第48話 面倒くさいことに気付く。
「そんなの納得いきません‼」
早乙女女学院との練習試合を終え帰路に付く。移動手段は
このバスを見ただけで他校を圧倒する勢いだ。そんなこともあり、圭や
「なんだ?」
「圭は知らないんだ、立花って時々ああなるの。癇癪持ち。早く婚活すればいいのに。どうでもいいけど」
「圭。ごめん、私疲れちった。少し寝るね」
ホントに興味がないらしく、
「川守くん、悪いんだけどちょっといい?」
吉沢家女子特有の思春期に謎の発熱と規格外の食欲で、急成長する前の
「えっと、いいけど。どうしたの? 移動中に立ち歩いたら危ないよ」
「うん、ありがと。そうなんだけど、立花先生が『責任者呼べ』って。悪いけど来てくれない?」
「えっと、マネージャーさん。圭ちゃんが責任者なんですか?」
きょとんとした顔で
「圭。言ったげたら、板挟みっぽくてかわいそうじゃない」
バスの前の方の座席に立花が椅子の背もたれに手を添えて立っていた。近づく圭を見て器用に眉を吊り上げた。
「何か用ですか?」
「えぇ、まぁ。それよりそちらはどなた?」
「吉沢
「はじめまして。吉沢
「えっと、川守くんとはどういった?」
「先生、それ関係あります? 幼馴染です。家が隣で」
そう言って圭は
「はい、生まれた時からの幼馴染です」
とても優等生な答えを出した。しかし、場所が場所。女子サッカー部、特に
「川守圭。この娘でしょ? 噂の裏サイトの娘。それと吉沢の妹さん。確か許嫁になったとか。違う?」
うん。とってもいい顔で話題を膨らませた。早乙女女学院との試合後にこの話題になって知ってるクセに、ワザとらしくあまり知らない感じで話を振った。どうやら多かれ少なかれ顧問の立花は部員に不人気のようで「許嫁」と聞いた途端不機嫌さを加速させた。つまり
いつもならここで
「川守くん。それはどういうことですか?」
「どういう、とはなんのことです」
「許嫁ってホントなの?」
「はい。親同士がまぁ、決めたことです。学校的に何か申請しないといけないなら親に言ってください。付け加えると冬休みに入って決まったことです」
これ以上この話題をしたくないので、圭は珍しく突き放し気味で言った。立花も立花で許嫁関係を学校に申請しないといけないか把握してないようで「確認して連絡します」と冷たく切った。
自分で触れておきながらこの対応はどうなんだ? 圭は思うが麻莉亜が背中をツンツンとしたので、言い返すのをやめた。要所要所で良妻賢母だ。
「責任者になったつもりはないですが、なんです? あまり
「詳しくは小林監督に聞いて」
「先生が呼んだんでしょ?
「ははっ、圭ちゃん気をつけます」
「川守。どうだ、お前が望むならBチームを見ないか。可能ならCチームも見て欲しい」
「え〜っと、それはどういう…」
意図が見えない圭に代わり姫乃が手を打って歓迎した。
「それいいよ! 川守、やろうよ、監督、それって川守にBチームのコーチをしてくれって話よね、じゃなくて、して欲しいって話ですよね?」
姫乃と監督の小林は親子。ピッチを少し離れると、ついいつもの親子に戻る。
「そうだ。前から思っていたがBチームの強化が
「ん……でも、今は監督が見てるんですよね、BチームもCも」
「全体練習はね。でも、グランドがAとB、Cは違うの。50人全員が一緒に練習する程広くない。B、Cは第2グランド」
そうなると、Aチームを見ている小林監督がB、Cチームをあまり見れないのも分からないでもない。ただ疑問も残る。
「でも、誰か見ないとですよね。安全面とか考えると。いないんですか、コーチとか」
すると近くに座っていた石林が首を振る。とてつもない苦虫を噛み潰した顔して。
「今。私が見てるの。それをあなたに変えたいんだって。監督が」
あぁ、そういうことね。圭は理解した。今現在B、Cチームは事故防止のために立花が見ているが、それはホントに見ているだけで、指導してるワケじゃない。練習は生徒の自主練が主体となっている。
そうなると確かにB、Cチームに所属した選手の育成は思ったようには進まない。本来は立花がそれをすべきで小林監督とB、Cチームの選手は不満を持っているワケだ。
そしてB、Cチームを取り上げられようとしている立花が不満を圭にぶつける感じだ。
圭は思った。ダルいと。
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