第24話 痛みに気付く。
つい先日までこたつにちょこんと座る姿は、まさに中1になりたてみたいだった。今じゃもう、そんなことない。
「女の子」→「女子」→「大人女子」と定義するなら許嫁になった時は完全に「女の子」のカテゴリーだった。しかも眼鏡でおさげの地味系女子。
今では立派な「女子」だ。いや、熱を出して肉を爆食いし「吉沢家女子あるある」の法則。この時期恋をし「恋熱」の副作用で爆食いし、なぜか身長が「にゅう」と伸びた
そんな「大人女子」の数歩手前の
要は不作為に5枚前もって抜いているのと「ペア」になっても、敢えて手持ちから捨てなくていいローカルルール。もう何がなんやらのババ抜きだ。ババ抜きというより戦略要素を含んだトランプバトルになっていた。
そんなワケで頭を使う。そうなると病み上がりには疲れる。自分で言い出しておいて
流石に反省した良妻賢母は「実家に帰らせていただきます(笑)」と自宅に帰って休養を取ることにした。
『5枚落ちババ抜き』に満足したのか「もう1晩お泊りする」というわがままは引っ込めた。この辺りの聞き分けの良さが筋金入りの良妻賢母なのだ。
圭はこうして無事に嵐のような看病生活を乗り越え、初めてのふたりの共同作業をやり遂げた。
***
「圭。あんた暇でしょ? ちょい付き合いなさいよ」
同じ姉妹でもそれぞれ違う。意外にも
「いや、
そう言いながらも圭はグレーのスエットを脱ぎに掛かる。言葉でどうこう言ったところで連行されることは変わらない。人間諦めが肝心だ。
「ちょ、圭! 待ちなさいよ!」
「ん?」
「『ん?』じゃない! なに許嫁の姉の前でいきなり着替えてるかな!」
「えっ? 別によくないか? 今までだってそうしてたろ。それに全部脱ぐわけじゃないし……どうせなに言っても出掛けるんだろ?」
「なんだ? ワケわかんないヤツ」
(ワケわかんないのはアンタでしょ‼ もう、この子ったら!)
そんな乙女心に気付くわけもなく、着替えを続ける圭に思いっ切りクッションを投げつけた。
(うううっ……こっちはドキドキするわ、腹は立つわでいっぱいいっぱいなのに!)
「どうしたんだ、機嫌悪そうだけど?」
「言うに事欠いて『悪そう?』バカなの? 悪いに決まってるじゃない。なんで機嫌が悪いかさっさと聞く! カウントダウン!」
圭はここはボケて「わかったお前、アレだろ」とかまそうとしたがわが身大事で自粛した。それは大正解だ。危うくラブコメ史上初の主人公殺害事件に発展していたところだ。
「なんかしたか。オレ」
「はぁ⁉ またまた、言うに事を欠いて『なんかしたか。オレ』ですって⁉ なにスカしてんのよ! わかってるのよ、あんたが
圭は思った「ようやくわかってくれたか」と。
長女
例えばハイタッチひとつ取っても油断したら脱臼し兼ねない。いや、実際はしないけどね。痛いのは間違いない。
消去法で選んだ
だがしかし、いくら人生を賭けた選択に勝利したとはいえ
「そりゃ……かわいいからだろ? 物静かだし……(超天使だし)」
「物静か! ほら、本音キターッ! それで圭はあの娘の物静かさに付け込んでエッチなことしたんでしょ! わ、私だってまだなのに……圭、あの娘まだ中3なのよ‼(責任取って結婚しなさいよ、とは言えない……)」
腰に手を当てて下からガンを飛ばす。元々目力強い系女子の
圭はポリポリと頭を掻いた。
(おいおい、なんなん? じゃあなにか? オレは熱出して寝込んでる
圭は声を大にして言いたい「精いっぱい、我慢したけど!」と。しかし言い訳が言い訳だけあって言葉に出来ない。どうせそんなこと言ったら「今回
(ダメだ……絶対とは言えない……)
いや、そこは言い切っていいだろ? なんやかんやで我慢できるだろ。自信持とうぜ! 自分が自分を信じてあげないで、一体だれがお前を信じるというのだ‼ そこは信じてやっていいんじゃないのか?
「
「なによ、怖い顔して。そんな顔しても退かないから、妹の事なんだからね!」
ただ、この時には圭は何か吹っ切れていた。勘違い、思い違い、すれ違い。そのどれかかも知れないし、どれでもないかも知れない。ただそういうのはどうでもいいと思った。
もしこの言葉が届かないなら、何を言っても届かないだろうと圭は思った。
「おまえ、じゃあさ。オレがお前の体調が悪い妹に手を出すって思ってんだなぁ」
***
「あのさ……なに泣いてんの? むしろ泣きたいのはオレなんだけどさぁ……
「うっさい! お姉さま言うな! 誰があんたのお姉さまなの! いや、将来的にはお姉さまかもだけど! だってしょうがなくない? あんたの部屋に
つまりは
「いや、それは言ったろ? 洗濯物お前んちに返してそれから
「そっか」
「おい。お姉さま、まさか『そっか』で済ませる気じゃねえだろうな?」
「あ……『てへぺろ』とかは……? ダメですよね?」
圭はマシマシの苦虫を噛み潰す顔して「世界で一番かわいい『てへぺろ』やってみろ」とハードル爆上げの命令をする。しかし、ここは『泣きホクロの女神さま』地上の物とは思えない『てへぺろ』で危機を脱した。
(くっ……か、かわいいじゃねえか……写真撮りてぇ……)
得意満面な顔をする
(私も重症だなぁ……ホント腹立つ。なんでこんな鈍感男子を……)
圭の頬っぺたを力任せに横に引っ張った「や、やめてくらさい~~めちゃ痛いれす」と間抜けな声で参ったをした。
(なんで私じゃないの‼ ばか圭‼)
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