第65話 女子会だと気付く。

「小説書いてるんだ…なんかスゴいね」

 才色兼備で『泣きホクロの女神さま』な上に趣味で小説まで書く。奏絵かなえにとって雨音あまねは益々天上人に思えてくる。


「スゴくはないけど……こんなに読まれてないのに毎日書いてるメンタルの方はスゴいかもね(笑)まぁ、うまく行かないこともあるけど、そういうのも自分を成長させる上では必要かもだし……あっ、これは圭の受け売りか」

 雨音は圭の顔を浮かべてニンマリと笑った。学園では見たことない笑顔に奏絵かなえは戸惑いながらも質問する。


「えっと……川守さんの受け売りって…でも、なんでも出来ますよね、川守さん」

「えっ? 圭が? まさか」

「でも、サッカーの技術もだし、戦術も詳しいし、人の気持ちを上げるのも。ヨッシーから聞きました。勉強も出来るとか」


「それ全部努力したからよ。圭って体小さかったから沙世にず〜っと負けてたの、サッカー。でも諦めないでふたりで頑張って。まぁ、石林さんも知ってるよね。もう出来ないの、サッカー。だけど、あの時の努力は無駄じゃなかったと思う。戦術の方は実は圭のお父さん譲りなの。それと勉強の方は……サッカー出来なくなって、打ち込めることなくなったからだと思う。色々あるのよ」


「色々……そうですよね。それじゃあ、お父さんもサッカーを?」


「どうかなぁ……それはわかんないけど、戦術とか詳しいの。テレビでサッカー見る時ボードに磁石置いて『なるほどなぁ』とか言ってる。それを圭も見てたからじゃない? おかしいのよ、ふたりがテレビでサッカー見てる姿って全然サッカー観戦じゃないの、勉強会よ、勉強会。ホントにもう…」


 雨音あまねは「さてと、こんなもんかな!」とノートパソコンを閉じた。どうやら小説の更新が終わったようだ。奏絵かなえの方に体を向けた。


「お邪魔かなぁ?」


 雨音あまねは試すように、イタズラっぽく奏絵かなえの顔を覗き込んだ。奏絵かなえは、はじめ何がお邪魔なのかわからなかったが、雨音あまね自身のことを言ってることに気付き、両手を振って「全然です!」と否定した。背中には薄っすらと汗をかいていた。


(うっ…ヤバい…川守さんとヨッシー繋がりでつい話してたけど『泣きホクロの女神さま』だった……近くで見たらめちゃかわいいし、緊張する)


「吉沢さんは川守さんのこと、その……色々…」

「知ってるよ。例えば、仲いいのに敬語使われたら距離感じるとか? 私もだけど」

「あぁ……気を付けます」

「また~今も使ってるよ、敬語(笑) 覚えてない? 石林さん、編入組の私に優しかったでしょ、1年の頃。2年で別のクラスになったのショックだったんだけど?」


「えっ? そ、そうなんですか⁉」

「ほら、敬語。あと『吉沢さん』っていうのもなんだかなぁなんだけど。まぁ、沙世さよのことは『ヨッシー』だから間違うことないけど、このまま行けば一番下の妹も蒼砂そうさ学園来るの、来年」


「妹さん……その…麻莉亜まりあさんですよね」

「また、敬語(笑) 麻莉亜まりあのこと、気になってたり?」

「気に……それは……どうでしょう……その嫌かな、とかはあります。自分の許嫁さんとその……サッカーのこととはいえ仲良くしてるのとか。はっきり言って、私うっとうしいヤツかな、みたいな?」


 雨音あまねは「そっか、そっか」と立ち上がり奏絵かなえの隣に座った。肩が擦れ合い距離に奏絵かなえは「どきどき」した。


雨音あまね


「えっ?」

「呼び方。雨音あまねにしてくれたら石林さんの――奏絵かなえだっけ? 奏絵かなえのその悩みを解決して進ぜよう、どう?」

「悩み……あ、雨音あまねさん?」

「えっ?『さん』? ないない! これじゃあ、この話なしね?」

「あっ! 待ってくだ…待って! その雨音あまね……ちゃん?」


雨音あまねちゃんか……まぁ、ギリ許しちゃおう! お近づきの大サービスだからね?」

「ありがとうございます!」と答える奏絵かなえ雨音あまねはジト目で抗議したので「ありがと」と言い直した。


「圭の許嫁の話は親同士が決めたことなの。あの子、ダメになったじゃない? サッカー。でもさ、落ち込んだり泣いたりしなかったの。平気な顔してさ、その頃。それで大人たちがすごく不安になって。私たち3人の中から許嫁を選びなさいってなったのね、つい最近よ。冬休みになってからだから」


「そうなんだ……最近なんだ」

「そうよ」

 そう答えて雨音あまねは口を尖らせて天井を見上げる、ほんの少しの時間だったが奏絵かなえにとっては長く感じた。


「私もさ、ぶっちゃけて不安になったの。麻莉亜まりあ選んだ圭に」


「えっと、それは?」

「うん。普通、たぶんなんだけど沙世さよかなぁって。あのふたりちっちゃい頃からず~~っと一緒にサッカーしてたしね。沙世さよちょっと愛情表現ヘタクソでね(笑)力加減壊れてるトコあるけど……それで気付いちゃった」

「えっと」


「ん……気付いてはいたよ? 確信したっていうか。当たり前だけど『あぁ、圭辛いんだ』って。サッカーに近づくの『痛いんだ』って」

 雨音あまね奏絵かなえにわかるように胸を押さえ、作り笑いをした。

「それはヨッシーがサッカーが…その、出来るから?」


 雨音あまねは肩をすくめながら、宙に視線を浮かせた。首を振って悲しそうな笑顔で答えた。


「出来なくなったじゃない、サッカー。だから、沙世さよに罪悪感を感じさせたくなかったんだよ、きっと。ね」


 その言葉を麻莉亜まりあは扉の外で聞いていた。

















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