番外編 私達のアルバム

「心中、うちの子にならない?」


「おいこら」


 優正はたまに私達の家に遊びに来る。


 そして毎回心中を自分の子にしようとする。


「だって可愛んだもん」


「分かるけど、ここちゃんは私と陽太君の子供なの」


「そこが一番信じられないんだよね」


「それ聞き飽きた」


 これも毎回言われることだけど、優正は私と陽太君に子供がいることが信じられないらしい。


 理由としては、陽太君にそういう知識がないだろうから。


「毎回言うけど陽太君を馬鹿にしすぎ」


「だって陽太だよ? 子供はコウノトリが運んでくるって信じてそうじゃん」


「陽太君だって男の子なんだよ。雰囲気さえ作れば私を求めてくれるのさ」


「求めたんでしょ。澪が無理やりそういう流れにしたんだろうね。まぁそのおかげで心中と遊べるんだけど」


 優正はそう言って心中を抱きしめる。


 確かに、陽太君を求めたのは私だけど、お互いの気持ちが重なったのは事実だ。


「心中の前でそういう話するの駄目だよ」


「陽太が話の流れを読んだ……だと」


 優正がまた意味の分からない言い方をする。


 ああいう言い方をすると心中が真似をするからやめて欲しい。


「僕だって成長するんだよ? 多分」


 確かに陽太君は高校生の時に比べて言葉の裏を考えるようになった。


 たまにだけど。


「それより優正、心中離して」


「なんで?」


「僕も心中を抱きしめたい」


 私達三人はいつも心中を取り合っている。


 それだけ可愛いのだ。


「私のこと捨てた陽太の言うことなんか聞かないもん」


「毎回言うけどなんの事?」


「教えない」


 陽太君は優正を捨てたんじゃなくて私を選んだだけだ。


 だいたい捨てる以前に優正は陽太君のものじゃない。


「心中、僕と優正、どっちがいい?」


「ようたくん」


「卑怯者め」


 ここまでがいつもの流れ。


 心中を取られた陽太君が嫉妬して、それを取り返す。


 ちなみにどっちがいいか聞くのは優正が陽太君に教えたことだから、優正は大人しく心中を解放する。


「なんか親子みたい」


「親子だもん」


 陽太君があぐらを組んでそこに心中を座らせて抱きしめてる光景を見る度に優正はそう言う。


 確かに親子みたいだ。親子だけど。


「現役カメラマンとしては撮りたくなる?」


「なる。普段撮れないから撮るね」


 優正の今の職業はカメラマン。


 人物以外を撮ることにしてるらしい。


 理由は、人だと気分の上がり下がりの振れ幅が大きすぎて撮りにくいらしい。


 だからうちに来ると毎回陽太君と心中が一緒に居るところを撮ってから帰る。


「盗撮が仕事になるなんてね」


「きっかけなんてそんなもんでしょ。私の場合は好きなものを写真に収めるのが好きだったからそれを仕事にしただけだし」


 それで食べていけてるのだからすごいことだ。


 好きなことを仕事にするのはとても大変なこと。


 好きだからってそのことが得意な訳でも、人より出来る訳でもない。


 優正だって別に最初から上手くいってた訳でもない。


 始めた頃は毎日「辞めたい。普通にOLか陽太の奥さんしたい」と言っていた。


 両方本気で言うぐらいに病んでいた時期もあるし、その度に陽太君に慰められていた。


 陽太君の慰めや、優正の諦めなさで今の仕事に就けている。


 そこは見習わなければいけないと思う。


「いつも思うけどさ」


「何?」


「陽太君とここちゃんを撮る時の優正、やばいよ?」


「だから人物撮影はしないのさ」


 優正が陽太君と心中を撮る時の顔はちょっと人には見せられない。


 陽太君と心中は「可愛い」って言うけど、私からしたら少しやばい。


 楽しそうだからいいのだけど、こうなるなら確かに人物撮影はしない方がいいような気がする。


「でも私達の結婚式の時は普通じゃなかった?」


「あぁ、あれは澪に嫉妬してたから。というか、澪が加わる時は嫉妬が勝ってにやけたりしないし」


 思い返せば確かに私が撮られてる時の優正は普通、というより虚無に近い。


 いわゆる仕事モードのような感じだ。


「でも澪と陽太も律儀だよね。私の撮った写真あげると何かしらのお返しくれてさ」


「だって優正プロだし」


 カメラでご飯を食べてる優正に写真を撮って貰ったのならちゃんとそれに見合ったお返しが必要だ。


 結婚式の時は嫌がってたけど無理やりお金を渡した。


 友人に頼む時でも渡した方がいいとネットで見たので、プロである優正に渡さないのはこちらとしても嫌だった。


 それ以降は優正に「生々しいからお金はやだ」って言われたので優正のお願いを聞くことにした。


 そしたら「心中を一日自由に出来る券が欲しい」と言ってきた。


 心中が生まれる前は陽太君を。


 陽太君の方はもちろん断った。


 そしたら「じゃあ三人でどっか行こ」と言われて、優正が可愛かったので三人で旅行に出かけた。


 心中の方も嫌だったけど、多分優正としては私と陽太君の二人だけの時間を作りたかったのだと思う。


 だからその優しさに甘えてたまに心中を優正に預けている。


 優正は仕事柄、色んな場所に行くので、心中も毎回「たのしかった」と言って帰ってくる。


「いつもありがとうね」


「なにさ急に。褒めてもこの写真はあげないからね」


「私が入らないとくれないよね」


「家族写真は仕事として撮ることにしてるけど、これは趣味だから」


 私のことを異物みたいに言うのをやめて欲しい。


「最高の一枚貰った」


「確かに」


 優正の写真撮影が始まるといつも陽太君と心中は途中で寝てしまう。


 心中も陽太君程ではないけどよく寝る子だ。


 そして二人の寝てる姿はまさに天使。


「これはご飯が進む」


「うちの旦那と子供でご飯食べるのやめなさいよ」


「給料として」


「それは趣味なんでしょ」


「澪ママのケチー」


「誰がママだ」


 私は心中のママだけど、こんな大きい子供はいない。


「でもほんとあなた達は子供を作るのが早いよね」


「静玖ちゃんと明月君?」


「そうそう。しーちゃんも結婚式の時お金渡してきたんだけどなんなの、ブーム?」


「素直に受け取りなさい」


 静玖ちゃんと明月君の二人も心中と同い年の子供がいる。


 家も近いからたまに遊んでいて、仲がいい。


「将来の旦那でしょ?」


「有り得そうで怖い」


 静玖ちゃんの子供は男の子なのでほんとにそうなる可能性がある。


「うちのお兄ちゃんは冷実さんを未だに落とせずにいるのにね」


「お姉ちゃん仕事で忙しいからね」


 それでもお姉ちゃんは未だに一真さんと会っているらしい。


 友達として。


「独り身は私だけか」


「色んなとこ行ってるけど、出会いはない?」


「陽太を超える出会いはないね。陽太に捨てられた私は二次元に生きると決めてるから」


「捨てられたって言うのやめて。陽太君は最初から私だけの陽太君だから」


「きっとifルートがくるって信じてるよ」


「そんなのはない」


 陽太君はどんなことがあっても私を、どんな時でも私を選ぶ。


 それが運命。


「じゃあしょうがない。澪」


「何?」


「家族写真撮ってあげる」


「ここちゃんに慰めて貰うの?」


「たまにはみんなで行こうよ。心中を含めて四人で」


 優正はたまにこういう可愛いことを言う。


 そんなことを言われたら断れない。


「なら優正も入れば?」


「それは趣味になるから。とりあえず一枚撮らせて」


「うん」


 私は可愛く眠る陽太君と心中を包み込むように抱きしめる。


 それを優正が珍しく「いいじゃん」と言って写真を撮った。


 その一枚は私達のアルバムに大切にしまわれた。

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いつも寝ている陽太君とそれを起こしてくれるお隣の氷室さん とりあえず 鳴 @naru539

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