第12話 氷室さんとお返し
「陽太君、起きて」
「ん、氷室さんおはよう」
「負けたぁ」
今日は何故か影山さんと明月君もここに居る。
そしてその影山さんが明月君の肩を掴んで揺さぶっている。
「どうしたの?」
「影山さんが陽太君を起こしてみたいって言うからやってもらったんだけど、陽太君起きなくて。だから今度は私の番になったから私が起こしたら一回で起きてこうなってるの」
「そうなんだ」
僕はどうも寝起きが悪い。
氷室さん以外の人に起こされてもなかなか起きることが出来ない。
「お母さんが氷室さんにいつもありがとうって言ってるよ」
「うん。毎日陽太君を起こす前に言われてる」
「そろそろ氷室さんにお礼の何かあげないと」
髪留めをあげてからお礼の品を何もあげていなかった。
その髪留めは毎日学校に付けてきてくれている。
「だから気にしなくていいんだよ? 私だって陽太君の可愛い寝顔見れて満足なんだから」
「氷室さんは優しいから」
「私を信用出来ない?」
「してるよ! でも氷室さんのことを全部分かる訳じゃないもん」
氷室さんのように優しい人はどうしても遠慮をしてしまう。
それさえも本心にして。
だからしてもらってるこっちは本当にいいのか不安になる。
「うーん。じゃあ何かお願いすればいい?」
「うん! 僕に出来ることならなんでもする」
「陽太君ならほんとになんでもしてくれそう。じゃあね、私が困ってたら助けて」
「そんなの当たり前だよ。氷室さんが困ってたら助けたいもん」
氷室さんが困るようなことを僕が解決出来るかは分からないけど、氷室さんの為ならどんなことでもしたい。
「陽太君。私もそれなの」
「どれ?」
「私もね、陽太君を起こしたいから起こしてるの。だから陽太君が私を助けるのが当たり前って言うなら、私も陽太君を起こすのを当たり前って言うよ」
そう言われると何も返せなくなる。
氷室さんの起こしたいが、僕の助けたいと同じなら確かにお礼なんかいらないって言う。
「でも頻度が」
「気持ちは数じゃないでしょ?」
確かに数が多ければ気持ちが込もってる訳でもない。
僕がそれまでの全てを返せるだけの気持ちを込めればそれでいい。
「分かった。氷室さんの毎日に負けないぐらいの気持ちを込めて氷室さんをいつか助ける」
「うん。よろしくね」
氷室さんが可愛い笑顔を向けてくれる。
この笑顔が見れなくなるような困り事があったなら、絶対に助けてこの笑顔を守りたい。
「ねぇねぇ良君」
「今更だ、気にするな」
いつの間にか影山さんは明月君を離して僕達を眺めていた。
「あ、影山さん。起きなくてごめんなさい」
「いえいえ。お気になさらずに」
「というか日野を起こすとやばいんじゃなかったのか?」
「うん。でももしかしたら友達なら大丈夫なのかなって思ったから」
「その割には怯え腰に見えたけどな」
「氷室さーん、良君がいじめるー」
影山さんが氷室さんに抱きつく。
その影山さんの頭を氷室さんが優しく撫でている。
「ところで二人がお昼休み以外で来るの珍しいね」
「あ、すっかり忘れてた」
影山さんが「いーい?」と言って氷室さんの足の間にちょこんと座った。ちなみに頭を撫でるのは継続みたいだ。
「えっとね、もうすぐ期末テストじゃないですか」
「うん」
「だからみんなでテスト勉強をしませんかのお誘いしに来たの」
「テスト勉強……」
氷室さんが影山さんを撫でる手を止める。
「駄目だった?」
「えっと、その」
「氷室さんが行くなら僕も行く」
「え?」
「僕は氷室さんが居ないと多分寝ちゃうから」
僕がそう言うと影山さんと明月君が「確かに」と同時に言った。
「それに氷室さんには今回もテスト勉強を手伝ってほしかったんだ」
「陽太君、本当にいいの?」
「氷室さんが嫌じゃなければ」
「私は嫌じゃないよ。でも陽太君の身体が……」
僕の身体は急に寝なくなると駄目なようで熱が出てしまうようだ。
「大丈夫。最近はテスト勉強の為にちょっとずつ寝ない時間を増やしてるから」
前回氷室さんに迷惑をかけたから、それを教訓にして、睡眠時間を調整している。
学校ではいつも通りだけど、家に帰ったら明莉に手伝ってもらって寝ないようにしている。
ちなみに方法は明莉と学校であったことをお話すること。
「日野君って寝ないと駄目なの?」
「ただ熱が出ちゃうだけ」
「倒れるぐらいのね」
「それは大変じゃん。大丈夫なの?」
「うん。多分」
今回が初めての試みだから、どうなるか分からない。
「中間の時に倒れたってことか?」
「うん。氷室さんに迷惑かけたから、もうかけないように頑張ってる」
「それって毎日勉強してたのか?」
「うん。休みの日と放課後」
「毎日やらなければいいんじゃないか?」
「え?」
「日野は別に毎日同じ時間寝てる訳じゃないだろ?」
「うん」
確かにお母さんのお手伝いで明莉とお買い物に行ったりする時もあるし、明莉がいきなり来て「構って!」と言ってきて少し一緒に居ることもある。
だから毎日寝る時間が同じ訳ではない。
「じゃあ一日置きとか、そうじゃなくても勉強しない日を作れば平気なんじゃないか?」
「明月君天才?」
「そう、良君は天才なの」
何故か影山さんが誇らしげだ。
「いやでも、それでも駄目な可能性だって」
「そこはやってみてだろ。これでもし追試になったらもっと睡眠時間削られることになるだろうし」
「そう、だよね」
氷室さんが影山さんをぎゅーっと抱きしめる。
「氷室さん大丈夫だよ。頑張るから」
「ほんとに?」
「うん。でもまた熱出ちゃったら看病してくれる?」
「うん! 陽太君は私が助ける」
氷室さんが影山さんをもっと強くぎゅーっとする。
「うーん、氷室さんに抱きしめられるのは嬉しいけど、この甘々空間を真ん中で味わうと数日甘いものはいいかなってなりそう」
「甘いもの食べ過ぎなんだからいいだろ」
「あー、良君が酷いこと言ったー。私甘いものいくら食べても太らないもん」
「栄養がどこに行ってんのかな」
「氷室さんボソッと言わないで、ちょっと怖い」
氷室さんの目が影山さんの身体を見ていて、その目が少し暗い。
「氷室さん悲しいの?」
「ほら、日野君が心配してるよ。日野君は今の氷室さんが好きだと思うなー」
「うん。大好き」
「わお、素直。良君も見習って」
「俺にこれを求めるなよ」
明月君が少し呆れた顔をしてる気がする。
「氷室さーん。私の背中に隠れないで氷室さんはなんかないの?」
「なにもないですけど? 私のことはほっといて平気なんでしたけど」
「なんて?」
「氷室さんはたまに語尾がおかしくなるの」
理由は分からないけど、とても可愛いと思う。
「なるほどなるほど」
「静玖。変なこと考えるなよ」
「え、何も変なことなんて考えてないよー。ただ氷室さんが可愛いなーって思っただけー? 今静玖って言った?」
「言ったけど? 言えって言ったのは静玖だろ?」
「いや、その。いつもは言わせてたから、良君が自分から言ってくれるのは、その……」
影山さんが頬を赤くして俯く。
「いちゃいちゃしないでよ」
「氷室さんに言われたくないよ!」
「そろそろ帰るぞ。休み時間終わる」
「帰るー。でも良君と一緒だと恥ずかしい」
「影山さん可愛い」
「今までの報復かー」
影山さんが氷室さんの腕を解こうとするけど、氷室さんに離す気がない。
「静玖、報復なんて難しい言葉よく知ってたな」
「明月君。そんな偉い子にはなにをするの?」
「そうだな。偉い子には」
「やめ、今は」
明月君が影山さんの頭を優しく撫でた。
「はぅ」
「恋する乙女って可愛すぎない?」
「そろそろ離してやってくれるか?」
「うん。体育祭のお返し出来たから満足」
どうやらこれは氷室さんと明月君が一緒に考えたお返しらしい。
それを聞いたら、なんかモヤモヤした。
だから氷室さんの手を掴んで影山さんを解放する。
「りょーくんのバカー」
「帰るぞ」
「うん」
そう言って影山さんが明月君の後ろをついて行く形で帰って行った。
「帰っちゃった。ところでどうしたの陽太君。もしかして明月君と私が一緒に何かをしたのが嫌だった?」
「うん。なんでか分かんないけど、氷室さんが明月君と一緒に何かしてたって考えたら、モヤモヤした」
「それはね嫉妬だよ」
「そうなの?」
自分でもよく分からない。
ただ氷室さんがどこかへ行ってしまうような、そんな感じがした。
「計画通りだよ。あの陽太君に嫉妬させるなんて明月君すごいな」
「やだ」
「私が明月君褒めるのが? 大丈夫だよ、私は陽太君とずっと一緒だから」
「ほんとに?」
「ほんと、に。私今ずっとって言った?」
「うん。僕も氷室さんとずっと一緒に居たい」
氷室さんの顔がみるみる赤くなる。
「陽太君、そろそろ手を離してもらえますでしょうか」
「ごめん、忘れてた。氷室さんの手ってひんやりしてて気持ちいいね」
「くっ、やめろし。それにこれで顔を押さえたらなんか私が陽太君に握られた手を顔を当ててるやばい奴になるじゃんか」
氷室さんがあわあわしだした。
「氷室さん。これからも一緒に居てね」
「居るよ。居るけど、最後はやっぱり負けるのよな」
結局氷室さんは机に突っ伏した。
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