第26話 留年しそうだと気付く。

「先輩、私はただの通りすがりのクラスメイトと申しましょうか……マブダチ⁇」


 いや、「通りすがり」と「マブダチ」全然違うだろ。なに変なトコでアピってんだ?


? じゃああなた、蒼砂そうさ学園の生徒なの?」


(川守‼ おかしくない⁉ 絶対おかしいよね! だってさっき君私のことクラスメイトって紹介してくれたよね? クラスメイトって言ったら、だいたい同じ学園でしょ? 女神さまあまりに私に興味なさ過ぎて、草っ!)


 瑞葉みずはは小声アンド早口で抗議する。しかも雨音あまねが怖いもんだから圭の影に隠れてコソコソと。いや、しがみついている。一体化してる。ちょっとコアラみたいになってる。なにこれ、かわいい~


(残念ながら、お前の言ってることは当たってる。雨音あまねは明らかにお前に言うならお前の行動に興味があるというか、。あと、重いから背中に乗るな)


(川守『おおむね』とか『いて』とか言わないで!『強いて』言うけど言うな! おおむね私がムカついてるってなに? 泣きそうなんだけど? 泣いたら優しく抱きしめてくれる? ホールド・ミー・タイト! プリーズ! きゅるん♡ 君が重いって言ったのは不問に付す!)


(いや、雨音あまねが彼女かの議論は置いといて、そんなこと言うヤツの前でオレの背中にへばり付いてたらムカつくだろ? それと密着して「ハアハア」言うな、嫁に行けんぞ? 知らんけど)


『知らんのか~い!』と言い返そうとしたが、瑞葉みずはの言葉をさえぎる声がした。


「姉ちゃん、いい加減にしろよ、なんで下着売り場で絶叫してんだよ、だいたい、なんで弟と買いに来てんだよ、もう! それからなんでヨーカドーの下着売り場で抱きついてんの⁉ 勝負下着使うにしろ、まずお会計しろよ!」


 北見弟がそこにいた。


 ***

(おまえ、黒の上下ってじゃねえか? ? なんかの世界戦か? タイトルマッチか? それともチョモランマか?)


(う、うっさいなぁ! いーじゃない、別にうれしいでしょ? 同級生の勝負下着が黒だってわかってムサビ泣きなさい! ってか私が泣きたい! 何に挑むって……自分によ! 自分の不甲斐なさによ‼ あれやこれや言い訳ばっかでなんにもして来なかった自分によ‼ そうでもしないと前に歩きだせないでしょ!)


 瑞葉みずはは黒の上下の下着を握りしめながら決意を語る。過去の自分への決別だ。黒の割かしきわどい系の下着を握りしめながら……ちなみ弟さんが指摘するように、まだお会計は済んでない。タグがぐしゃぐしゃになる前にお会計しろ。


 ***

「――で。なんでこの並びよ」


 雨音あまねが吐き捨てる。場所はヨーカドーのフードコートのボックス席。圭の正面に北見弟、圭の隣に瑞葉みずは瑞葉みずはの正面に雨音あまね。つまり、圭とは対角線で1番離れてる。


 しかも正面に座ったはずの瑞葉みずはは高速小声で圭に話し続けている。しかもしかも、それが雨音あまねにバレてないと思っている。ある意味幸せ者だ。


「あの、質問いいですか」


 もっとも冷静な北見弟が中3とは思えない落ち着いた声で発言した。「冷静さ」は最近の中3のトレンドらしい。麻莉亜まりあもそうだし。


「どうぞ、この並びのことでしょ」


「この並びのことはなんですけど、その……なんで姉ちゃん……姉がその……吉沢の許嫁の川守……さんに下着売り場で絶叫しながら抱きついてたのかな、と」


「だ、抱きついてないもん! し、しがみついてた?? ホールド・ミー・タイトよ! そ、そんな感じ! あと絶叫じゃないから、心の叫び? し、仕方ないでしょ、私だって青春したいんだし!」


「北見。悪いけど青春は下着売り場以外で頼む。あっ、フ―ドコートもダメな? ちびっ子でも親に注意されるからな?」


「あっ……そうね、それもそうか。いや、黒の上下でちょっちテンション上がったっていうか……ちょっちねぇ~な感じ」


「安いテンションね」


 雨音あまねは一撃必殺の如く刺しにいく。圭とのお買い物を姉弟ぐるみで邪魔されて激オコだ。それならフードコートに誘わなければいい。そう、誘ったのは雨音あまねだ。


「姉ちゃんは黙っててくれ。話しれ過ぎ。その川守さんは吉沢の許嫁さんなんですよね、違いますか」


「いや、それは違わない。誤解があるようだけど、雨音あまね麻莉亜まりあの姉。吉沢雨音あまねだ」


 圭はここはえて麻莉亜まりあと呼んだ。チラ見の雨音あまねの目線が痛いが、これくらいの自己主張したいお年頃。圭の中で北見弟の存在はやはり気になっていた。


「その……吉沢のお姉さんの下着を一緒に買いに来るって変じゃないですか、その吉沢は嫌じゃないのかって思って……」


「別に変じゃないわよ。私は圭が生まれた時からお世話してやってるの、普通よ。あなたはどうなの? 姉の勝負下着一緒に買いに来てるじゃない? それもたいがい変よ? しかも黒のレースよ? Eカップよ?」


 弟相手に姉の黒の下着がレースなのは黙っておいてあげて! それから姉が「Eカップ」って情報、弟的には百害あって一利なしですから‼ デカいなあ瑞葉みずは


「姉鹿


 瑞葉みずはは『はぅ⁉』みたいな変な声出して立ち上がった。何か抗議しようとするが、言葉が出ない「川守! なんか、なんか言ってよ! 姉のプライドに賭けて! 今! 絶対に負けられないなの!」と無茶振り、あと「なんか」ってなんだ? ちゃんと言語化しろ。


「その……吉沢のお姉さんは姉ちゃんと鹿ってことですか?」


「北見君。君の質問に対する趣旨とは異なると思うが雨音あまね蒼砂そうさ学園で常に首席。北見は……正直来年は後輩になってもおかしくないと思う。同じ保健委員もこれで最後。残念だ」


「なぁ⁉ 川守! そんな個人情報どこで手に入れたの⁉ えっ? 私ったら留年の危機なの? 知らなかった……早く言ってよ! なんかそこはかとなく諦めてない? 私の進級諦めてない? まだ諦める時間じゃないわよ‼ 頑張れ、川守! 頑張るの私か⁉」


「そうなの? じゃあ、スグに帰って勝負下着つけて勉強しないとね(笑っ!)圭の


(川守〜一応言っとくけど勉強の気合入れるために買ったんじゃないからね! いや、勝負掛ける相手とかいないけども‼ いや、進級を賭けた終わりなき戦いはまだまだ続くけどね‼ これ少年漫画っぽくてよくない?)


「どうでもいいことだけど」と雨音あまねは前置きして言葉を続けた。


「許嫁は親同士が決めたことよ。付け加えるなら、圭と私たち三姉妹のうち誰かと許嫁になるってこと。踏み込んで言えば麻莉亜まりあ私だって可能性はあるの。結婚相手が最終私だってこともある」


 雨音あまねのジト目に「えっ、そんなシステムなの⁉」みたいな顔する圭。更に「いまなんか言ったらシバくわよ」と目力押し……


(いやいやいや、こんな目力最強のお嫁さんいりませんから!)


 そんな圭の心の嘆きが届いたのかテーブルのしたに対角線で伸びた雨音あまねの長い足が圭の脛にクリーンヒットした。


 まさに以心伝心の仲だ、お似合いかもよ圭?(他人事)












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