第56話 棘が抜けたことに気付く。
「なんで遠慮なんかしたの」
どれくらい時間が過ぎただろう。灯りの消えた部屋で
触れないように、見ないようにしてきた痛み、苦しみ、焦り、そんな感情が止めどなく溢れ出した。
子供の頃、小さい頃よくしたように泣きじゃくる圭の頭を抱き寄せ雨音はようやく言葉らしい言葉を口にした。雨音だって同じように泣いていた。
1番側で圭の頑張りを見続けていた。悔しさは人一倍ある。でも、圭が悔しがるまでは我慢した。圭が涙を流すまでは我慢した。
それは共に悔しがり、共に涙を流すために。ひとりで感傷に浸るのは簡単だ。
でも、
冗談じゃない。
雨音は思った。圭の抱くすべての苦しみや悲しみ、憤り、言葉に出来ないすべてを受け入れて支えようと。
だから、雨音はサッカーを手放さないといけなくなった日から今日まで泣かなかった。今日共に泣くために。
許嫁に選ばれなくても、圭の選んだ未来に自分が隣にいなかったとしても、今隣りにいて共に悔し涙を流しているのは世界でひとり、自分なのだと誇りに思えるように。
「言葉が見つからなかった。何から言っていいか、わからなかった」
「バカね。思いつくこと全部、ぜ〜んぶ、言えばいいでしょ。全部受け止めて上げるから。今日は朝までいるから思いつくこと全部話して。言ったでしょ、愛してあげるって。心から」
「あの…
「ふふっ、なに? いつ振りよ、その呼び方。圭ちゃん」
「あの、オレ一応、男だからな。しかも思春期の」
「知ってる、私も思春期女子。なに、泣いたことが恥ずかしくて照れ隠し? かわいい~(笑)」
「う、うっせぇなぁ……お母さんかよ」
「あら、うれし。私をお母さんにしてくれるの? 子供はふたりは欲しいかな」
「……」
「ごめん。私も緊張してて、つい」
「緊張言うな……」
「なんて言えばいいかなんだけど。ごめん、ありがと。これからも迷惑掛けるけど」
「こちらこそ。あんまし力になれなくて情けないけど『
***
「随分仲がよろしいようで」
ふたりして寝落ちした朝。そんな声で圭は目を覚ました。
「あっ、
「『おはよ』じゃないです! 他の女の人腕枕しながらのんきすぎませんか⁉ 今まさに浮気現場に乗り込まれてる感じなハズですが⁉」
こたつに正座しながら究極のジト目で圭を睨む。
「もぅ…うるさいわね
「はぁ⁉ あ、
「なによ、あんただって泊ったでしょ~」
「あ、あれは看病してもらってたからです‼」
「私も圭の心のケアしてたの。あんたに文句言われる筋合いないわよ。ねぇ~圭?(抱き!)」
「あります! い、許嫁なんです! なんにしてもその抱きつきはやめてください! 圭ちゃんも、なんか、なんか言ってください!」
抱きついて頬ずりする
「姉妹の問題は姉妹で解決してくれ。オレが口出ししたら変な感じになるだろ」
「え…でも」
「でもじゃないよ。もし、オレのせいで姉妹の仲がこじれるなら、色々考え直さないとだろ。
「了解~」
「け、圭ちゃん⁉ そんなのこれからふたりで」
何か言おうとした所に『ば〜ん』とドアが開いた。あまりの勢いに麻莉亜は固まる。
「おはよ、圭〜! いい朝だよ、朝マック行こ〜」
「あんた朝からマックイケる派? なんかすごいね」
「そう? 雨音ちゃん。圭のこと、ありがとね。それといつもごめん。頼っちゃって。圭、どう? ちょっとは…」
「あっ、うん。大丈夫。まァなんだ。お恥ずかしい所をって感じだ」
頭を掻いて照れ隠しをした。
「な、なんで3人だけわかり合ってる感じなんですか! 私にも〜」
「あんたはいいの。ふたり出てて。私きのう圭に『ぎゅ~』して貰いそこねたから!」
「
「
そんな会話を
「『ぎゅ~』して……おそろいのジャージなんて、なんかヘン…」
「
忠告なのか追い打ちなのかわからない一撃を
【サッカー小話 アンカーについて】
今回は守備的ミッドフィルダーの中でも特に守備に特化した『守備の職人』アンカーについて触れたいと思います。
ボランチはポルトガル語。ピボーテはスペイン語。そしてアンカーは英語です。意味は『
船が流されないように下ろす重りのことです。どかっと構えた感じがしますが、役割としては危険を見極める能力とでも言いましょうか、危険を未然に防ぐ役割をします。
このアンカーもいわゆるボランチというポジションになりますが、危険を未然に防ぐという役割をすることで『アンカー』と呼ばれています。
守備の職人と言いましたが攻撃参加をまったくしないわけではなく、1対1にやたら強く、危険を回避しまくった結果『あいつアンカーだよな』とか言われたりします。なのでポジションとは少し違うかも知れません。
場所的には
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