第2話 氷室さんと妹
「陽太君、朝だよ」
「氷室さん? おはよう」
「うん、おはよう」
朝の早い時間に氷室さんが僕の部屋に居る。
というかとても僕を見ている。
なんでこんな状況になっているのか少し思い出す。
「陽太君って朝起きるの辛い人?」
いつも通り授業が始まる前に起こしてくれた氷室さんとお話をしている。
「うん。いつもお母さんか妹が起こしに来てくれるけどなかなか起きなくて妹に怒られる」
「陽太君妹いるの?」
「うん。二歳下の」
妹は僕の違ってちゃんとしているから、いつも兄妹の立場が逆転して怒られてしまう。
「可愛い?」
「可愛いよ。少し氷室さんに似てるかな?」
僕が何か言うとたまに顔を赤くするところとか、心配になるけど可愛く思う。
「……」
「氷室さん?」
「なんでもない」
後こうやってたまに顔を逸らしたりするところとかも。
「それより陽太君って寝起き悪いんだ」
「そうだね。お母さんと妹に起こされて一回で起きたことないよ」
「でも私が起こす時は一回で起きるよ?」
「なんかね、氷室さんの声はよく聞こえるって言うのかな? とにかく起きやすいんだよね」
自分でもよく分からないけど、氷室さんに起こされるとちゃんと起きられる。
「ほんとは私とお話したいから起きてるんじゃない?」
「そうかも」
「くっ、陽太君に勝てない」
氷室さんが今度は机に突っ伏してしまった。
「どうしたの?」
「気にしないで、私が勝手に勝負を挑んで負けただけだから」
「そうなの?」
氷室さんはたまによく分からないことを言う。
「それより、明日から私が朝起こしてあげようか?」
「いいの?」
「まさか了承してくれるとは思わなかったけど、私はいいよ。妹さんにも会ってみたいし」
僕からしたら感謝しかない。
いつも起きるのが時間ギリギリになるのが、余裕を持てるようになるのだから。
「でもそれだと氷室さんが早起きしなきゃならなくならない?」
「私は元から早めに起きてるから大丈夫だよ」
「ありがとう氷室さん」
これで妹に怒られなくて済む。
「私もずっと心配だったんだよ」
「なにが?」
「前に帰る途中で陽太君を見かけた時に電柱にぶつかりそうになってた時があったから、朝は大丈夫なのかなって」
歩いてる時は寝ることはないけど、それでもウトウトはしてる時があるので、実際にぶつかる時はある。
「だから、か、帰りも一緒に帰っていい?」
「危ないから?」
「そう、怪我なんかしたら大変だし」
「うん、妹に怒られちゃうんだよねそれも」
前におでこを赤くして帰ったら妹に怒られた。お母さんは優しく笑いながら手当てしてくれた。
「なんか妹さんにすごい興味湧いてきたんだけど」
「でも人見知りだから距離を詰めすぎないであげてね。氷室さんなら大丈夫だと思うけど」
「私はそういうところはわきまえるよ」
「あ、違くて、氷室さんは優しいからきっと妹ともすぐ仲良くなるってこと」
それを伝えたらまた氷室さんが机に突っ伏した。
「そっか、氷室さんが起こしてくれるって言ってたんだっけ」
「一緒に帰って別れ際でも言ったよね」
「帰ってすぐ寝ちゃって忘れてた」
「まぁ、陽太君のお母さんが驚いてたの見てなんとなく察したけど」
家に入るまではお母さんに伝えとかなくちゃとは思ってたのに、家に入ったら眠気が一気にきて即座に忘れてしまった。
「あ、そうだ」
僕はベッドから下りて氷室さんの隣に正座する。
「え、何?」
「えーと、お母さんに言わなかったのと忘れてたのごめんなさい。それと起こしてくれてありがとう」
ちゃんと伝えなければいけないと思い頭を下げて謝罪とお礼を伝える。
「ほんと陽太君だよね。私もいいもよ見れたからいいよ。それに……これはいいや」
「いいの? じゃあそろそろ準備しないとだよね。このままだとお話を続けて学校に遅刻しちゃう」
「それじゃ元も子もだ。じゃあ行こっか」
僕達は準備の為に部屋を出ようとしたら。
「あ」
「何してるの明莉」
部屋の扉を開けたらそこには妹の
「なんでもない、です」
なんだかいつもと違ってしおらしい。
いつもなら「別になんでもいいでしょ」と怒ってくるのに。
「妹さんだよね」
「うん。妹の明莉」
「確かに可愛い」
「お兄、兄が何か変なことを?」
「明莉ちゃんを可愛いって」
それを言った氷室さんが僕を見て「これならどうだ」といった感じの目を向けてきた。
そして明莉は。
「かわ、いいとか、嘘言うなし」
「明莉は可愛いよ? 氷室さんもだけど反応が可愛いって言うのかな?」
「そう返される予想が出来なかった」
明莉と氷室さんが二人で四つん這いのポーズになる。
「明莉ちゃん。陽太君って家でもこうなの?」
「あ、はい。学校でもですか?」
「うん。本人に自覚ないんだよね」
「ですね。こっちも本心って分かっちゃうから大変なんですよね」
「そう。初めて分かってくれる人に会えた」
「私もです」
氷室さんと明莉が手を取り合う。
「ほらね。氷室さんは明莉と仲良くなれたでしょ」
「これは私だからって言うか陽太君の被害者だからだとおもうよ」
「僕、氷室さんに悪いことした?」
もしそうなら謝らなくちゃいけない。
氷室さんとはこれからも仲良くしていたいから。
「すぐこうやってしゅんとする。そこもいいけど罪悪感が」
「ですよね。お兄、兄は裏表がないから全部本心なのが分かって、より罪悪感がくるんですよね」
「明莉と氷室さん、ごめんなさい」
なんだか分からないけど、きっと僕が悪いことをしたから二人が怒っているだろうから、とりあえず謝る。
「ち、違うよ、陽太君。悪いのは私だから。被害者って言うのも悪い意味じゃなくていい意味だから」
「ほんとに?」
「目がピュアすぎて浄化されそう」
「分かります」
話を逸らされたからやっぱり……。
「あ、違うの。ほんとだから。陽太君は私を信用出来ない?」
「出来る。氷室さんが言うなら信じる」
「嬉しいけど、少しは疑おうよ」
「兄は心を許した相手にしかこんな態度取りませんから氷室さんも安心していいですよ」
前明莉に「お兄ちゃんは人に興味無いよね」と言われたことがある。
興味が無いのではなくてそもそも関わりがないのだ。
それでも生活は出来ていたからそのままでいたけど。
「確かに学校でも誰かと話してるの見たことない」
「ですよね。私もお友達が家に来てるの初めて見ましたから」
なんだかお友達を強調して言ったように聞こえた。
「そもそもお友達がいることだって初めて聞きました」
「ほうほう、買おうじゃないかその喧嘩。明莉ちゃんはいつも陽太君のことをお兄ちゃんって呼んでるんでしょ、なんで今日は呼ばないの?」
「お兄……なんでそんなことまで言うの!」
明莉が僕のことを睨んできた。
「墓穴を掘ったね」
「くっ、鎌をかけられた」
「呼ばないの? お兄ちゃんって」
「……」
明莉が黙り込んで俯く。
(ちょっと駄目かな)
僕はこの後の惨事を予想して心構えだけしておく。
「あの、明莉ちゃん?」
「お兄ちゃぁん」
明莉が大泣きしながら僕に抱きついてくる。
「いっぱい話して偉かったね」
「うん、いっぱい話した」
「初めての人相手なのに頑張ったね」
「うん、頑張った」
明莉はメンタルがとても弱く、すぐに泣き出してしまう。
その時の対処法はとにかく褒める。
なんでもいいから頑張ったことなどを箇条書きで言うだけでいいから、とにかく褒め続ければ少し立ち直る。
「あの、陽太君」
「大丈夫だよ、いつものことだから。そうだ、明莉。氷室さんのこと嫌い?」
「……」
明莉が無言で首を振る。
「良かった。氷室さんも明莉のこと嫌い?」
「そんなことないよ。むしろ大好きだよ」
「じゃあこれからも仲良くしてくれる?」
「うん」
「氷室、さん」
明莉が泣きながら氷室さんの方を向く。
(いつもより早い)
「何、明莉ちゃん」
「またお話聞いてくれる?」
「うん、私のお話も聞いてね」
「うん!」
今度は明莉が氷室さんに抱きつく。
明莉が初対面の人にこんなことをするのは初めて見た。
氷室さんの方はどうすればいいのか分からない様子でオロオロしている。
「兄妹だと好きになる人似るのかな?」
「氷室さんお友達頑張ってください」
「頑張ります」
目元を赤くした明莉と頬を赤くした氷室さんがより一層仲良くなったように見えた。
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