第37話 氷室さんと謎の神社

「陽太君、起きてもいいよ」


「わざと寝てる訳じゃ……」


 氷室さんの言い方が気になったから言い返そうと思ったけど、氷室さんの姿を見て言葉が止まった。


「私の決心がついたって意味でした、深い意味はないです。それより、どう?」


 氷室さんが一回転する。


 氷室さんは今淡いピンクでお花が沢山描かれている着物を着ている。


 今日は静玖ちゃん達と初詣に行くからだと思う。


「綺麗」


「ほんと?」


「うん。なんだかいつもと雰囲気が違って、いつもは『可愛い』って感じだけど、今は『美しい』って感じがする」


 上手く言い表せられないけど、今の氷室さんは『可愛い』より『美人』が似合う。


「なんか褒め方が生々しくていつもより照れる。でも嬉しい」


 氷室さんがいつもの可愛い笑顔を向けてくる。


「笑顔になると可愛い」


「うるさい。今日は早めに出るんだから準備しなさい」


「うん」


 氷室さんが顔を赤くしながら部屋の扉を指さしたので、僕は準備を始めた。




「陽太君」


「何?」


「ここどこだと思う?」


「分かんない」


「私も」


 準備を終えた僕は氷室さんと一緒に家を出た。


 そして電車に乗ったまでは良かった。


 今日の集合場所は現地集合ということで、みんな各々で向かっている。


 だから僕と氷室さんも氷室さんの案内で集合場所の神社に向かっていた。


 だけど気がついたらよく分からない場所に着いていた。


「迷子?」


「違うよ、ちょっと道が分からないだけ」


 それを迷子と言う気がするけど。


「そういえば氷室さんって、明月君のお家に行く時も違う道行こうとしてたことあったよね」


 最初は静玖ちゃんに案内してもらったけど、二回目からは僕と氷室さんの二人で明月君のお家に行っていたけど、その時に何回か氷室さんは明月君のお家とは違う方向に向かうことがあった。


 その時は僕が「こっちじゃないの?」と言って訂正していたけど、今日行く所は初めての場所で行き方が分からないから訂正出来なかった。


「氷室さんって方向音痴さん?」


「ううん。お姉ちゃんとお母さんにも言われたことあるけど違うよ。ただちょっと地図を見るのが苦手でちょっと道を覚えるのが得意じゃないだけ」


「そうなんだ」


 僕はそれが方向音痴だと思ったけど、氷室さんが違うと言うのなら違うんだろう。


「とりあえずみんなには遅れることを連絡しないと」


「優正に怒られるかな、怒られるよね……」


「どうして?」


「優正も着物着たのを陽太君に見せたがってたから」


「そうなんだ」


 それを聞いたら早く優正に会いたくなった。


「みんなと合流したいけど、まずここがどこかだよね」


「そうだ、ね」


「陽太君?」


 僕が足を止めたのを不思議に思った氷室さんが僕の同じ方向を見る。


「何かあったの?」


「階段があるから何かあるのかなって」


 僕の見ているところは木々が生い茂る山の麓だ。


 そこに階段があったから少し気になった。


「ほんと陽太君って目がいいよね」


 氷室さんが目を細めながら階段を探して「あった」と言った。


「そうなのかな?」


「あっちから繋がってるね」


 氷室さんが階段の始まりを指さして歩き出した。


「行くの?」


「私もちょっと気になった。それに高い所からなら何か見えるかなって」


 それなら「スマホで地図を見てとりあえず駅に戻ればいいのでは?」と思ったけど、氷室さんが少し楽しそうにしているからみんなには悪いけど僕も行くことにした。


「後でみんなに謝ろうね」


「陽太君はいいよ。私が土下座をします」


「氷室さん土下座禁止ね」


「着物汚れるから?」


「着物じゃなくてもだよ。土下座しなくてもみんな優しいから頭を下げればきっと許してくれるよ」


 みんなのことを全て知っている訳ではないけど、きっと土下座なんて求めていない。


 ちゃんと「ごめんなさい」をすれば許してくれる人達だ。


「謝って済むなら警察はいらないって言葉もあるよ?」


「謝って済むから友達だと思ってた。僕達が言えた義理じゃないけと」


 友達というのは友達の失敗を責めるだけではなく、それを受け入れてくれる存在だと思う。


 まぁそういうのはやられている方が言えることなのだけど。


「じゃあ誠心誠意の謝罪をしなきゃだね」


「うん」


 本当に仲のいい関係なら謝らなくてもいいって考える人もいるのかもしれないけど、僕はそうは思わない。


 きっと謝らなくても許されるのは、相手に期待も何もしてないんだと思う。


 言わなくても分かる関係も確かにあるのかもしれないけど、やっぱり悪いことをしたら謝らないといけないと思う。


「まぁ寄り道して謝ればいいって思ってる私達は悪い子なんだろうけど」


「だね」


 階段を上り初めて少し経ったところで氷室さんがそんなことを言う。


「あ、何か見えた」


「鳥居?」


「よく分かるな」


 木々の隙間から、赤い柱みたいなのが見えた。


 多分鳥居だと思う。


「氷室さんの目が悪いことはない?」


「視力検査で両方Aの私が?」


「ごめんなさい」


「いや、陽太君何も悪いこと言ってないよ」


 そんなことはない。氷室さんを疑ってしまったのだから謝らないといけない。


「陽太君は律儀だよね」


「そうなのかな?」


「後、見つけるのが上手い」


「見つけるの?」


「目がいいのもあるんだろうけど、多分何かを見つけるのが上手いんだと思う」


 言われてみれば、よく物をなくす明莉に「お兄ちゃん今日も見つけて」と言われて物探しを頼まれることが多い。


 そしてすぐに見つかる。


 その時は「ちゃんと探しなよ」と言っていたけど、ちゃんと探したけど見つからなかったから頼まれていたのかもしれない。


「後で明莉に謝らなきゃ」


「なんで明莉ちゃん?」


「えっと……、神社だ」


「ほんとだ」


 階段を上りきった先には古い神社みたいなものがあった。


「もう管理とかされてないのかな?」


「お賽銭箱と本殿? しかないね」


 社務所のようなものもなく、本当にお賽銭箱と本殿しかない。


「地図にも載ってないや」


「地図を見て有名な神社に向かってたはずなのに、地図に載ってない神社に着いちゃったね」


「陽太君にそんなこと言われたら泣く」


 氷室さんが繋いでいない左手を目元に当てる。


「ごめんなさい」


「冗談だからそんなに真面目に謝らないで。罪悪感がやばい」


 氷室さんがそう言いながら僕の頭を撫でた。


「せっかく来たしお参りしてく?」


「うん」


 いけないことだとは思ったけど、お賽銭箱の中を覗いたらお金がちょっとだけ入っていた。


「お賽銭と言えば五円玉だよね」


「ご縁とかけてるんだよね」


「つまり私と陽太君の五円玉を取り替えたら更にご縁が強くなるかな?」


「どうなんだろ」


 それなら確かに僕と氷室さんのご縁が強くなるかもしれない。


「よしやろう」


 氷室さんはそう言うとお財布さら取り出した五円玉を僕に差し出したきた。


「うん」


 僕も自分のお財布から五円玉を出して氷室さんに渡す。


「カラカラないからお金を投げたら二礼二拍手一礼だよね」


「そうだね」


 僕と氷室さんは一緒に五円玉を投げて賽銭箱に入れる。


 そして二礼二拍手一礼をしてお礼とお願いをする。


(氷室さんと出会わせてくれてありがとうございます。これからも氷室さんの隣に居られますように)


 と、お願いはしてみたものの、神様に任せ切りでは駄目なのも分かっている。


 氷室さんの隣に居る為にこれからも頑張っていく。


 終わったから氷室さんの方を見たら、氷室さんはまだ目を閉じてお願いをしていた。


 氷室さんの横顔。氷室さんの佇まい。氷室さんの全てが綺麗だ。


「よし、終わり」


「いっぱいお願いしたの?」


「数じゃなくて叶いますようにってね」


「お願いは聞かない方がいいんだよね」


 お参りでしたお願いは口に出したら叶わなくなると言うから聞かない方がいいのだと思う。


「多分陽太君と同じだろうし言わなくても大丈夫だよ」


「ほんと?」


「これで違ったらただの恥ずかしい人だけど」


 氷室さんも僕と一緒に居られるように願ってくれていたのならとても嬉しい。


「僕も一緒だと思いたいな」


「うん!」


 氷室さんが可愛い笑顔を向けてくれた。


「行こっか」


「うん」


 僕達は謎の神社を後にした。


 そして僕の案内で集合場所の神社に向かった。


 駅の反対側に行ったらすぐに着いたので、落ち込んでいた氷室さんとみんなに謝った。


 静玖ちゃんと明月君はすぐに許してくれたけど、優正は許してくれず「うちに言うことは?」と両手をひろげてきたから「ごめんなさい」と答えた。


 そしたら優正がほっぺたを膨らませてしまったので氷室さんが「着物の感想」と耳打ちしてくれたから素直に言った「とっても可愛い」と。


 それを聞いた優正は「許した!」と可愛い笑顔を向けてくれた。


 それから僕達はお参りをしておみくじを引いたりした。


 不思議だったのは、みんなに謎の神社の話をしたら静玖ちゃんが「行きたい」と言ったから案内したけど、そこに神社なんてく、何も無い場所だったことだ。


 あれがなんだったのかは結局分からない。


 案内した氷室さんも不思議がっていた。

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