第44話 仲間の存在に気付く。
「圭クン! 私のお嫁さんになって‼」
ハイタッチをしながらカルロスは圭に懇願する。もちろん実生活のお嫁さんではない。ピッチ内のいわゆるパートナーだ。いつもは眠たい目をしているカルロスこと神崎
「ねぇ! 私の動きだし見えてたの⁉ それとも読んでた⁉」
「カルロス先輩、ぐいぐいきますね~見えてました。視界の隅で動き出してるのを。まぁ『左に流れて欲しいな』はありましたけど」
「そうなんだ! そうか、そうか、フムフム。ってことは私たち波動合うよね? あまねんに内緒でお付き合いしない?」
「聞こえてるわよ、カルロス! あんたいい度胸ね。私の男に手を出す気なのね?」
「あっ……もう、地獄耳なんだから。冗談も言えない。でも、ナイスパス! グッとキタよ!」
(そんな怒んないでよ、ホントに取っちゃうぞ? ニカッ)
「あ、
(肩書にこだわって我慢するなんて私じゃない)
「圭! 全然『クルクル』感ないじゃない! あんた私のこと愛してないの!」
(ど、どうしよ⁉ ここまで堂々と言われたら否定しづらい‼ でも、後で「何にも言わなかったってことは認めたってことでしょ!」とか言われそう! いや絶対に言うハズ‼ でも、ここは冷静に! すう~はぁ~すう~はぁ~)
「
「そうね。今はあんたの許嫁だけど、それ決定? 決定じゃないわよね」
「え⁉ いや、決定です! そう決まりました!」
「それは許嫁としてでしょ? 正式に婚約したワケでも、結婚したワケでもない。親同士が圭に『三人から選びなさい』ってほぼ強制しただけじゃない」
「まぁ、そうかもですけど…圭ちゃんは私を選んでくれました」
「もしよ? もし、あんたが今の感じで「許嫁の権利」に胡坐かいてたとして、どうなの?」
「どうってなにがです?」
「わかんないけど、もし未来の圭が『どうせ私たち結婚するんですから』の努力をやめたあんたに新鮮味を感じなくなって『ぱっと出』の圭好みの暑苦しい女子に目を惹かれたらどうするの?」
「そ、そんなのないです! 圭ちゃんそんな人じゃないです!」
(ど、努力をやめた⁉ 許嫁の権利⁉ 私、そんな風に見えてるの? それは圭ちゃんにもなの⁉)
「私。納得してないから。
そう言って
***
「ねぇ、川守圭。なんか外野で君の許嫁姉妹揉めてません? 仲悪いの?」
体力の消耗を考えて前線に残る圭に
「練習してないのに動けるなんて凄いね。やっぱし圭は段違いだね」
「お前が右サイドを
「そう? うん。素直に嬉しい。圭。正直どんな感じ? ホントのこと教えて」
「あと、ワンプレーだな。そこが限界の1歩手前」
「わかった。何すればいい?」
「んん……そうだな、特等席で見ててくれ」
「わかった、見てるね」
もう見てるしかできないんだ。ピッチを去ろうとするこの『8番』を。あとワンプレーでこの『8番』はピッチを去り、2度とピッチに戻ることはない。若くして誰よりもピッチに愛され、誰よりも長くピッチに立ち続けるだろうと思われた彼は彼の思い、情熱、葛藤を置き去りにしてこのピッチを去る。
悔しさがないハズがない。昨日の自分より今日、明日の自分が努力を積み重ねていく自信があった。でもその自信を積み上げるハズの土台がもう、もたない。情熱を注ぎ込む器が割れてしまった。でも残酷なことに人生は続いて、この世界からフットボールが失われることはない。
目を背けることも考えた。何も感じないフリをしたかった。痛みなんて存在しないと思いたかった。でも出来なかった。ここには確かな痛みもあるし、まだ消えない情熱もある。動けないワケじゃない。起き上がれないワケじゃない。歩き出せないワケじゃない。ただ、フットボールがもう出来ないだけ。
でも、フットボールに関われないワケじゃない。フットボールに見捨てられたワケじゃない。なら悲観しなくていいんじゃないか。もう目の前には仲間がいるんだから。
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