ザックリ言うと『男子高校生が名門女子サッカー部のコーチに就任して全国を目指す』そんな話。

アサガキタ

第1話 地味な許嫁だと気付く。

【閲覧注意】

 タイトルがラブコメ風ですが、中盤以降は女子サッカー要素強めです。女子サッカーに興味がない方は早めのリターンをお勧めします。(ただし、ラブコメ要素はあります!)


 ***


 その事件は親同士の宅飲み会で起こった。


 家が隣で同級生の子がいる親同士なのだから、子供の性別が違うとはいえそれなりに交流がある。


 ひとつの家庭は年子の三姉妹。もうひとつの家庭には高一のひとりっ子男子。ひとりっ子と三姉妹の次女と同じ学年だ。


 ここだけを切り取って聞けば、それなりにお年頃を抱えるご両家。ロマンスのひとつやふたつ転がっていても変じゃない。


 昨今の少子化問題を憂うこのご両家。


 子供たちに、特にひとりっ子男子に任せていたら、百年待ってもロマンスなんて転がり込んで来ないことはわかり切っていた。


 そこで『少子化対策ご近所会議』と銘打った宅飲み会に彼が緊急召集されたわけだが、酒の肴という説はさて置き、いきなり人生の選択を迫られる形になった。


 つまり、簡単に言うと3人のうちひとりを許嫁に定め交際するように。


『少子化対策ご近所会議』の議長は彼の母。彼は一切の拒否権を与えられず、三姉妹の父親からは「今この場で決めるように」と求められる始末。


 親たちの中で幾分マシな彼の父は苦笑いを浮かべ。三姉妹の母親は「あらあら、まぁまぁ」と、こんな感じだ。


 一応付け加えるが、親たちはそこそこ酔っぱらっている。それはさて置き、ここで三姉妹のスペックを簡単に触れよう。


 長女雨音あまねは見た目清楚系女子だ。スタイル抜群で料理も家事もこなす家庭的な娘。男子からも人気が高く『泣きほくろの女神』のふたつ名を持つ。


 しかし、実際は天然型サディスト。笑顔で無理難題を吹っかけ、困っているのを見るのが大好きな女子だ。しかし、それを知る男子は幼馴染の彼だけだった。


 次女沙世さよはスポーツ万能女子。何事も努力と根性で何とかなると思っているし、実際そうする。いわゆる脳筋女子だ。


 あと、力の加減が出来ないので、スキンシップがほぼ暴力。その暴力的なスキンシップで彼が悲鳴を上げれば『歓喜の声』と心の底から思っている。自己肯定感超級女子だ。


 三女麻莉亜まりあはそんな姉ふたりに圧倒されたのか、おっとりとした女の子。勉強も運動も料理もそこそこ出来るが、突出したところはない。控え目で地味な女子と言っていい。


 現在中学3年生で受験真っ只中に身を置いている。控え目だがしっかり者の末っ子。


 さて、自分が体育会系なら同級生なので、迷わず次女を選ぶところだが残念。今彼は根っからの帰宅部。あと理屈臭いので脳筋とはあまり相性がいいとは言えない。


 次女沙世さよとの関係は彼の「受け流す系包容力」と沙世さよの類まれなる「自己肯定感」で成立していた。


 ではスタイルで選ぶなら長女の雨音あまねだ。見た目も姉妹どころか学園随一と言っていい。


 しかし、悲しいかな。そこは幼馴染。彼はそれなりに雨音あまねの性格を知っていたし、それなり以上に被害もこうむってきた。もし「雨音あまね被害者の会」が設立されようものなら、彼は間違いなく団長になるだろう。


 ただ、今回許嫁に選ぼうが選ばなかろうが、雨音あまねからの詰問は避けられない。


 そうなると三女の麻莉亜まりあなのだが、おっとりとした性格ということもあり、お隣でありながらあまり絡みがない。特に迷惑をかけられたことも、無理難題の無茶振りをされた記憶もない。


 思い出に残る「絡み」が二人の間にはなかった。なぜか――


 結論から言おう。麻莉亜まりあは余りに地味だった。いや、に修正しよう。何が普通かと言えば麻莉亜まりあは彼に対して、何ひとつ攻撃をしない。


 まぁ攻撃しないのが普通なんだけど……しかし姉二人は違う。長女雨音あまねは精神攻撃及び「やんわりとしたパシリ」として彼を活用し、次女沙世さよの暴力的なスキンシップは、どこぞの惑星から来た電撃娘と変わらない。


 そう、そんな痛みを伴う幼馴染の中では麻莉亜まりあはあまりに普通で、地味だった。故に記憶に残る「絡み」がなかった。麻莉亜まりあの朝の挨拶は微笑みながらの会釈に対し、沙世さよは微笑みながらエルボーを食らわしてくる。


 いっそ、地味な方がいいんじゃないだろうか。


 そう、彼はここで保身に走った。尖った特性を持つふたりより、年下だしぎょしやすいかもという、淡~~い期待から麻莉亜まりあ咄嗟とっさに選んだ。


 彼が高一の冬休みのことだった。


 ***


「ところで、圭ちゃん。どうしてんですか?」


 当然の質問だ。


 長女雨音あまねは性格にひたすら問題はある。が! それはさて置き、意外に家庭的で家事全般は片手で回してしまうほど。スタイルもよく、見た目も学園随一。ふたつ名は「泣きほくろの女神」だ。


 次女沙世はスポーツ万能で華がある。引き締まった体はかっこよく、モデル体型だ。頭は脳筋だがさっぱりした性格。セミロングで同級生ながら、頼れる姉御肌な存在。


 それに比べ、三女麻莉亜まりあは地味だ。髪型はおさげで、メガネをしている。引っ込み思案でおっとりさんだ。


 波風を立てるような娘ではないが、ふたりを差し置いて選ばれる存在ではないように思えるし、彼女自身自覚もある。


 そう、麻莉亜まりあ自身それを重々承知していることなので、今回のことに「びっくり仰天」と地味なコメントをした。


 そこからの質問だ。


 因みに今日はクリスマスイブ。親たちの陰謀で彼の部屋に麻莉亜まりあを突撃させた。


 おっとり型の麻莉亜はそのことに気付いておらず、呑気な空気をまといながら質問してるわけだ。実のところ幼馴染とはいえ、二人きりで同じ部屋にいるのは初めてのことだ。


 次女とは学年も同じなので、勉強やゲームとかで彼の部屋によく来ていた。長女もまた労働力確保のため彼の部屋を頻繁に訪れ、買い物の荷物持ちをさせた。

 

 それに引き換え三女麻莉亜まりあはひとりでくるのは今日が初めてなのだ。彼はそのことに気づいていたが麻莉亜まりあはどうだろう……


「あの……圭ちゃん。あのね、私今日からここに住むってことなのかなぁ」


 因みに麻莉亜まりあは中3で、許嫁と同棲をごっちゃに理解していた。何をどうすればこのふたつをごっちゃに出来るのか。


「流石にそれは違うと思うよ」


 彼こと、川守かわもりけいは答えた。 


「そっか、よかった〜~いくらなんでもこの部屋に私の入れるの大変だもんね〜〜(ほっ)」


 ほわっとした笑顔で笑った。圭は思った。机とベットさえ入れば、今日から一緒に住むのは問題ないのかと。男女ですが、と。


 一緒に住めばまで……と妄想が暴走しかけた圭は我に戻る。


(こんな、ほわわ~んとした麻莉亜まりあちゃんにオレはなんてことを!)


 バカバカ! オレのバカ‼ みたいなことをしてしまいそうなのをグッと堪える圭だった。


 圭は麻莉亜まりあの問いかけをはぐらかした訳じゃない。ただ、明確な答えが自分の中になかった。


 容姿的にも姉たちに比べ目立たない。勉強やスポーツも姉たちには遠く及ばない。でも、


 長女雨音あまねのように容姿端麗でもなければ、常に学年トップの成績でもない。


 次女沙世のように一年ながら女子サッカーの名門校で中心選手になるような運動神経もない。


 だがしかし、麻莉亜の成績は学年でいつも十位くらいにいるし、スポーツも実は出来る。おっとりしてる割に出来るのだ。運動部を差し置いてクラスで3本の指に入るくらい出来た。単に目立たないだけ。


 そして、それは彼こと川守かわもり圭も同じだった。そうふたりは意外にも似てる。いや、敢えて言うならのだ。


 近すぎてそのことに誰も気づけないでいただけのふたりが、親の悪ノリで許嫁になる。思ってもない『ちょうどいい』ふたりの許嫁ライフが地味にスタートを切ろうとしていた。














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