第38話 思い出したことに気付く。
センター
圭の家には遊びに来たと言うより
「ナイス判断! カルロス先輩‼」
イイ感じで自陣のベンチに凱旋してきた
「ねぇねぇカルロスってなに?」
「神崎先輩のことじゃないの?」
「そう言えばそこはかとなく『カルロス感』あるよね~」
「じゃあ、勝利を祝し、神崎のことこれから『カルロス』な?」
そんなこんなで、神崎
(ふんだ、私の
***
試合後の挨拶を終え、両校はリラックスムードだ。数ヶ月おきに対戦する両校の選手同士もう顔なじみ。しかもこの後は主力の参加しないフレンドリーマッチ。位置づけ的には「C戦」1年生のリザーブメンバー(補欠)が主体となった交流戦を残すのみ。ただ、フレンドリーマッチなので、出たい選手はレギュラーでも出る感じだ。時間も20分ハーフと短い。
「
小林
「あの……監督、いま――」
駆け寄り後を付いて歩く
向かう先は方向で何となくわかった。早乙女女学院のベンチだ。両校の選手は交流を兼ねグランド沿いにある木陰で水分補給をしている。早乙女女学院のベンチには白いミズノのキャップを被った、ほっそりとした体形の女性が立ってタブレットにメモを書き込んでいた。
「今日はやられました、小林監督」
「今日だけ、だろ。新山。何年も
「はい。そのつもりでしたが、やられました。しかし、今日みたいなやり方監督らしくないですね、こういう奇をてらう戦術お嫌いでしたが」
「後半の指揮はお父さん……すみません。監督じゃないです」
「
『早乙女女学院』監督新山は
「新山。川守圭を知っているか」
「川守圭ですか。もちろん知ってます。彼のプレーは何度か見る機会もありましたし。いい選手でした。その後の事も聞きました、残念です」
「うん。その川守圭が今日の後半の指揮を執った」
「先生のところに川守君がいるのですか。では彼は指導者の道を?」
「どうだろう。私はそうすべきだと思っている。例え体が十分に動かせなくても、フットボールに対しての情熱は簡単に消えない。そのことはお前が一番知っているだろ」
「えぇ……まぁ。でもなんというか『
「うん。だからこそお前に頼みがある。これからするフレンドリーマッチ。川守圭を出す。選手として」
「そうですか。先生は相変わらず残酷ですね。どうしてですか、いいじゃないですか、見たくない現実なんて誰にでもあります、恐らく彼は動けない、自分で思っている以上に動けない、あの時の私がそうだったように‼ そっとしておいてあげれませんか? それがいいことかはわかりません。ただ本人はまだ『刀折れ、矢尽きるまで』戦ってないんです、わかりませんか? まだ生傷なんです、私とは違う。私はケガだった。ケガが治りきる前に無理をしてすべてを失った。焦り過ぎた自分のせい、過失があります。焦ってすべてを無にした自分を責めました。でも彼は病気です、何の落ち度も過失もないまま選手生命を閉じないといけない! 私との痛みの本質が違います」
「だからこそ、じゃないですか」
目を伏せたまま
「今の今まで忘れてました。私、彼と川守圭と小学校の頃クラブチームで対戦してます、何度も。もう別次元の選手でした。でも追いつきたくて泣きながら練習した。小学時代の私は美し過ぎる川守圭のプレイスタイルに憧れて、輝いていて。いつの頃からか私の目標でした。今でも無意識のうちにイメージするのは、その頃の川守圭です。たぶん、私は今も小学時代の彼に追いつけてない。だからわかることもあります。ちゃんと終わらせてあげないとって」
新山はそれ以上何も言わなかった。溢れだす、こみ上げる
(また若者があの悔し涙を流さないといけないのか……努力なんてどうやれば報われるの)
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