第22話 異変に気付く。

『朝からお肉が食べたいと申しておりますが……』


 圭が『麻莉亜まりあ看病グループ』に「どうすればいいでしょうか」とメッセージを送って数分後。


 川守家のインターホンが鳴った。ドアを開けてみるとそこにはずっしりとした保冷バッグが置いてあった。


「なんじゃこりゃ?」


 意味も分からないまま圭は保冷バッグに貼られた付箋を見つける。


『お肉です。焼いてあげてね――ママより』


「ママって……おばさん……」


 あくまでも吉沢母は圭にママ呼びさせるつもりらしい。そろそろ圭も呼んであげたらいいのにと思うのは他人事だからだろうか。


 圭は保冷バッグを片手にリビングで待つ麻莉亜まりあの元へ。


「あの……その、みたい『ママ』って書いてる(汗)」


 カバンを付箋ごと見せると「う〜〜ん……諦めてないみたいねぇ、困ったなぁ~~どうしても圭ちゃんの『ママ』になりたいみたいですねぇ~~はぁ……」とママ呼びに反応し大きなため息を漏らした。


(これって私に対しての援護射撃のつもりなのかなぁ~~いや、絶対違うよねぇ……ママ呼びに憧れてるだけだ~~きっと許嫁が私じゃなくてもやってる)


 腕組をしたあと麻莉亜まりあは保冷バッグを開けお肉を発見する。


「うわっ、お肉! 圭ちゃん、お肉食べましょう! と相場が決まってます!」


 えっと……たぶんそんな相場はない。圭の疑問を置き去りに「お肉! お肉! お肉〜〜!」と謎のお肉売り場のテーマソングを熱唱する。


(こんな娘だったかなぁ……まぁ、気をゆるしてくれてるのはうれしいけど)


 圭はもしや熱にヤラれたのではないかと疑惑を感じながら肉食系麻莉亜まりあをみた。


(食欲がないより全然いいか、よし)


 そんな呑気な感想を抱いたのは一瞬だった。麻莉亜まりあは率先して保冷バッグからお肉と焼肉のタレ。しかもボトルを取り出し物色した。


「圭ちゃん、カルビ、鶏モモ肉、ハラミ、豚トロの順でお願いいたします!(もちろんご飯は大盛!)」


 オーダーが入った。満面の笑顔で。流石に不安になった圭は『麻莉亜まりあ看病グループ』にメッセージを送る。


『こんな風に申しておりますが……マジですか?』と。


 すると程なく吉沢ママから返事があった。


『うちの娘たち、はそうだから、ジャンジャン焼いてあげてね。お昼はから――ママより』


 えっ⁉ この量朝食なの? この時期ってなに? 今だけ食欲旺盛って意味? うちの娘たちって、雨音あまね沙世さよもか? この時期って吉沢姉妹冬眠でもするのか?


 圭はいくつもの疑問にぶち当たった。絡みがあまりなかったとはいえ、家族ぐるみの付き合い。食事会は年に何度もする。


 圭の記憶では麻莉亜まりあは決して食いしん坊ではない。むしろ少食で我慢してる風にも感じたことがない。しかも145センチでやせ型。


 ファミレスでも、ご飯はすくなめを注文している。


(まぁ……いいか。きっと『この時期』ってのは回復期って意味だろ。クマじゃないんだし、冬眠の食いだめじゃないだろ)


 圭はワンオペを開始した。麻莉亜まりあはというとベタにフォークとナイフを手に持ちテーブルて待ち構えた。


 圭は心を無にしてお肉を焼き続けることにした。


 ***

「圭ちゃん。少し寝ます(うつらうつら……)」


 散々お肉を食べたあと、病院で出た薬を飲みシャワーを浴びてからの生あくび。


「あっ……うん。シーツ換えといたから」


 呆気に取られた圭はそう言うしかない。片付けを終えた圭はリビングで軽く放心状態になった。


 よくわからないまま、朝からワンオペを終えソファーに座っていると「どしっ」と玄関先で物音がした。


 嫌な予感と共にドアを開けると第2の保冷バッグがあり、付箋には『お肉の追加です――ママより♡』と書かれてあった。


「マジかよ……(♡まで付与された……)」


 麻莉亜まりあは決して大食いキャラではない。だけど145センチの麻莉亜まりあの小柄な体に朝届けられたお肉は綺麗さっぱり消えた。


 しかし、その理由というか結果はお昼寝を終えた麻莉亜まりあの姿を見て解決した。いや、解決なんかしない。疑問と驚きの連続だ。


「おはよ。圭ちゃん。食っちゃ寝しちゃった(笑)」


 背伸びしながらアクビをする麻莉亜まりあのパジャマからお腹が見えた。


(あれ? デカくなってない?)


 もちろん、お腹の話ではない。いや背伸びした手足が長い気がする。いやいや、あきらかにパジャマの裾が短い。


麻莉亜まりあちゃん、もしかして――」


「圭ちゃん。。お肉食べたいです。ダメ、ですか?(うるっ)」


 手にはまたしてもフォークとナイフが握られている。やる気満々だ。


 意を決した圭は再び保冷バッグ第2弾との格闘を決意した。そして第2ラウンド終了と共に麻莉亜まりあはシャワーを浴びた。


 しかもシャワーの後麻莉亜まりあは脱衣所からラインで圭にあるお願いをした。


『圭ちゃん、なんか……圭ちゃんの服貸してもらえないですか?(圭ちゃんの服なんて……テレテレ)』


 圭はまだ新しいスェットを脱衣所に運び、麻莉亜まりあはそれを着た。


 圭の身長は172センチに対し麻莉亜まりあは145センチ。まるで大人と子供。しかも男女差がある。


(いくらフリーサイズとはいえそこまでフリーじゃないだろ)


 そんな疑問のままリビングで待っていると湯上がりの麻莉亜まりあがリビングに現れた。案の定「ぶっかぶかです〜〜」と呑気な声で長い袖を振る。


(いや、それほど『ぶっかぶか』じゃないのでは……)


「圭ちゃん、ごめんなさい。なんか眠いので先に寝ますね(ぺこり)」


「あっ、麻莉亜まりあちゃん⁉」


 麻莉亜まりあに圭の声が届かないまま、疑問を抱えた圭は翌朝を迎えるのだった。


 そして翌朝、圭の頭にあった「ありとあらゆる疑問」と向き合うことになる。


 ***

「もう、熱はなさそうだな。よかった」


 少し寒い室内に体温計の電子音が鳴り響く。体温は36度前半。完全に回復期だろう。しかし……


麻莉亜まりあちゃん、ちょっと聞きたいんだけど……」


「なんです、圭ちゃん。急に改まって。その前に――この度は本当にお世話になりました。圭ちゃんのおかげでとっても元気になりました。気のせいか一回り大きくなったような気がしますって、言い過ぎか(笑)」


 とん、とベットから立ち上がった麻莉亜まりあはつい先日まで圭の肩の高さをちょっと越えるくらいの身長だった。


 しかし……


麻莉亜まりあちゃん、なんかでかくなってない⁉」


 そう、それが今では目線をそんなに下げなくても目が合う。あきらかにこの2日で身長が伸びてる。


(待てよ……前にもこんなことをしてる……姉妹アイツらも確か……)


 圭は手足が伸び急に大人っぽさを増した許嫁を見た。



















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る