番外編 水着と傷
最近の私には悩みがある。
それは悩むとこが多いこと。
陽太君はどう思ってくれるのかとか、陽太君は気に入ってくれるのかとか。
それは好きを自覚する前からで、やっぱり私は陽太君のことがずっと好きだったんだと今更に思う。
そして今も絶賛悩み中だ。
「水着ってなんでこんなに種類あるのさ」
私は今水着売り場に居る。
それというのも、今度私が嫌だと言ってなしになったプールに私がみんなを誘って行くからだ。
影山さんと明月君にはまだ背中の傷のことは言ってないけど、二人もきっと傷があるからといって友達をやめたりはしないと信じたから。
まぁ正直陽太君に嫌われなければなんでもいい感がないと言えば嘘になるけど、やっぱり二人にもちゃんと知った上で友達になって欲しい。
だけど困ったことに私はプールに行ったことがない。
何せ友達いない歴は今の歳から一つ引いた年数なのだから。
だからプールは学校のに数回入っただけだ。
学校のプールで軽い虐めを受けてからは入らなくなったけど。
そんなのはどうでもよくて、今はいち早く陽太君好みの水着を選んでデート中のお姉ちゃんと陽太君を引き離さなければいけない。
今日のお買い物はもちろん陽太君もついて来ている。
だけど水着は本番のお楽しみにしたいからお姉ちゃんを無理やり連れて来て陽太君に介護して貰っている。
だったら陽太君を家に置いてくればいいって? そんなの嫌だ。私は陽太君と一緒に居たいのだから。
だから早く水着を選んでデート(介護)をやめさせに行かないといけないのだけど。
「決まんない」
陽太君の好きな水着を選ぶと決めて来たけど、それが多分一番難しい。
陽太君に聞いたら「氷室さんはなんでも似合う」とか言ってくるだろうし。
それを考えると私の趣味嗜好で選んだ方がいいのだけど、本当にそれでいいのか悩んでしまう。
そんなこんなではや三十分は悩んでいる。
私の買い物は即断即決で服なんかもぱっと見て五分程度で決めて買う。
だからお母さんやお姉ちゃんに「ほんとに女子?」と言われることがある。
そう言うお母さんも早いんだけど。
そんな私が悩むのは陽太君絡みの時だけだ。
誕生日のプレゼントの時だってお姉ちゃん達にあげる物は二分もかからずに決まるのに。
(私、陽太君のこと好き過ぎでは?)
陽太君と一緒に居たい、陽太君に可愛いと思って貰いたい、陽太君に好きになって貰いたい。
陽太君のことを考えると楽しさしかない。
陽太君の為ならなんでもするし、陽太になら全てを差し出せる。
(ちょっと重いかな?)
でもそれぐらいの気持ちだ。
こうやって陽太君のことを考えて脱線するから時間がかかってしまう。
ここは一から決める。
まずは色。
(これは明るめだよね)
陽太君に私のイメージはオレンジと言われた。
だから寒色よりかは暖色で探している。
陽太君にはオレンジと言われたけど、私はそこまで明るくはない気がするし、そういうのは影山さんなイメージがあるからオレンジはやめる。
そうなると赤とかになるけど、赤も派手で少し苦手だ。
そして最終的に残ったのが。
「ピンク……」
断じてピンクが嫌いとかではない。
ただ陽太君には(見られてないけど)褒められた下着を連想してしまうだけだ。
(褒められたもんね)
服の上にも滲み出る良さがきっとあったのだと思うことにする。
なので色はピンクに決まった。
その後は早かった。
別に隣に影山さんがいるのを気にした訳ではないけど、フリルの水着を選んだ。
断じて胸が小さいのを隠す為ではない。
それと次いでにラッシュガードも買った。
これは傷を隠す為であって、陽太君に水着を見られるのが恥ずかしいとかではない。
そんなことを考えながらお会計を済まして陽太君とお姉ちゃんの居るというカフェに向かう。
そこではお姉ちゃんが陽太君の手を震えながら握っていた。
無理やり連れ出した私としてはこれを怒れない。
陽太君は「風邪?」と少し勘違いしているみたいだった。
どうやらお姉ちゃんは陽太君の前では素の自分でいるようだ。
そんな震えるお姉ちゃんと陽太君と一緒に家に帰った。
そしてプールの日に影山さんと明月君に背中の傷を見せたら影山さんは「氷室さんって肌綺麗だよね」と陽太君みたいなことを言って、明月君は「そうか」とだけ言った。
影山さんに「傷見えてる?」って聞いたら「うん。傷があってもなくても氷室さんは氷室さんじゃん」とまたもや陽太君みたいなことを言われて嬉しさとジェラシーが一緒にきた。
明月君は「同情とかしないぞ? その傷がどんなのかは氷室にしか分からないんだから、俺がとやかく言うことはない」と普通に嬉しいことを言われた。
まぁその後に影山さんが「良君、氷室さんのこと見すぎ! それにそんなかっこいいことは私にもっと言って」と怒っていた。
泣き出しそうになった私の手を陽太君が優しく握ってくれて、優しい笑顔を向けられた時、私は高校では人に恵まれたんだなって改めて実感した。
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