番外編 私の部屋

「うん、どうしよう」


 なんだか似たようなことを昨日も言ったような気がする。


 今は私の部屋の入口の前で呆然としている。


「どしたの? ついに部屋の片付けでもする気になった?」


 お母さんが珍しく二階に上がってきたと思ったら何故か私のやろうとしてることがバレた。


「うん。だけどどこからやろうかと」


「……どうした? 熱でもあるのか?」


 お母さんが私のおでこに手を当てる。


「熱はないか」


「ある訳ないでしょ。なにさ」


「いやだって、私達がなんて言おうと片付けをしようとしなかった澪が片付けをしようとしてるんだよ? 熱でもあるのかと思うでしょ」


 確かに私はお母さんやお姉ちゃんにいくら部屋を片付けろと言われてもそのままにしていた。


 だって私からしたら片付ける必要がないから。


 そりゃ私だって足元の物につまづいて転びそうになることだってあるけど、それはそれだ。


 気がついたらこうなってるのだから、片付けたってまたなるから片付ける気にならないのだ。


「熱はないから。でも片付けってどうすればいいの?」


「どんな心境の変化があったのかは分からないけど、手伝う?」


「いい。全部捨てられそうだから」


「片付けられない人ってね、いらない物をずっと取っておくから片付けが出来ないんだよ」


 なんだかお母さんがまともなことを言うと違和感がある。


「だいたい使わないから床に置いてあるんでしょ。それはいらないってことなんだから」


「でもそういうのは捨てた次の日に必要になったりするじゃん」


「そんなたらればはいいの。そんなんじゃ一生陽太君を呼べないよ」


「な、なんで陽太君なのさ」


「陽太君がいつ来てもいいように部屋を片付けたいんでしょ? まぁ澪にそんな度胸はないんだろうけど」


 なんだかすごく馬鹿にされてる気がするけど、ここで「陽太君が来るから片付けをするんだよ」なんて言ったらもっとめんどくさいことになるから言わない。


「もういいでしょ。私は片付けを始めるから」


「ちょい待ち」


 私が部屋に戻ろうとしたらお母さんに腕を掴まれた。


「ごみの分別分かる?」


「分かるよ!」


 私にだって一般常識ぐらいある。


「いやほら。頭はいいけど一般常識ない人いるじゃん?」


「失礼な言い方するね。分かるけど」


 偏差値の高い学校を卒業したからと言って、その人達が全員ちゃんとした一般常識があるかと言われたらそうとは言いきれない。


 結局は学校で教えてくれることが出来るだけなのだから。


 そんなの誰でも同じなのだろうけど。


「とにかく私は片付けを始めるからお母さんは入ってこないで」


「じゃあ最後に一つね。クローゼットに押し込むのだけはやめなさいよ」


「しないよ」


 確かにそれは一回考えたけど、絶対に良くない事が起こる気がしたからやめる事にした。


「じゃあがんば」


 お母さんはそう言って下に戻って行った。


「何しに来たのさ」


 お母さんのする事をいちいち疑問に思っていたらキリがない。


 なので私は今度こそ片付けを始める。


 結果的に片付けには数日かかった。


 と言うより、あまりにも時間をかけていたからお母さんにほとんどの物を捨てられた。


 でもこれで良かったのだと思うことにした。

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