番外編 静玖と花火
「どう、私の演技は」
「素だろ」
日野と氷室を含めた四人で花火大会に行く約束をしていたけど、静玖が宿題を終わらせていなかった。
その静玖曰く「これはね、日野君と氷室さんをくっつけよう大作戦なの」と意味の分からない言い訳をしていた。
どうやら二人を付き合わせる為にわざと宿題をやらなかったと言っている。
実際は花火大会に行きたくてしょうがなく、浴衣を着ている。
「それ脱がないのか?」
「良君のえっちぃー」
「……」
「え、無言? 傷つくよ」
静玖は少し現実を見た方がいい。
もし泣いたら責任を取って慰める。
「良君」
「なんだ?」
「怒ってる?」
「別に。やらないと思ってたから今日静玖の家に来た訳だからな」
静玖が宿題をやるなんて微塵も思っていなかった。
だから時間がある時は静玖の宿題を見ていたけど、夏休みは家の用で呼ばれることも多く全てを見ることが出来なかった。
「私もね、やろうと思ってたんだよ」
「知ってる。静玖は勉強が嫌いなのは確かにあるんだろうけど、それ以上に他のことに目がいきすぎなんだよな」
今は居ないけど、静玖の家には弟と妹が居る。
その面倒を見なければいけないから宿題も勉強もやる時間が取れないらしい。
少しレベルの高いところに来たとも言っていたけど。
「みんなで花火大会行きたかったから宿題やろうとしたんだけど、お母さんに『お願い出来る?』って言われたら断れなくて」
「人の家庭に口を出すもんじゃないんだろうけど、静玖のことも少し考えあげて欲しいんだよな」
どうやら静玖は家でいい子ちゃんをやっているみたいだ。
いい子ちゃんと言うと聞こえが悪いけど、初めて学校で会った時のを家でもやっているみたいだ。
だからあんまり強く言い返したり出来ないらしい。
「お母さんも大変なんだよ。良君はそれも分かった上で言ってくれてるんだろうけど」
「言い過ぎた、悪い」
静玖に謝っても仕方ないけど、静玖は俺に家族を会わせたくないようなので静玖に謝るしかない。
「良君は悪くないよ。それより宿題やるならお家出たいな」
「今日なら家でもいいんだけど帰りがな」
俺が送ればいいけど、時間によっては補導されかねない。
「……私がお泊まりすれば全部解決?」
「冷静になれ。明日は学校だ」
「それが問題なら制服とか持ってくし、なんなら学校行く次いでにお家に寄れば大丈夫だよ」
確かに家から学校の間に静玖の家があるから荷物に関しては平気だ。
「お母様なら許してくれるんじゃない?」
だから必死に理由を探しているのだ。
母さんはなんだかんだで静玖のことを気に入っている。
毎日のように「静玖さんとはいつ結婚するんですか?」と聞いてくるぐらいに。
「何か駄目な理由あるの?」
「家のことはいいのか?」
「お母さん的には私にわがままを言って欲しいみたいだから多分平気」
こういう時は「男と同じ屋根の下で寝て平気なのか?」と言うと引くものなんだろうけど、静玖なら「むしろウェルカムだよ?」とか言いそうだ。
「それとも良君は私がお家にお泊まりするの嫌?」
静玖がとても悲しそうな顔をする。
「嫌な訳ないだろ。分かったよ。でももし母さんが駄目だって言ったら別の場所にするからな」
「うん! ありがとう」
そんな満面の笑みを向けられたら、もし母さんに断られてもどうにかしないとなんて思ってしまう。
まぁそんなのは杞憂に終わるのだけど。
「静玖さんいらっしゃい。寝室は良と一緒で良かったですか?」
「はい。良君の隣で寝ます」
「やめろ」
そんな拷問みたいなことをされたら色々と困る。
「あら? 良は静玖さんが隣で寝ると何か困ることがあるんですか?」
「あるだろ。俺だって男なんだよ」
世間一般の男を日野みたいなやつだと思われても困る。
静玖みたいな子が隣で無防備に寝てたら魔が差すことだってあるかもしれない。
「良君」
「なんだよ」
「既成事実つく、あいたっ」
静玖が意味の分からないことを言いそうだったからデコピンをして黙らせる。
「良! 静玖さんの顔に傷でもついたらどう責任を取るんですか。結婚ですか」
「あんたも黙れよ。静玖に会ってからキャラ変わり過ぎだろ」
母さんのイメージはもっと冷たいものだと思っていた。
だけど静玖に会って、日野と氷室に会っていってどんどんイメージが変わっていく。
「私は私ですよ?」
「そうか……」
「それより早く宿題を済ませたらどうです?」
「誰が止めたんだよ。あんた前に玄関で日野達を止めてた時キレたろ」
「良はお客様じゃないですし、静玖さんもいつかは家族ですからいいのですよ」
自分勝手過ぎる。
「家族……いい」
静玖がなんだか嬉しそうにしてるからもういい。
「じゃあ俺達は部屋に行くから邪魔するなよ」
「邪魔なんて。やることは宿題を済ませてからにしなさいね」
「そうだな」
「やることって、良君!」
多分勘違いしてるんだろうけどめんどくさいから無視して部屋に向かう。
そしてソワソワしてる静玖の宿題が終わったのは夜の八時を回ったところだった。
「お、終わったね」
「そうだな。多分ソワソワしてなかったらもっと早く終わったんだろうけど」
「だ、だって。宿題終わったらやるって」
「あぁ、そうか」
そういえば静玖とやることがあった。
立ち上がって静玖に近づき手を伸ばす。
「り、良君。確かにさっきはあんなこと言ったけど、まだ私達には早いと言うか。嫌な訳じゃないんだよ? 心の準備が出来てないと言うか、でも良君がどうしてもって言うなら私はどんなことでも受け入れるよ? あ、これは良君に全部責任ん擦り付けるとかじゃなくてね、えっとね」
静玖がとてつもなく早口で何か言い訳をしている。
見てて面白いからつい眺めてしまった。
「いいから行くぞ」
「え、まさかのお母様に見られながら?」
「どっかで見てそうだよな」
俺は静玖の勘違いを適当に流しながら静玖の手を引いて歩く。
「り、良君が今日は大胆」
「静玖はさ、花火大会行きたかったんだよな」
「え、うん」
それは着ている浴衣を見れば分かる。
家に来る前に着替えないのか聞いたら「気分だけでも楽しみたいんだ」と言って着替えを持ってきたけど家で着替えはしなかった。
「さすがに今からじゃ花火大会に間に合わないからな」
「分かってるよ?」
「だから気分だけでも楽しんで貰おうと思ってな」
「え?」
俺は静玖を庭まで連れて来てある物を見せる。
「花火だ」
「手持ちだけどな。宿題は出来てないだろうから買っておいた。花火大会じゃないけどこれでいいか?」
俺が聞くと静玖は黙って俺の肩に頭突きしてきた。
「良くない訳ないじゃん」
「なら良かった」
それから俺達は手持ち花火をやった。
花火の火に照らされた静玖の花火が描かれた浴衣姿を見て「綺麗だな」と言ったのはきっとただの気まぐれ。
火に照らされた静玖の顔が赤かったのはきっと花火のせいだ。
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