第2話 降臨したことに気付く。

【注意】

 需要があるかのための投稿です。需要がない場合は打ち切りの予定です。それでもいい方は読む進めてください。


***

「はい! けいちゃん!」


 お行儀のいい麻莉亜まりあはちゃんと挙手して発言をする。姉ふたりとは大違いだ。


「えっと、麻莉亜まりあちゃん」


 なんかひとつ違いなのだが、小学生の先生になった気分だ。それでもけいは微笑ましい気分になる。


けいちゃん、私どうしたらいいんでしょう?」


 ずいっと身を乗り出す。座る場所は勉強机かこたつ、それとベッドしかない。


 けいは何も考えずベッドに座ったものだから、麻莉亜まりあはその隣に座っていた。


 場所はベッド。ずいっと身を乗り出されたら、場所が場所だけにドキドキする。圭の先生気分は早くも終了した。


「ど、どうしたの?」


 幼馴染とはいえ、絡みが少ない系幼馴染。しかも部屋に二人きり。しかもしかもベットの上で身を乗り出している。距離が驚くほど近い。


「相談があります! 実は私が行ってる美容院がありまして。そこの美容師さんが腰痛で入院されまして……」


「はぁ……大変だね」


「はい! それでですね、ここからが相談なんですが、お母さんが『お正月前に美容院に行きなさい』って言うんです」


「でも、美容師さん入院してるんだよね?」


「はい。そこで雨音あまねちゃんの行ってる美容院に行くか、沙世さよちゃんが行ってる美容院に行くかなんですが……どっちがいいかなぁって」


 圭は彼女の姉のふたりの顔を思い浮かべた。性格は別としてここはセミロングを束ねた沙世さよより、見た目清楚な雨音あまねの髪型の方が麻莉亜まりあには似合っているように思えた。


雨音あまねの方かな……」


 何となく答えたのだが麻莉亜まりあは「う~~ん」と唸り声を上げる。どうやら詳しい場所を知らないらしい。


「オレ知ってるよ。雨音あまねにその美容院まで荷物取りに来るように前に言われたことあって。付いて行ったげるよ」


「えっ、ホントですか! うれしい……圭ちゃん。今日とかいいですか? 急……ですか?」


 眼鏡越しに上目使いで遠慮しながら尋ねる。圭は用事もないし……いや、今日は用事を入れるなと彼の母に厳命されていたのだ。


 圭の返事を待って、麻莉亜まりあはスマホを取り出し美容院に予約可能か確認をする。幸いなことにキャンセルが入り、一時間後なら出来るとのこと。


麻莉亜まりあちゃん、意外にしっかりしてるんだぁ)


 麻莉亜まりあのスマホでのやり取りを何となく見ていた圭だが、おっとりした口調ながらはっきりした声で受け答えする麻莉亜まりあが、今まで持っていたイメージと違っていた。


 それからひとつ気になったことがあった。


(眼鏡……何回もズレてるけど……)


 圭は麻莉亜まりあの電話が終わるまで待って、その事を尋ねた。


「実は眼鏡落としちゃって……鼻のところの金具が曲がっちゃいました」


「眼鏡屋さんとか行かないと。ほら、麻莉亜まりあちゃん、受験生だし……」


「そうなんですけど……実はコンタクト持ってるんです。でも、その……急に眼鏡やめるの恥ずかしいって言うか……」


 麻莉亜まりあはあごに人差し指を当て上を見ながら答えるが、その間も眼鏡はズレた。


「もし、使用感が合わないとかじゃないなら、眼鏡がなおる間だけでもコンタクトにしたら? 受験前に怪我でもしたら大変だし」


「それもそうですねぇ……わかりました。恥ずかしいですけど、笑わないでくださいね?」


 立ち上がってコンタクトを取りに帰ろうとした麻莉亜まりあの後姿を見て、圭は彼の母親の注文を思い出した。


「ツーショットですか?」


「ごめん、母さんが『ちゃんと仲良くしてるか』確認したいんだって。もし撮るの忘れたらお年玉大幅減額なんだ」


「まぁ! それは大変! 私でよければ――」


 麻莉亜まりあは「どうぞ」と圭の隣にくっついた。もちろん自撮りツーショットを撮りやすくするためだが、女子に免疫がない圭の脈拍は跳ね上がった。


 おさげで眼鏡をして、華奢な体つき。スタイルがいい雨音あまねや、モデル体型の沙世さよを見慣れているはずの圭だが、ふたりにはない緊張を感じた。


「あぁ……ごめん。自撮りってどうやったらいいんだろ」


 自撮りなど縁のない世界で生きてきた圭。自分のスマホにそういう機能があるのは知っていたが、使ったことがないし、この先使うことはないと思っていた。


「これはですね……」


 麻莉亜まりあは今の子(?)らしく、テキパキと圭のスマホを操作し自撮りツーショットを撮影した。


「この写真送って貰っていいですか?」


「いいよ、あっ……ごめん。オレ麻莉亜まりあちゃんの連絡先知らない」


 長女雨音あまねからは、荷物持ちの業務連絡がある。次女沙世さよからは「宿題写させて」のお願いがあるので連絡先は知っていた。


 まぁ、幼馴染とはいえ、学年が違うのだから知らなくても別に変じゃないが、改めて「絡みがなかった」ことを圭は再認識した。


 麻莉亜まりあが自宅にコンタクトを取りに帰る間、いま撮影した自撮りツーショットの写真を見ながら圭は思った。


「許嫁というか……明らかにだよなぁ……」


 写真の中のふたりはどう見ても、なかよし兄妹にしか見えなかった。写真を見ながら圭は階段を降り「指令」の結果を彼の母親に見せ「出かけてくる」とだけ告げて家を出た。


 風は吹いてないがクリスマスイブだ。真冬にしては日差しが暖かいがそれでも寒いのが苦手な圭にはつらい。


 玄関を出てわずかながらある門扉までの距離を歩いていると、白い息を吐きながら駆けてくる女子の姿が目に入る。


「お待たせしてすみません。圭ちゃん」


 ニコリとし、ほんの少し首を傾げるその仕草には見覚えがある。しかし――


「その……麻莉亜まりあちゃん?」


「はい! 麻莉亜まりあです!」


 眼鏡を外しコンタクトにした麻莉亜まりあは、これから美容院に行くのでおさげをやめ、髪をほどいていた。


 冬の澄んだ日差しの中で黒髪はきらきらと光って、圭の前には目をこすりたくなるほどのまだ幼さが残る女神が降臨した。















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