第28話 猛攻に気付く。

 雨音あまね麻莉亜まりあのことはとりあえず置いておこう。圭は「ハマ電」に揺られ県境を越えた。


 全国にいくつもある小京都と呼ばれる観光地のひとつで下車し、雨音あまねの情報通りレンタルサイクルをワンコインで借り、目的地に到着したまではいい。


『早乙女高等部』


「あっ……」


 今更ながら圭は気付いた。今日は近県の強豪校との練習試合。圭はここに来るまで対戦校のフル名称も知らなかった。


(早乙女学院高等部かと……)


 ちなみに同系列で共学の進学校「早乙女学院高等部」がある。今日の沙世さよの対戦校はスポーツが盛んな「早乙女高等部」紛らわしいので地元では女子高の方を「ジョジョ学」と呼んでいた。もちろん圭が知る由もない。


 麻莉亜まりあの看病に追われ事前に情報が入らなかったことと、疲れから電車で爆睡していたので、調べる間もなく現地に着いた。そもそも雨音あまねが言うまで応援に来るつもりはなかった。


「まさか……男子禁制では」


 女子校だ。しかも圭は私服の上にもちろん事前申請などしてない。その上どうしていいかわからず、パッと見挙動不審。


 そうするうちに時間は刻々と過ぎ、B戦(ベンチ組)が終わり沙世が出場するA戦(レギュラー組)が始まる時間が近づいていた。


 付け加えると問題はこれだけじゃない。雨音あまねから渡されたお金だが、三千円では往復出来ないことが駅に着いてレンタルサイクルを借り、お昼注文したおうどんを食べながら気付いた。


 つまり、是が非でも『早乙女高等部』に侵入して沙世さよと接触して帰りの電車代を借りないとどうしようもない。


 ちなみに沙世さよたちは学園所有のバスで来ていた。そんなワケで沙世さよが必ずしもお金を持っているとは限らない。


 ただ、事情を話し沙世さよの口添えで誰かに借りるということは出来るかも。このままでは一銭ピーだ。


 しかし圭の通う蒼砂そうさ学園もそうだが、校門には『関係者以外の立ち入りを固く禁止します』と年季の入った看板が設置されてる。女子高でもあるし、そもそも学校は関係者以外が気楽に入っていい所ではない。


 冬休み。事前申請なし。女子高。しかも私服だ。この上ない不審者の自覚が圭にはあった。しかも遠路はるばるやって来たのに試合は見れない上に、下手をすると帰れないという焦りがある。そんな感情がより一層圭を不審者に見せる。


 校門前をウロウロともう何週しただろう。冬なのに焦りで額に汗が浮かぶ。そんな状況だが捨てる神あれば拾う神ありとでも言おうか、声を掛けてくる女生徒がいた。


「あれ。川守くん? 川守圭だよね」


「あ……」


 そこには172センチの圭が軽く見上げるくらいの高身長女子がいた。髪質が柔らかいのか形のいい頭の形にふわりと載るようなショートカット。聞き覚えのあるハスキーボイス。


和美なごみ~誰? カレシ?」


 和美なごみと呼ばれた高身長ガール。彼女は『卯ノ花うのはな和美なごみ』180センチ近くある彼女は人懐っこい目で圭を見る。圭の中学時代の同級生で体育館脇の誰も飲まない水飲み場で、何度も部活後に話したことのあるバレー女子だ。スポーツ推薦で「早乙女高等部」に入学。寮生活を送っていた。


「そうだよ~中学の時からの~ごめんヨシ。先行ってて~久しぶりだから」そう言って和美なごみは「にししっ」といたずらっぽく笑った。


 ***

「ごめん、川守くん。ここ女子校じゃない? カレシいる風でマウント取りたい気分で、つい。ところで何してるのこんなトコで。まさか私いまから告られたり? いや、即オッケーなんですけど? 違うよね? 内心大歓迎だったりだけど?(にししっ)」



 冗談が好きで、笑うのが好きな和美なごみは以前と変わらない笑顔で、冗談で圭に接した。まさに中学時代の体育館脇の誰も飲まない水飲み場と変わらない。圭は沙世さよの試合を見に来た事と事前申請をしてなかったことを告げた。


「ん……マジ、吉沢来てんの? 事務室に誰かいるかな……冬休みでも仕事だろうし……監督に聞いてみる! あっ、それと後でお願いあるの~待ってて!」


 和美なごみはそう言い残すと、真新しい体育館にダッシュした。


(なんか助かった……)


 胸を撫でおろす圭だったがそうは問屋が卸さない。校門数歩入った植込みの近くで待っていた圭に声が飛んだ。


『ねぇ~‼ 和美なごみ!』


 さっき和美なごみといたヨシと呼ばれたバレー女子。練習中によく声を出しているんだろう。よく通る声で体育館2階外に面した通用路からだった。よく通る声だから、その声と内容に釣られ恋バナに飢えた部活女子が、わらわらと2階の通用路の手摺に溢れた。10人くらいだけど。


『えっ、和美なごみ、カレシいるの⁉ 軽くシネばいいのに』

『おふたりの出会いは~?』

和美なごみのどこがよかったの~?』などなど。


 和美なごみから正直に「カレシ持ちマウント」を取りたいと聞いてた手前、下手に否定し辛い。実際いま突然現れた圭のために色々してくれている。


(まぁ、いいか。それくらい乗ってやっても)


 そんな軽い気持ちで圭は答えた。


「その……出会ったのは中学。笑ったらかわいいし、もかわいいと思う」


 恋愛感情はともかくとして、ウソは言ってない。出会いは中学だし笑顔もかわいい。背が高いのも和美なごみっぽくてかわいいっていうのは、圭だけの感想じゃない。実際中学時代和美なごみの人気は相当なものだった。


『はい! カレシさん! 私、卯ノ花うのはなより背高いです! おばあちゃんから『世界一かわいい』認定あります! モップ掛けとかで尽くすタイプです‼』


『うわっ、センパイ、まさかの後輩のカレシ狙い⁉』

『ね、寝取りだ~!』

『おばあちゃん認定~‼』

『モップ掛けって家庭的~センパイ素敵~』


 圭は恋バナに飢えた部活女子のいいおもちゃになった。


卯ノ花うのはな……早く戻んないかなぁ……)


 早くも女子の恋バナ猛攻を持て余していた。










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