第12話 お揃いだと気付く。

「ごめん。麻莉亜まりあちゃん、実は――」


 麻莉亜まりあは受験勉強を終え再び圭の自宅のチャイムを鳴らした。その麻莉亜まりあに圭は正直に雨音あまねとのラインでのやり取りを話した。


「それで……?」


「いや、その慣れてなくって……女子と出掛けるの。サプライズとなると更にわけわからんと言うか……ごめん」


「ん……私としては圭ちゃんが女子と出掛けることに慣れてないっていうのはむしろ歓迎ですよ、サプライズだって、そういうの慣れた人じゃない方が好……」


 ここで麻莉亜まりあは言葉を切った。慌てて。


(あ、危ない……危うく『好き』っていいかけた‼ 汗が吹きでる! 制汗デオドラント〜〜)


 滑りかけた口を押さえた。別に『好き』のひとことふたこといいと思うのだが、本人はそうじゃないらしい。


(こんなんじゃ、私が『好き』って言い慣れてる感じじゃない⁉)


「――で、なに?」


 圭は会話が途切れたので聞き直した「なにって、なにでしょう??」としらを切るが圭も引かない。


 あわわわっとなりかけて、圭を見ると……


(むむっ……圭ちゃんたら半笑い……さては謀ったな‼)


「圭ちゃん、まさか……『好き』って言わせようとしてますか? いや、してますよね?」


「ははっ、バレたか。残念」


(な、なんて姑息こそくいとおしい圭ちゃん! エッチなことを言わせたい男子がいるって聞くけど、全然違う!)


 麻莉亜まりあはクラクラするほと、顔が真っ赤だ。理由は彼女がいま咄嗟に思いついたサプライズのせいだ。


(しょ、正直者は得をする……私の『トリセツ』覚えててくれてるんだ。だ、大好きって言って『ぎゅう』とかしたいけど……)


 そこはやはり、良妻賢母。階段はひとつひとつなのだ。先を急いで思い出の取りこぼしはしたくない。


(――でも……)


 麻莉亜まりあは手を伸ばし、圭の手を包み込むようにして、自分の顔の前でぎゅっとした。


「ま、麻莉亜まりあちゃん?」


「ふふっ、これ私からのサプライズです。これくらいですが、サプライズになりますか? これ以上はちょっとなんですけど……」


 コクコクと言葉が出せなくてただ頷く許嫁に麻莉亜まりあの心は温かく満たされる。


(やっぱり、圭ちゃんは圭ちゃんだ)


 ***

「ここなんてどうでしょう?」


 着替えを済ませたふたりは今近所のファミレスにいた。何のためというと……


「ここか……行ったことないけど、見えるかなぁ……海」


 そう、雨音あまねのオーダ『海の見えるファーストフード』を近所のファミレスで探していた。


 圭たちが通学に使っている私鉄『ハマ電』は海岸線を沿って沿線が伸びていた。


 ハマ電の駅前周辺に的を絞れば『海の見えるファーストフード』を見つけやすいと踏んでいた、


 しかし、意外と『海の見えるファーストフード』という条件を満たさない。


 そもそもファーストフードは沿線沿いに多い。海から少し内陸に走る国道にファーストフードは集中している。


 それはそうなんたが、ふたりは隣り合わせで圭のスマホを覗き込んで「ここどうですか?」「窓側の席が海かなぁ」などと、肩寄せあって小一時間「あーでもない、こーでもない」をやっている。


 いや、これ十分にデートじゃないだろうか。真剣なふたりは普段なら顔を真っ赤にしてしまう距離にいるのも気付かない。


「圭ちゃん、何かドリンク取ってきましょうか?」


 その言葉に圭はようやく「はっ」とする『海の見えるファーストフード』に気を取られて時間を忘れていた。


麻莉亜まりあちゃん、そろそろ出ようか。その、時間」


「あっ、そうですね、わすれてました」


 圭の言葉に麻莉亜まりあも我に返る。スマホを見ると14時。


 水族館に行って『海の見えるファーストフード』にたどり着くにはちょっとハードスケジュールになりそうだ。


 それでもふたりに焦りはなかった。幼馴染として育ったふたり。


 お互いの成長を間近で見てきた。今までは間近だったけど、それとなく見るだけの関係。


 それが今は計画を立てる間柄に変わっていた。


(圭ちゃんが私をその……選んでくれたからだ)


 溢れ出す感謝と『今』を共有している満足感が麻莉亜まりあを満たしたが、ここは「ちっちゃな幸せ欲しがり屋さん」の麻莉亜まりあ。今このときが十分なクリスマスプレゼントだと思いながらも、思い出の品が欲しい。


 水族館に向かうハマ電に揺られながら麻莉亜まりあは思い切って言葉にした。


「あの圭ちゃん。今日はクリスマスですよね」


「そうだね」


「その……急だったじゃないですか、その……い、許嫁とかもだし、クリスマス……そのデート?」


 あまりに圭の前で赤面するもんだから、麻莉亜まりあは自分の顔色がいつも赤いと思われてないか心配になる。


 その辺りは実は大丈夫。圭は圭で直視出来ないので、麻莉亜まりあの顔色に気づく余裕がない。初々しいふたりだ。


「うん」


「それでですね、私クリスマスプレゼント用意出来てなくって……」


「あっ、ごめん。オレもだ……ははっ……って笑い事じゃないか。雨音あまねに叱られるかな?」


 麻莉亜まりあは「ですよね〜〜」と目を細めて笑った。長女雨音あまねが腰に手を当てて圭を正座させる姿が目に浮かぶ。


「でも、それは仕方ないことかと。その……だって、急に色々決まったり変わったりで、びっくり仰天の日々だったんで……でも、私恥ずかしながら欲張りさんなんです。これも私の『トリセツ』です、テストには出ないですよ(笑)」


 声を抑えて笑いながら麻莉亜まりあは提案した。これから向かう水族館の『エイのエイ太』というマスコットがいる。


 地元ではなかなか人気のキャラでカラーバリエーション豊かなキーホルダーが販売されていた。


「お互いに選びっこしませんか『エイのエイ太』それでカバンに付けましょう」


 麻莉亜まりあのささやかな夢。圭とおそろのキーホルダーを通学用カバンにつけることだった。






















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