番外編 静玖、本気出す

「良君良君」


「なんだよ」


「ちょっと本気でやばめです」


「だろうな」


 私は今日も良君のお家で追試対策をしている。


 ただ良君の出してくれた問題が全然解けない。


「なんで?」


「お前がちゃんと勉強しないからだ」


「してるけど?」


 私はちゃんと良君の話を聞いて問題を解いている。


「勉強始めて五分で飽きたって遊び始めるのは誰だ」


「誰?」


「お前だろ」


 そんなことは……まぁないこともない。


 良君と一緒なのが嬉しくて何かしたいのだ。


「じゃあ隣来てよ」


 良君はずっと私の向かい側に居る。


 隣で手取り足取り教えて貰いたいのに来てくれない。


「隣に行ったら余計進まないだろ」


「良君何する気なの?」


「お前がだよ」


 別に私は何もしない。


 ただ良君を眺める時間が増えるだけだ。


「だって勉強ってしてると何の為にしてるんだろって思わない?」


「それを考え出したら覚えるのは無理だな」


「そうなの?」


「人間、興味の無いものは覚えようとしても頭に入らないからな」


 確かに私は良君のことならなんでも覚えられるけど、他のことはあんまり覚えられない。


 もちろん日野君と氷室さんのことも覚えられるけど、良君程すんなりは覚えられない。


「じゃあ良君の昔のお話を問題と合わせたら覚えられるんじゃない?」


 私は天才かもしれない。


「めんどくさいから却下」


「なんでよ!」


「勉強に興味を持つ方法か」


 良君の中では本当に無かったことにされた。


「ご褒美があるとやる気出るか?」


「良君が私と付き合うとか?」


「ご褒美で付き合った関係でいいなら」


「良君が最近冷たい。どうしたの、けんたいき?」


 意味はよく分からないけど、多分あってるはず。


「意味が分からないなら使うな。お前を知ってきたから適当に相手してるだけだよ」


「ぶー。じゃあ日野君みたいに軽く可愛いとか言ってよ。それなりにやる気出るから」


「ご褒美の内容はそれでいいか?」


「やっぱり冷たい。良君に泣かされたってお母様に言うよ」


「お前は結局……なんでもない」


 いつもなら洋佳さんの名前を出すと諦めて優しくしてくれるのに、今日はなんだか寂しそうな顔をする。


「もしかして、私が留年したりするのが嫌ってこと?」


「そういうとこだけ分かるんだよな。問題分からないくせに」


「良君のことなら応用が出来るんだよ」


 普通を装っているけど多分顔が赤い。


 良君が私と一緒に居たいって思ってくれてる。


 それが嬉しい。


「良君ってそういうところあるよね。大好き、結婚しよ」


「せめて高校卒業しないとな」


「良君は勉強の頑張らせ方が上手いね。将来は先生かな」


 留年なんかしたら一年結婚が遅れて、もし退学になんかなったら一生良君と結婚出来なくなる。


「結婚だなんだは置いとくとして、集中出来るな?」


「ご褒美欲しいって言ったら嫌?」


「……内容による」


 なんか良君に顔を逸らされた。


「嫌ならいいの。頑張れるから、きっと」


「嫌とかじゃない。ご褒美でやる気が出るのなら言ってくれていい」


「ほんとに? じゃあ良君の作った問題解けたらぎゅってしてなでなでして」


 私からすることはあるけど、良君からされたことはないから一度されてみたい。


「だめ?」


「……分かった。ただし一発勝負だからな」


「本気出す」


 それから私は本気で勉強をして無事良君の作った問題を全問正解した。


「わざとか?」


「愛の力」


「ほんとにそんな気がして何も言えない」


 実際さっきは本当に分からなかったけど、本気を出して勉強したらすらすら解けた。


「じゃあ、はい」


 私は机から外れて両手を開く。


「約束は約束か」


 そう言って良君は立ち上がって私の前に来た。


「耳元で『静玖愛してる』って言ってくれてもいいよ」


「ご褒美の内容を変えるつもりはない」


「先に言っとけば良かった」


 ついでに私のことを名前で呼ばせることが出来たのに。


「じゃあやるぞ」


「うん」


 初めての良君からのハグ。


 今とても心臓がドキドキしている。


 もしかしたらこの音は良君に聞こえるかもしれない。


 そんなことより今はこの時間を楽しみたい。


「良君好き」


「もういいか?」


「だめ、頭撫でて」


「くっ」


 良君は顔を真っ赤にしながら私の頭を撫でてくれた。


「良君可愛い」


「もういいだろ」


「後一時間」


「離れろ」


 良君が離れようとするからホールドして離さない。


「こんなとこ見られたら」


「見てないから大丈夫ですよ」


 洋佳さんはそう言ってスマホで写真を撮った。


「お母様、後でその写真ください」


「いいですよ。今からでも良の可愛い顔を二人で見ましょうか」


「はい!」


 そうして私は良君を離さないまま、洋佳さんと一緒にその写真を見た。


 その際良君が「死にたい」と言っていたけど、私は良君を死なせる気な一切ない。


 これが普通になるまでやり続ける。

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