番外編 お姉ちゃんと喧嘩

「澪、ごめんね」


 帰ってきたお姉ちゃんにそう言われて「……付き合ったの?」と更に涙を溢れさせながら聞いた。


「えと、陽太君のことは好きだよ? でも付き合うとかは思ってないから」


「え?」


「今日というか最近起こしに行くとね、陽太君寂しそうなの。理由分かる?」


「……私が行かないから?」


「そう。私じゃ駄目なんだよ」


 それはきっと今だけだ。


 このまま私が会わなくなったらきっと陽太君はお姉ちゃんを好きになる。


「澪、来て」


 お姉ちゃんに呼ばれたので後をついて行く。


「とりあえず顔洗って。そしたら私がお化粧をするから」


「どうしたの?」


 お姉ちゃんは私がお化粧をするのをあまりいいと思っていない。


 だから少し驚く。


「まぁ今日で最後だろうから、記念に?」


「どゆこと?」


「いいから。早くしないとね」


 お姉ちゃんに急かされながら顔を洗い、そしてお姉ちゃんに薄くお化粧をして貰った。


「目元も隠せたし大丈夫かな」


「陽太君と会うまで時間あるよ?」


「気にしないで。それより澪はいつまで陽太君を困らせるの?」


「それは……」


 私だって陽太君を起こしに行きたい。


 でも……。


「このままだとほんとに陽太君が澪のこと嫌いになるよ」


「そんなの言われなくても分かってるよ!」


「じゃあ誰かに取られるまでそのまま静観するの?」


「それは……」


「それで陽太君が誰かと付き合うってことになったら陽太君を責める? それとも略奪でもする?」


 さっきまで優しかったお姉ちゃんが急にめんどくさいことを言い出す。


「なにが言いたいの」


「そうやって分からないフリをしてもいいけど、失ってからやっぱり欲しいって思っても遅いんだよ」


「お姉ちゃんになにが分かるの?」


 これは多分いけないやつだ。


「人を本気で好きになったことがないお姉ちゃんに私の気持ちは分からないでしょ」


「分からないよ? 好きな人を困らせる気持ちも私には分からない。陽太君を困らせるのは楽しい?」


「だからそんな訳ないでしょ! 私だって出来るのなら」


「それは言い訳。澪の今してるのは陽太君を困らせて興味を持って貰おうとしてるだけ。あれだね、小学生男子が好きな女子にやるやつ」


 そんなの言われなくても分かってる。


 分かってたって行動と気持ちが違うことはある。


「結局お姉ちゃんはなにが言いたいの?」


「さっきから言ってるけど、普通にしなさい」


「普通ってなにさ。私は普通だよ」


 そうじゃないのは自分でも分かってる。


 ただいつもと違うお姉ちゃんに反発したいだけ。


 これじゃほんとに小学生だ。


「澪は陽太君と付き合いたいの?」


「うん」


「今のままだと駄目なのは分かってる?」


「うん」


「どうしたらいいのかも分かってる?」


「うん」


「じゃあいいや。もう駄目っぽい」


 お姉ちゃんはそう言うとその場に崩れた。


「澪の言葉責め怖い」


「お姉ちゃんが変なこと言うからでしょ」


「確認したかったの。このままだとほんとに気づいたら疎遠になってたとかありそうだから」


「そうだろうけど」


 私はお姉ちゃんに肩を貸しながら洗面所を出る。


 すると廊下の途中でチャイムが鳴ったのでお姉ちゃんをその場に放置して玄関に向かった。


 すると陽太君が居て、お姉ちゃんに呼ばれたと言い全て察した。


 お化粧直しをしたのもこの為。


 お姉ちゃんはちゃんと陽太君と話させたかったのだ。


 二人だけの時は、話が脱線して本題の話なんて出来ないから。


 ちゃんと陽太君と話せて良かった。


 しっかりと陽太君の好きな私を知ることが出来た。


 お姉ちゃんには感謝の気持ちはあるけど、さっきの喧嘩? で少し気まずいから放置して、陽太君が帰ったらちゃんと謝ることにする。


 私はこういう時につくづく思う。


 恵まれていると。

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