番外編 私の演技

「良君とデートだぁ」


「文化祭回るだけだろ」


 今日は文化祭の日。


 良君と私はとある事情によってクラスの仕事がない。


 なので一日良君と一緒に居られる。


「どこ行く? あえて誰も居ない場所に行ってのんびり過ごす?」


「ほんとにクラスの奴らと何にもないんだよな?」


「ないって」


 良君は文化祭の準備が始まってからずっとそう聞いてくる。


 本当にクラスの人とは何にもないのに。


「だいたい悪いのはクラスの人なんだから私が責められることないでしょ?」


「それはそうだけど」


「確かにしつこい人はいたけど、私がにお願いしたら引いてくれたよ」


 色々言ってきた人に私が親切丁寧にお話したらちゃんと分かってくれた。


「何言ったのか聞かせろ」


「で、どこ行く?」


 私は話はここまでと言わんばかりに話を切り替える。


「言わないなら今日は一緒に居ないぞ」


「……いじわる」


「静玖が俺の為に色々してくれたのは知ってる。だけど、それなら俺も知っておきたいんだよ」


「なんで?」


「静玖だけに全部押し付けるのは嫌だから」


(ずるいじゃん)


 良君にそんなことを言われたら断ることなんて出来ない。


「分かった。話すけど嫌いにならないでね」


「何したんだよ」


「じゃあ最初から話すね」




 私達のクラスはお化け屋敷をすることになった。


 でもそれはいつの間にか決まっていたことで、いつ決まったのかは知らない。


 知らないのも当然だった。


 何せ私と良君には知らされてなかったのだから。


 そのことを知ったのはほんとにたまたま。


 私がトイレに行こうとしたらクラスの女子が話してるのが聞こえた。


「実行委員も人が悪いよね。明月君が怖いからってお化け屋敷にした理由を伝えないとか」


「ほんとね。怖いなら最初から関わらなければいいのに」


「あれでしょ。最優秀賞取って私は貢献しましたアピールしたいんでしょ。それで女子にモテたいとか考えてんだよ」


(なんのこと?)


 私にはなんの話をしてるのか分からなかった。


 お化け屋敷になった理由は私も聞いていない。


 それはみんなも同じだと思っていた。


 それなのに良君がどうとか言っている。


「影山さんにも伝えてないんでしょ?」


「だろうね。影山さんに伝えないでいいとこ見せたいのと、明月君に伝わるのが嫌だったんでしょ」


「クズだね」


 どうやら私と良君だけがお化け屋敷になった理由を聞かされてないらしい。


「それで最優秀賞取ってほんとにモテるとか思ってんのかね」


「あれじゃない。狙いは影山さんで、優秀な自分を見せたいとか」


「きも」


 なんだかどんどん最後の人の言葉が酷くなってくる。


「影山さんに伝えちゃう?」


「それしたら最優秀賞のおこぼれが貰えないじゃん」


「馬鹿と阿呆は使いよう」


 今のは少しイラッとした。


 多分どちらかは……。


「それってどっちがどっち?」


「馬鹿が実行委員で?」


「阿呆は明月君。後影山さんもか」


 そう言って三人は笑い出す。


(へぇ)


 多分気が弱い子なら聞いてられなくなるんだろうけど、私は違う。


 クラスの人がどんな風に思ってるか知らないけど、私はそんなに繊細じゃない。


(昔の私とは違うんだよね)


 言われた陰口は問い質す。


「ねぇ」


「な……」


 私が笑顔で三人に話しかけると私を見た途端に全員固まった。


「何かお話してたみたいだけど、私も交ぜて」


「えと、私達次の授業の話してただけで」


「そうなんだ。じゃあ阿呆な私も一緒にお話していい?」


 私が笑顔を崩さずに言うと、三人が肩を震わせた。


「ねぇ、どうしたの? さっきみたいにお話しようよ。だれが阿呆とかさ」


 多分この人達は私のことを人畜無害のアホの子とか思ってるんだと思う。


 だけどそれは良君達にだけ見せる素の表情。


 私が他の人と関わらないから知らないんだろうけど、私は自分の立ち位置が分かった時から常に違う自分を演じてきていた。


 だから演じるのは得意だ。


 ちなみに今は怒ったよーくんを真似ている。


 少しアレンジは加えているけど。


「ねぇ早く話そうよ。チャイムが鳴ったら帰して貰えるとか考えないでね」


 よーくんを真似てると言うのは少し失礼だ。


 よーくんはきっと罪悪感でいっぱいになってるんだろうけど、私は今怒りの感情でいっぱいだ。


「早く」


 私がそう真顔で言い続けたら全部話してくれた。


 なんでうちのクラスがお化け屋敷をすることになったのか、それにどう良君が絡んでいるのか。


 それを聞いた私は泣いている三人を放置して実行委員の人のところに向かった。




「それで話って何かな? まだ準備が整ってないんだけど」


 私はさっきまでの怒りを全て内に隠して実行委員の人を呼び出した。


 この人から見たら、今の私は今から告白をしようとしてるようにでも見えているのだろうか。


(シンプルに嫌い)


 そうは思っても顔には出さない。


 今はいい子を演じないといけない。


「あの、なんでクラスの出し物がお化け屋敷になったんですか?」


 私は出来るだけ馬鹿っぽく。


 言ってしまえばいつも通りに話す。


 誰が馬鹿だ。


「それはね、クラスにお化け役が向いている人が居るからだよ」


「それって誰ですか?」


「それはね、明月君だよ」


「な、んで良君が?」


(まだだよ)


「だって明月君は顔が怖いだろ? 立っているだけでお化けみたいなものじゃないか。それにどうせ明月君だって何もしたくないだろうし、ちょうどいいだろ? ほらウィンウィンってやつ」


(怒るな。顔に出すな)


 この人が隠さないで全部話すのはきっと私に呼び出されたから。


 それだけで勘違い出来るなんて単純な人だ。


「良君に聞いたんですか?」


「聞かなくても分かるよ。明月君は行事なんかには興味無いだろうし、それに本番だってやることなくて暇だろうしね」


(もういいか)


 聞いていて怒りを抑えるのが辛くなってきた。


「だから影山さん。俺と文化祭を」


「うるさい」


「まわ……え?」


「うるさいって言ったの。良君のことを何も知らないで勝手なことを言って。そうやって人の気持ちを考えないからモテないんだよ」


 良君の気持ちも私の気持ちも何も考えていない。


 良君が行事に興味が無い? それなら体育祭で百メートルやリレーで一位なんて取らない。


 それに。


「文化祭の当日は私とデートする約束があるから良君は忙しいんだよ。だからお化け役が欲しいなら暇なあなたがやればいい」


 もちろん約束はこれからする。


 でもきっと良君は優しいから一緒に回ってくれる。


「いや、影山さん。冷静になって考えてみてよ。明月君みたいな人より俺の方が……」


「なに?」


「いや、あの」


「良君よりあなたの方がなに?」


 多分今は良君に見せられない顔をしている。


「何か勘違いしてるみたいだからちゃんと言っておくね」


 私は顔をいつもの笑顔に戻す。


 それを見た実行委員の人も安心したような顔をする。


「私はあなたが嫌い。良君の気持ちを考えないで勝手なことをするあなたが嫌い。しかも自分がモテたいからって良君を使ったからもっと嫌い。要するに私はあなたが大嫌いだから」


 多分また良君に見せられない顔になった。


 実行委員の人も固まってしまった。


「分かったかな? 大嫌いなあなたと文化祭を回ることはしないから。それと良君は私と文化祭を回るので忙しいから当日は何もしないよ?」


 良君を使って何かをしようなんて考えなければ私だってしょうがないってなって良君と一緒にお化け役でもなんでもやった。


 だけどもうやだ。


 私はそんな勝手な人の言う事を聞きたくない。


 私はいい子ではないのだから。


「じゃあね」


 私はそう言って教室を出た。


 察しのいい良君は何かあったことには気づいたけど、内容までは知らなかったので「なんでもないよ」で誤魔化した。


 そして私に怯えてる人は放置して準備だけ手伝った。




「てな感じです」


 本当は話したくなかった。


 きっと良君に幻滅されるから。


「なるほどな。別に静玖が無理することもなかったんだけどな」


「え?」


(私がやったのいらないことだったの?)


 良君に「無駄なことをしなくていい」なんて言われたら泣く。


「あぁ、やらない方が良かったとかじゃないぞ? 言ってくれれば俺がやったって話だよ」


「良君が?」


「静玖が困るなら俺がどうにかするよ。静玖にはずっと笑ってて欲しいからな」


「……良君のばか」


 そんなことを不意に言われたら照れてしまう。


 きっと今は別の意味で良君に顔を見せられない。


「結局うちのクラスのお化け役って誰がやってるんだ?」


「……雰囲気だけだよ?」


 これは嘘だ。


 お化け役は実行委員の人がやっている。


 だけどなんとなく教えない方が面白いことになる気がしたので教えない。


「うちのクラスなんてどうでもいいよ。それより文化祭デートしよ」


「だから……まぁいいか」


 やっと認めてくれたので、私は良君の手を握る。


 良君は離そうとしたけど、絶対に離さない。


 見せつけるんだ。私と良君の間には誰も入れないんだって。

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