番外編 私の下着……

「さてどうしたものか」


 明日は陽太君とお出かけに行く日だ。


 私がテストで一位になった時のご褒美で私が「一緒にお出かけがしたい」と言ったから。


 別に行きたいところがあるとかではなく、陽太君とお散歩が出来ればそれで満足なのだ。


 だけど問題なのか、お出かけに着ていく服が決まらないこと。


「少し暑くなってきたからTシャツ? でも最近陽太君以外の人にあんまり肌を見られたくないんだよなぁ」


 なんでかは分からないけど、最近は露出の多い服装はあまり着なくなった。


「じゃあブラウスかな? それともカーディガン?」


 私も一応女子の端くれなので、それなりに服は持っている。


 と言ってもお姉ちゃんのお下がりがほとんどなんだけど。


「少し大きいのが腹立つんだよな」


 お姉ちゃんの服はサイズが少し大きいか、ダボッとしてるものが多い。


 なんでかは考えないようにしてるけど。


「パーカーが一番無難かな? でも可愛いのないんだよなぁ」


 私もお姉ちゃんも可愛い系の服はあまり着ない。


 お姉ちゃんは「可愛い系の服着るより、クール系の服着た方がギャップが出ていいんだよ」と言っていた。


 確かにお姉ちゃんの外面的にはクール系の服はギャップが出る。


 私はシンプルに可愛い系の服が苦手だ。


 私に可愛い服は似合わないから。


 だって私のことを可愛いなんて言うのは、お姉ちゃんとお父さん、一応お母さんと……。


「陽太君に可愛いって思って貰いたいな」


 家族からの可愛いは家族贔屓だからノーカンとして、陽太君は私のことを可愛いと言ってくれる。


 陽太君が嘘を言えないのは分かっているけど、本当に思っているのか不安にはなる。


 私に告白してくる人も私のことを可愛いと言う人はいるけど、それが私の気を引く為の嘘なのは分かる。


 多分そのせいで陽太君の可愛いを信じきれないでいる。


「私最低」


 陽太君は嘘をつけないって知っていながら、陽太君を信じれないと言う。


 そんな最低な考えを持つ醜い私が、綺麗な心の陽太君の隣に居てもいいのだろうか。


 そんなことをたまに考える。


「オレンジか」


 私は陽太君から貰った髪留めを手に取り見つめる。


「私のイメージが明るい色なんて初めて言われたよ」


 昔お母さんには「澪は色で例えるとどす黒い青って感じだよね」と言われた。


 実際私は卑屈で愛嬌も無く、協調性も無い。


 そんな私がどす黒い色なのは納得出来る。


 その時はお母さんに「遺伝かな?」と言い返したけど、思い当たる節はあったから少し落ち込んだ。


 本当のオレンジは陽太君みたいな人を言うのだ。


「私なんかがオレンジになんてなれないよ……」


 陽太君に私のイメージがオレンジと言われたのは嬉しかったけど、どうしても信じることが……。


「違うな。私は陽太君を信じれない訳じゃないのか」


 私が信じれないのは自分自身だ。


 陽太君の気持ちは陽太君のもので、私が勝手に決めるものではない。


 陽太君がそう言ったのだから、陽太君にはそう見えているのだ。


 なら、それを信じられるように私自身が陽太君のイメージ通りになればいい。


「とは言っても明るい色の服は持ってないんだよなぁ」


 陽太君のイメージ通りの私になれるように服装を選んでみるけど、どうしても明るい感じにはならない。


「あ、そういえば」


 私は一つ思い出したことがあり、クローゼットの引き出しを開けたかったので、クローゼットの前にある物を無理やりどかした。


「あった。色を間違えて買ったやつ」


 そこには昔初めてネットで買った時に失敗したピンクの下着があった。


「ってこれをどうすんのさ。つけたって陽太君には見せないっしょや」


 思い出した時は「これだ!」って思ったけど、実際に手に取ると恥ずかしくなってきた。


「でも明るめの色のはこれしかないんだよなぁ」


 でも見られないとこを変えたところで意味は無い気がする。


「でもさ、服は暗めでも中は明るいってそれはそれでいいのでは?」


 だんだん自分を言い聞かせるように言い出す。


「そうだよ。陽太君も私の服装を見て明るいイメージって言った訳じゃないんだし、私の中身が明るければそれでいいんだよ」


 これで数時間悩んだ服選びが終わった。


 結局服装はカーディガンになり、他の服はクローゼットに戻した。


「陽太君可愛いって言って……くれなくてもいいか」


 服に可愛いはないから逆に可愛いと言われたらおかしい。


「でも言ってきそう」


 可愛いじゃなくても、陽太君なら無意識に私を照れさせるのだ。


 だけど珍しく、服装は「キラキラ」と言うだけで済んだ。


 でも前の服と何か違うことに気づくのはさすが陽太君だ。


 素直に嬉しかった。


 それは良かったのだけど、陽太君からのお願いが私の部屋に来たいことだと言う。


 私の足の踏み場が無い部屋に入れるには少し時間がいる。


 明日から部屋の大掃除をすることを決意した。

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