第13話 面倒事に気付く。

「いいね『エイのエイ太』麻莉亜まりあちゃんは何色が好きなの?」


 水族館の最寄り駅を降り水族館へ向かう道すがら圭は尋ねる。麻莉亜まりあは「ナイショです。私に似合う色……いえ、私に付けさせたい色を選んてくださいね」と。


 聞きようによったら「あなた色に染めて」と言わんばかりの積極トークを展開するが、鈍感なふたりは気付かないで『エイのエイ太』のカラーバリエーションを頭に浮かべて「ほわわわ〜〜ん」となっていた。


 まったくもう、初々しいぜ! ちくしょー!


 しかしここで圭がやってくれた「じゃあ……ピンクの『エイ太』にする? ピンク好きみたいだし」麻莉亜まりあは小首を傾げるが圭のニヤニヤした顔に『ブラとパンツの色』だと気付く。


「え、です! 史上最強にハレンチ圭ちゃんです! うぅ……覚えてろよぉ……」


 いつものポコポコ攻撃プラス捨てセリフを麻莉亜まりあは覚えた。


 ***

 水族館で意外にも小さな事件が起こる。事件には無縁のふたりなのだが。


「あれ川守かわもりじゃん?」


 水族館を一巡して売店に立ち寄った圭に声を掛けてきた女子がいた。振り返るとそこにはクラスの女子がいた。


 彼女とは小中も同じなのでそれなりに面識があった。


北見きたみ……?」


 北見瑞葉みずはは圭を見かけた瞬間「にやり」と意味ありげな笑顔を浮かべ圭に急接近。身長はやや低めなので圭の顔を覗き込む感じだ。


「見たよ、有名人! やっぱしの娘ってカノジョさんなの??」


 麻莉亜まりあとふたりして歩くイブの街で撮られた写真が圭の学校の裏サイトを賑わせていた。瑞葉みずははそのことを言っている。


「――でなに? 今日はひとりなの? ひとりでクリスマスの水族館って、もしかして振られて傷心中だったらメンゴ!」と手を合わせ片目をつむる。


 幸いにも麻莉亜まりあはトイレに行っていた。瑞葉みずはの急襲は偶然避けれたが、すぐに戻ってくるだろう。


「北見はどうなんだ? まさかひとりじゃないだろ」


 瑞葉みずはは活発な女子で友達も多い。浮いた話とか圭には伝わらないが、彼氏がいても不思議じゃない。


「ははっ、? 残念ながらクリスマスは家族で水族館です! 小学生かよ……トホホっ……」


 適当なことを言って瑞葉みずはをまこうとするが、そんなに簡単ではない。


 裏サイトの写真の正体と、今ひとりの理由を聞き出したくて瑞葉みずはは目を輝かせていた。


 そこに――


「圭ちゃん……?」


 ひょっこりと麻莉亜まりあは戻ってきて瑞葉みずはに会釈する。釣られて瑞葉みずはも同じように返した。


「あの……ですよね?」


 一瞬だけどうしようか迷ったが、一瞬だった。麻莉亜まりあは戸惑いながらも圭の顔を伺うと「クラスメイトの北見さん」と紹介された。


 小声で「」と付け加えてくれる許嫁がなんか誇らしく思えた。紹介された女子は「北見瑞葉みずはです」と軽く頭を下げた。


 麻莉亜まりあは少し考えて小声で「どうしますか、私との関係。黙っててもいいですよ」と。まぁ、良妻賢母的な配慮だ。許嫁と紹介されなくてもねません宣言だ。


 圭は小首を傾げ同じように少し考えて「こちらは吉沢さん。吉沢麻莉亜まりあさん。沙世さよの妹さん。俺とは幼馴染で……この間――許嫁になった」と紹介した。


〜〜⁉』


 瑞葉みずはは絶叫する。子供が多い水族館とはいえ、絶叫すると目立つ。その声を聞きつけて人影が集まってきた。そのひとつが――


「姉ちゃん、何! 恥ずかしいからやめてくれ」


 姉ちゃんと呼ぶ以上は弟なんだろう。よく見れば目元が似ている。


「うっさい! いま! えっ、マジなやつ? えっ、吉沢沙世さよってだよね? 全然似てないけど……許嫁ってマジか……都市伝説じゃなかったんだ」


 あまりの大声に麻莉亜まりあは圭の後に隠れる。しかし、許嫁と紹介された以上、良妻賢母の血が騒ぐ。


「はじめまして吉沢麻莉亜まりあです。圭ちゃんがいつもお世話になってます」


 瑞葉みずはに挨拶したのだが、反応したのは彼女ではなく、だった。


⁉」


「ん……? あっ、北見くん」


「えっ、なに? あんた知り合いなの?」


「えっ、クラスが同じだけど……」


「マジか……聞いて驚け弟よ。だって‼」


「えっ……」


 瑞葉みずはは弟の微妙過ぎる反応を他所に圭に詰め寄る。


「そういや私、川守と長い付き合いだけどライン知らないんだけど、なんで?」


「なんでと言われても、連絡し合うことがないからだろ」


「えぇ⁉ 冷たい〜〜許嫁さん、冷たいと思わない?? 小学から同じなんだよ? しかも何回もクラス同じなのに……それとも、許嫁さん。川守のライン聞いちゃダメな感じ?」


「そんなことないですよ、必要なら」


「なら、決定! 川守教えて‼」


「えっ、普通に嫌だけど。用事ないし……麻莉亜まりあちゃんがいいって言ったのはだろ? 特に必要性を感じない」


「えっ⁉ マジか……女子のライン知りたくないとか、どんだけ満たされてるの? いいから貸しなさいって‼」


 瑞葉みずはは無理やり圭のスマホに手を伸ばそうとしたが届かない。なぜならその間に麻莉亜まりあがそれとなく割って入った。


「えっと……許嫁さん?」


「吉沢です。吉沢麻莉亜まりあ。あの北見先輩、先程は圭ちゃんの前でほんの少しをしてしまいました」


「いい格好?」


「はい。私、考えてみたらヤキモチ焼きなんです。きっといま圭ちゃんが普通に教えちゃってたらたぶん、こっそりヤキモチを焼いてたと思います。その圭ちゃんも乗り気ではないようなので……今回はご遠慮頂ければと……」


 ぺこりんと頭を下げた。


「あの、川守に質問。その……尻に敷かれてるってことなの? 教えると許嫁さんが怖いってこと?」


「いや、別に怖くないけど……って言うかクラスのグループラインでわかるだろ?」


「いや、わかるけど! そういうんじゃないんだよなぁ~~尻に敷かれてる?」


「敷かれてねぇよ。麻莉亜まりあちゃんは優しい娘だし」


 実は面倒くさいことを根掘り葉掘り聞かれたくないから教えなかっただけなのだが、これはこれで知らないうちに麻莉亜まりあの中で圭の株が爆上がりした瞬間だった。


(やっぱし圭ちゃんは誠実な人だ)


 ほんわかした気持ちにひとりひた麻莉亜まりあなう。

















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