第11話 意外にいいかもと気付く。
「なんかごめん……」
圭は嵐のように現れた長女
とりあえず謝っとけって感じじゃない。事が事っていうか、場所が
許嫁として相手がノーブラかどうか把握しておかないとまでは、思わないが確かにモジモジしていたのは圭も気付いていた。
「け、圭ちゃん悪くないよ……私が忘れたっていうか慌てて……」
カーディガンの下に手を入れて空間を作りながら
理由はノーブラだから……だけではない。たった今姉によって自分の薄ピンクのブラが公開処刑されたところだ。
中学3年生である。恐らく思春期真っ只中。許嫁とはいえ、いや許嫁だからこそ恥ずかしい。
しかも「内側」を隠す配慮など
『びろ〜〜っん』とマジシャンがちっちゃな繋がった国旗を出すみたいにパーカーのポケットから雨音は取り出した。
すごく残念だけど、悪気はない。
(ノ、ノーブラよりこっちのほうがなんか罪深い……)
苦情は言いたいものの
人選を間違えたのかもと、反省しかけたが、
(水に流そう……そう、忘れよう。今日はクリスマスだし、凹んでたらもったいない!)
持ち前の「良妻賢母」スキルを持ち出し前向きに気持ちを修正仕掛けた矢先。
「あんた、おっちょこちょいなんだからこっちも忘れてるんじゃないかって、ほら」
「うわっ⁉ な、なんで⁉ なんでここで私のパンツ⁉ こ、こんなの頼んでない‼」
「いや、そりゃあんた。ブラ着け忘れる子でしょ? もしかしてパンツも忘れてんじゃないの? って。まぁ姉的な配慮ね、
『後は若いふたりに任せて』と言わんばかりに。しかし、この空気。若いふたりになんとか出来るものなのか。
沈黙が流れると思ったが、そこはやっぱり良妻賢母。間が開けば気まずくなることも目に見えてわかった。
「なんかごめんね。その……ちょっと出ててもらっていいかな? その着けないとだし」
ここは敢えて『着ける』という言葉を使った。もうボヤかしたところでどうにもなんない。
(そうよ、別に圭ちゃんが悪いわけじゃないし、胸は見られてないし……ブ、ブラとパンツも洗濯してるし!)
『かちゃ』
「なんかごめんね、朝からお姉ちゃんたちが騒がしくて」
照れ笑いを浮かべながら廊下で待つ圭を招き入れた。圭は気を使ってかなり離れたところで待っていた。
(やっぱ、優しい……)
こういうちっちゃな気づかいがたまらない。
ノーブラが解除されたとはいえ、まだ抱きつくような関係ではない。
(でも抱きつきたくないわけではない……のでした!)
こうして『ノーブラ事変』は無事解決された。
いや、無事じゃないか……
***
「少しやっとけば、心置きなく遊べるだろ?」
圭の提案だった。確かにまったく勉強もせずに、遊ぶのは罪悪感を感じるかも知れない。受験生の立場に立てば尚更だ。
(やっぱ、優しい……)
しかし、現実はそうではなかった。
圭はある人物からのラインに悪戦苦闘していた。まぁ、長女
『圭。何かサプライズ考えてるんでしょうね?』
『サプライズ……?』
『あんたさ、ふたりで過ごす初めてのクリスマスでしょ? サプライズは不可避よ!』
不可避と言われても……ボッチ生活を送ってきた圭だ。
毎年家族で過ごすか、幼馴染込みで両家族で忘年会を兼ねるかだった。急にサプライズと言われることがむしろ、サプライズだった。
『まぁ、そこは仕方ないかぁ。じゃあ食事とかどうすんの? まさかファミレスとかじゃないでしょうね?』
まさかと言われても。圭は高校生で
『ファミレスがダメならフードコートか?』
『いや、あんたの中ではファミレスよりフードコートのが上なの? バカなの?』
そんなことを言われたら、ボッチが板に付きつつある圭に残された食事プランはラーメン屋か牛丼チェーンしかない。
そもそも、高校生のおサイフ事情もあるが、流石に圭でもラーメン屋と牛丼チェーンはやめといた方がいいと思う。
『じゃあ、ファーストフードからの水族館ってのは?』
圭のラインを見て
(ファーストフードからの水族館か……悪くないかも)
高校生と中学3年生の許嫁。背伸びは程々でいいような気がした。そして
『海の見えるファーストフードね』
海際の席に座る
「いいじゃん、海の見えるファーストフード」
そう呟いて
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます