第5話 目標達成したことに気付く。
「ごめん、ごめん。それで?」
「うぅ……もう、圭ちゃんのばかぁ……あのね、聞いてほしいんだぁ……私、立ち聞きしながらね、許嫁は『あっ、やっぱり
ただ、いまこの時何を感じて何に戸惑い何に手を伸ばしたいか、圭にだけは知って欲しかった。だから思いが届く保証なんて
その時その瞬間の胸の高鳴りを知って欲しかった。そしてその原因が圭だということを――
知って欲しかった。
「でもね、圭ちゃん私の名前――呼んでくれたでしょ? 私……はじめはね、立ち聞きがバレたって思ったんだ。あっ、これ怒られちゃうやつだって……」
「違っただろ」
「うん、違った……うんうん、違うの。私、選ばれたんだって。圭ちゃんに選ばれたんだって……控え選手にもなれないような地味な私を選んでくれたんですよ、あなたは」
我慢していた感情が溢れた。限界を越えてしまった。
そして
それは悲しい涙じゃないことくらいは、圭でもわかる。圭は考えた挙げ句
「圭ちゃん、それズルいヤツです! なんか、なんかです‼ なんか遊び慣れた感じが嫌です~~‼ 圭ちゃんがサーファーさんみたいです!」
丸めた手でこぼれ落ちる涙を拭いながら、圭を睨んだ。圭はなんで睨まれたのか、何がズルいかも分からないまま、この日突然目の前に現れた『
***
「もう、圭ちゃん。話の腰を折らないでください。本題に戻します(ぷんぷん!)」
話の腰を折ったつもりは圭にはない。もちろん、彼は折ってない。ただ、これが許嫁になった幼馴染の照れ隠しだとわかるには、圭にはもっと経験値が必要だ。
彼は年下の許嫁に「ちゃんと聞いてくれないと怒りますから(ここ大事!)」と注文を付けられ、軽くしょげた。
(えっ⁉ なに、圭ちゃんイジけたの? ウソ、超かわいい……手……
「ところで、
「あっ……(忘れてた‼)」
しょげた顔を見るのに必死で本題を忘れていた。この頃にはこぼれた涙も乾いていた。
(よし、言おう!)
「私、地味なのは自覚あるし、わかってる。みんなそう思ってることも知ってる。どっかで、別にいいかって。どうやっても
姉ふたりの姿を思い描いて、本心からそう思った。
「あの、はじめてなんだ。その……誰かに選ばれるの。その……許嫁のことね(ボソッ)そういうの縁がないっていうか、逃げてたっていうか……不戦敗? うん、だからびっくり仰天! だってさ、あの圭ちゃんだよ?」
はっきり言って「どの?」って圭は思った。
自慢じゃないが、
「あの、圭ちゃん! 質問です! その……許嫁って……そにょ……あにょ……お、お、お嫁さんの卵みたいなもんだよね、違うかなぁ」
違うけど、違わない。圭は完全にこのシドロモドロで思っていることを伝えようとする『
「そ、そうだなぁ……もしかして、嫌だったり?」
圭の思ってもない質問に、とち狂った
「ごめん、『中目黒』はともかく、
「圭ちゃん……まさか、からかったの⁉ もう、もう、もう! 食らえ、渾身の許嫁チョップ‼」
よくわからない必殺技をポコポコと繰り出す。ようやく
「ありがと、圭ちゃん。すごく、す〜〜ごく、うれしかったよ? 人生で一番うれしかった! でね、ここからが本題になるの。手伝ってほしいの、お願い」
***
「つまり、
圭の思考回路ではそんな感じの理解に
「なんでそうなるの? 圭ちゃん、ごめんね。ちゃんと聞いてた?」
圭はちゃんと聞いてた。ちゃんと聞いてたが、ちゃんと理解できないだけ。
「でも、言ってたよね。いままで地味扱いしてきた人たちを見返したいって。違う?」
「ち、違わないけど! いや、違います! その、今まで地味で目立たなかった私が圭ちゃんに選ばれた! 選ばれるくらいなんだ『私スゲー』アピールを……いや、圭ちゃんと釣り合いが取れてる感じになりたい! どうしたら出来るでしょうか?(あとちょっとだけドヤりたい……)」
「地味を脱出したいと?」
「なんかちょっと引っかかる‼ そんな感じなんだけど! そこはかとなく引っかかります‼ 訂正を要求します!」
はじめは地味だと認めさせたかったはずだが、いざ地味公認候補となるとざわざわする
「それでね、アンケートなんだけど、私のどこが地味ですか?
「えっと……髪型かな。あとメガネ。それからそうだなぁ……前髪で顔を隠しすぎかなぁ……それとなんか自信なさげな――」
「待って! ちょ〜〜と待って! タイム‼ 圭ちゃん。親しき仲にも礼儀ありです! おわかりですか? 自分で言っときながらなんだけど、ディスられてる気が鼻につきます‼ わかってる! わかってますって! これ以上は泣くかもです‼ なので
公園のベンチに座り、ふたりはヘアスタイルの雑誌を覗き込む。最新の髪型から、顔の形で似合うタイプ別のオススメ髪型なんかが載っていた。
最初はペラペラとふたりでめくっていたものの段々ふたりは無口になってゆく。
圭が無口になった理由はコンタクトになって、髪をおろした
(雑誌のモデルさんより
同じ無口でも、理由は全然違っていた。そして圭は思った。
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