第57話 釈然としないことに気付く。
「えっと……圭ちゃん、着替えたんだ」
ドアを開けて入ってきた
「学校行かないとだし」
違う、そういう意味で言ったんじゃない! なんか言いたいけどうまく言語化出来てない
「圭。そうじゃなくて、許嫁の私がいるのに、どうして
軽く肩をすくめるところを見ると、別に自分に「ちゃんとしなさい」とか言いたいわけじゃないのはわかった。
「ジャージの下シャツ着てるし、短パンだし」
「でも、でも、でも、圭ちゃんは下着だったでしょ⁉」
「ん…麻莉亜ちゃん。沙世は中学の時同じサッカー部。中学には女子サッカー部ないし、更衣室遠いしで普通に一緒に着替えてた。沙世は脱がないで着替えるテク持ってるし、オレの着替えは見慣れてる。ついでに言うと雨音だってオレが着替える時部屋から出ていかない」
「雨音ちゃんとか沙世ちゃんがお着替えする時もですか⁉」
「いや、普通にオレの部屋で着替えることなんてないだろ。沙世の今の着替えだって中は上は練習着だし、下は短パン。それでグランド出るんだから、よくないか?」
(それはそうなんだけども! なんか、なんか釈然としません! なんか言い包められた感がします!)
そんな感じで言い返す言葉を探していたが、見つからない。かわいそうなので圭は助け舟にならない助け舟を出す。
「ごめん。
圭と沙世は慌ただしく部屋を出て自転車にまたがり最寄り駅に向かった。
***
引き続き麻莉亜は、なんか釈然としない。この感覚は今初めて経験したものではない。今まで何回も何回も何回も経験してきたこと。
昔の話。自分が1番年下で体が1番小さい頃。まだ小さいからと遊びの輪に入れなかったこともあった。
自分以外が小学校に入学したときもだし、自分以外が中学、高校に進学した時必ず『取り残された感』を感じてきた。
『輪に入れない感』を感じてきた。そして今もまた「麻莉亜は圭のことを知らないから」と『輪に入れない疎外感』を感じないといけない。
仲間はずれ感が半端ない。麻莉亜は思った。そろそろ冷静に怒ろうと。許嫁になってすらの疎外感!
いくら良妻賢母とはいえ、そろそろキレ時だろうと圭の帰りを虎視眈々と待ち構えることにした。
だいたい許嫁が自分の姉とベットに寝ててキレるのが変かな?
いや、何にもしてないだろう、たぶん。でも、頬ずりまで目の前でされた日にはキレていいよね?
それにそれによ。許嫁のお着替えを手伝うのは概ね許嫁の仕事よね? 変かなぁ~いや、変じゃない!
なんで許嫁と姉が一緒にお着替えしてるからって、廊下で待たされるの⁉ 本末転倒じゃない、怒髪天を衝くが如くのはずです!
なのに許嫁の圭ちゃんと来たらこんな状況を『慣れてもらったら助かる』って、いや普通に無理でしょ‼
例えるなら私が雨音ちゃんとか、沙世ちゃんの婚約者に頬ずりしてんだよ? 一緒に個室でお着替えして廊下で待つ未来想像しろってんだ、コノヤロー!
思い出すだけでも腹が立つのに、事もあろうか目の前では雨音が圭や麻莉亜に断りもせずに、圭の部屋の模様替えを始めた。
「あの…雨音ちゃん。何やってんの?」
「ん? いや、ノンちゃん(圭の母親)に何か簡単な机ないって聞いたらこれ使っていいって。ごめん、ちょっとそっち持ってよ」
「あっ、うん。どこに運ぶ?」
「圭の机の隣にかなぁ」
「そうなんだ、ところでこの机と椅子、何に使うの?」
「あっ、これ? 私のノートパソコン置いとこうかと」
(置いとく? 置いとくってどういう事?)
いや、使う時家から持ってきてこの小さな机で使うならわかる。しかし雨音ははっきりと『置いとく』と言った。そして、麻莉亜は知っていた。雨音は毎日のように時間があればノートパソコンに向かっていることを。
それくらい使用頻度がバカ高い雨音のノートパソコンを置いとくとなると、ほぼこの部屋に入り浸ることが確定される。
しかし、麻莉亜はほんの少し心のなかで深呼吸した。冷静になりたかった。
(いやいや、もしかしたら新しいノートパソコンを買ってもらって、古いやつをここに……いや、この秋に買ったばっかだ!)
「雨音ちゃん、それって…」
「えっ? ここに入り浸るの。いいでしょ、私だって幼馴染なんだし。監視役よ、かわいい妹になんか間違いが起きたら大変でしょ? そう言えば沙世もヨガマット持ってくるって言ってたなぁ」
麻莉亜は理解した。姉ふたりは完全且つ執拗に自分と圭との時間を妨害しようとしているということを。それともうひとつ。
(間違いが起きて心配なのは私じゃなっくて圭ちゃんだ。圭ちゃんを心配してんだ)
益々、釈然としない
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