番外編 お兄ちゃんと仲間
「お母さん」
「言いたいことは分かるよ」
「さっきの綺麗な人誰?」
朝早くに家のチャイムが鳴ったと思ったら、とても綺麗な人がやって来て「陽太君から聞いてませんか?」と言ってきた。
「この前隣に引っ越して来た氷室さんだと思う。私も一回しか見た事ないからうろ覚えだけど」
「なんで家から出ない私より外に出ないお兄ちゃんがお隣さんと知り合いなの?」
「制服同じだからクラスが一緒とかじゃないの?」
そうだとしてもおかしい。
だってお兄ちゃんは人と関わることなんか出来ないのだから。
いつも寝てて。
「お兄ちゃんのことだから彼女とかじゃないと思うけど、友達出来たのかな?」
「陽太に友達ね……。考えただけで泣いちゃいそう」
お兄ちゃんは今まで友達と呼べる存在がいた事がない。
だからお母さんはとても心配していた。
お兄ちゃんが虐められているのではないかとか、悲しい思いをしてるのではないかとか。
実際お兄ちゃんは虐められていたけど、一切気づいていなかった。
それにお兄ちゃんは寝れればそれで満足だから、悲しい思いなんてしていない。
「そんなお兄ちゃんに女友達って。お兄ちゃんに普通を求めるのも違うか」
「明莉だって友達いないでしょ」
「そういうことを思春期の子に言うと嫌われるよ」
「じゃあいるの?」
「お母さんってそういうところあるよね」
お兄ちゃんなら「いないよ?」とか普通に言うんだろうけど、私は友達がいないことを認めたくない。
いないんじゃなくて、作らないだけなのだから。
「だいたい友達なんて必要? どうせ学生の時の友達なんて一人か二人ぐらいしか将来付き合いないでしょ」
「これが陽太にはなかった中二病ってやつか。でも明莉にはその一人か二人もいないでしょ?」
「いらないんだよ。みんな子供なんだから」
私だって子供なのは分かってる。
ただ私はどうも同年代の人が苦手というか、嫌いだ。
「中二病ってほんとに中学二年でくるものなんだ」
「お母さんうるさい」
私は別に中二病とかじゃない。
「それよりお兄ちゃん、大丈夫かな?」
「なにが?」
「だってお兄ちゃん、虐めを受けても私が言うまで気づかないような人なんだよ? だから騙されてたりしたら……」
今まではいなかったけど、もしお金を要求してくるような人だったとしたらと思うと心配になる。
「じゃあ見てくれば?」
「そんなお母さんみたいなこと」
お母さんの趣味は覗き見。
よく私がお兄ちゃんとリビングで映画を見たりしてる時にわざわざリビングの扉を少し開けて覗いていたりする。
「二人の空間を邪魔したらいけないと思って」
「覗かれる方が気になるんだけど」
「だってぇ、もしかしたら兄妹の一線を越えるかもしれないじゃない」
お母さんは私とお兄ちゃんになにをさせたいのか。
お兄ちゃんのことは大好きだけど、あくまで家族愛だ。
「それより大丈夫かしらね」
「なにが?」
「陽太を起こしに行ったのよね、えっと確か澪ちゃん」
「お兄ちゃんを起こす?」
そんなの私やお母さんでも出来ないことだ。
起こすこと自体は出来る。
ただとても不機嫌になるので、お兄ちゃんが起きた瞬間にリビングに逃げる。
お兄ちゃんが下りてくる頃にはいつものほわほわしてるお兄ちゃんになっているので、大丈夫だけど。
「氷室さん今頃お兄ちゃんにキレられて泣いてるんじゃ」
「陽太は加減を知らないからねぇ」
「なんでそんなに平然としてられるの!」
私は気が気では無い。
せっかく出来たお兄ちゃんの友達が友達をやめてしまう。
「お兄ちゃん大好きな明莉にとってはいい事なんじゃないの?」
「お兄ちゃんの幸せを奪ってまで、自分が幸せになりたいなんて思ってないから」
「いい子過ぎて泣いちゃう」
お母さんの軽口に付き合ってる暇はない。
私は急いでお兄ちゃんの部屋に向かう。
「どうだったの?」
「氷室さん、とてもいい人でした」
「陽太もちゃんと起きてたでしょ?」
「お母さん知ってたの?」
お兄ちゃんと氷室さんは仲良さそうに話していて、私が立ち聞きしてたのを知った上で私と普通に話してくれた。
その氷室さんは今お兄ちゃんが家に送っている。
ちなみに泣いたのは内緒だ。
「陽太と友達になれるのよ? それは起きてる陽太と話したことがあるってことで、もしかしたら陽太を起こせるすごい子なんじゃないかなって思っただけ」
「確かに。でもなんでお兄ちゃんを起こせるの?」
「それは明莉にはまだ早い話なんじゃないかな」
お母さんがとても嬉しそうに話す。
さっき見た感じでは、氷室さんは私と同じ感じがした。
見た目は氷室さんが断然綺麗なんだけど、お兄ちゃんの無自覚攻撃に弱いところがそっくりだ。
「ただいま」
「おかえり陽太。澪ちゃん来るならちゃんと言っときなさいよ」
「ごめんなさい。言おうと思ってたら寝てた」
「でしょうね」
「お兄ちゃん」
「明莉大丈夫?」
お兄ちゃんが私のほっぺたを手で触って顔を近づけてくる。
「目元がまだ赤いよ?」
「だ、大丈夫だよ」
「あらあら」
「お母さんうるさい」
こうやってお兄ちゃんに照れさせられるのはいつものことだけど、それを分かってくれる仲間が出来てとても嬉しい。
氷室さんとはこれからも仲良くしていきたいとそう思った。
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