ち合う。
「っ…… ッ…… !!!」
「相っ変わらず、重いハンマーね…… ッ!」
ぎりぎりと不快な音を出し続けている彩芽のハンマーとミユの剣。わたしは、風の力を集中させ、狙いをつける。
「ねぇ、彩芽、あなたの相方がこちらを狙っているけど」
「だから…… 何よ」
「私が、この攻撃を流したらどうかしらね?」
「…… ふふっ」
「何で笑っている?」
「むしろ、あたしがそうするかもしれないって考えなかったの?」
「…… ッ!?」
「
わたしは
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