いつも寝ている陽太君とそれを起こしてくれるお隣の氷室さん
とりあえず 鳴
第1話 お隣の氷室さん
僕は
別に夜更かしをしている訳ではない。夜もちゃんと寝て、こうやって昼も寝ているだけだ。
中学の時はずっと寝ているからあだ名がコアラだった。
最初はなんでか分からなかったけど、気になって調べたら、コアラは二十時間も寝て過ごすようでそれなら確かに僕に似ていると思った。
だから僕はコアラが好きだ。
二歳下の妹にこの話をしたら「それ馬鹿にされてるよ?」と言われた。
それでも僕はコアラが好きだ。親近感があるし。
そんな僕も今年から高校生になった。
高校生になったからといって何かが変わる訳でもなく、僕は眠っている。
いや、一つだけ変わったことがある。それは。
「陽太君。授業始まるよ」
「ん、うん。いつもありがとう、氷室さん」
このように僕が寝ていると隣の席の氷室さん、
氷室さんはまだ高校生活が始まって一ヶ月しか経ってないのに有名人になっている。
氷室さんは首席ということで新入生代表の挨拶をやっていた。
普通なら新入生代表の挨拶を誰がやったかなんて気にしないだろうけど、氷室さんは違う。
多分僕達の学年の人はみんな氷室さんのことを見ていた。それだけ氷室さんは綺麗な人だ。
「陽太君はいつも眠そうにしてるね」
「うん。実際眠いんだよね」
「だからって入学式で寝るのは駄目だよ」
「ごめんなさい」
僕達の学年の人とは言ったけどそれは少し違う。
僕はその時うつらうつらしていて氷室さんのことを見ていなかった。
だから氷室さんのことを知ったのは教室に来てクラスの人達が氷室さんの席に集まってきた時だ。
「やっぱり寝てたの?」
「寝てないよ。頑張って起きてた」
「私のことは知らなかったみたいだけど」
「ごめんなさい」
氷室さんはたまにこの話を持ち出して僕をからかってくる。
僕が悪いから何も言い返すことが出来ない。
「陽太君って授業中は寝ないよね」
「うん。赤点取りたくないから」
赤点なんて取ったら寝る時間が減ってしまう。
「寝る時間減るから?」
「エスパー?」
「陽太君が分かりやすいだけ」
氷室さんはそう言って可愛く笑う。
「でもそれだとここは地獄だね」
「なんで?」
「お日様ポカポカだから」
ここは一番窓際の席の一番後ろの席だから確かにお日様がポカポカして眠くなる。
「確かに授業中は眠くなるの我慢するの辛いけど、地獄じゃないよ?」
「どうして?」
「氷室さんがお隣さんだから」
授業が始まる前に起こしてくれる優しい氷室さんがお隣なんて地獄じゃなくて天国だ。
でもそれを言ったら氷室さんが頬を染めて固まってしまった。
「どうしたの氷室さん」
「べ、別に。分かってるよ、起こしてくれる私がいるからでしょ。うん、分かってる」
その通りだけど、どこか氷室さんがにやつくのを我慢しているように見える。
まぁ気の所為だろうけど。
「そ、それより先生来ないね」
「そうだね」
もうチャイムは鳴っているのに先生が来ない。
だから教室もザワザワしている。
「陽太君は私とお話出来るから嬉しいでしょ?」
「うん」
氷室さんとお話してるのは楽しいから好きだ。
でもまた氷室さんは頬を染めて今度はぷるぷるしだした。
「大丈夫? 保健室行く?」
「だ、大丈夫。安心したまえ」
氷室さんはたまにこうして口調がおかしくなることがある。
なんでかは分からないけど。
「あ、先生来たよ」
「うん。お話終わりだね」
「寂しい?」
「……うん」
出来るならもう少しお話していたかった。
氷室さんとお話してる時は眠気が来ないし、とても楽しいから。
「氷室、どうした?」
先生がいきなり氷室さんの名前を呼ぶので氷室さんの方を見ると、氷室さんが顔を机に伏せていた。
「先生。体調が優れないので保健室に行ってもいいですか?」
「ああ、付き添いはいるか?」
「じゃあ……、いえ大丈夫です」
氷室さんが一瞬僕の方を見たような気がするけど、きっと気の所為で、氷室さんは一人で教室を出て行った。
(大丈夫じゃなかったんだ)
それなのに僕とお話して悪化させたのかもしれない。
(後で謝らなきゃ)
そう思いながら氷室さんは友達が多いから必要ないだろうけど、氷室さんの為にノートをちゃんと取ろうと頑張った。
そして授業が終わると僕は保健室に向かった。
保健室に着いて扉を開けようとしたら中から声が聞こえてきた。
「澪、大丈夫?」
「大丈夫大丈夫。ちょっと諸事情で熱が出ただけだから」
どうやらいつも氷室さんと一緒に居る友達が先に来ていたようだ。
「なに、恋煩い的な?」
「ち、違うし」
「赤くなってんじゃん。誰が告白しても断り続けてたあの澪が」
「だから違うって!」
氷室さんはこの一ヶ月ほぼ毎日告白されているようだ。
多い日では休み時間全てが告白で無くなると言っていた。
「で、誰」
「だから違うって。ただの立ちくらみ」
「理由変わってるよ」
「いいの!」
心配だったけど、氷室さんが元気そうで良かった。
これなら次の授業は出れそうだからその時にでも謝ろうと思い、教室に戻ろうとしたら。
「でも今はあの根暗コアラにしつこく言い寄られてんでしょ?」
「根暗コアラ?」
コアラと言う言葉に僕の足が止まる。
「ほら隣の。あいつと同中の子に聞いたんだけど、中学の時からずっと寝ててあだ名がコアラだったんだって」
「コアラ。可愛い」
「そういうのじゃないの。コアラってあだ名がついたのは他に理由があって、あいつ中学の時にクラスの男子を病院送りにしたって。だから実は凶暴だからコアラってあだ名がついたって」
そんなことはない。コアラが凶暴なのは嘘だ。
僕はちゃんと調べたから知っている。コアラが凶暴というのはただの嘘。強いて言うなら爪が危ないということだけ。
「だからあいつは危ないんだよ。いつか澪を暴力で従えようとするよ」
「……」
「れ、い?」
氷室さんの友達の声が少し変わった気がする。
「陽太君はそんなことしないよ」
「でも実際に見たって子が」
「その子が嘘をついてないって確証あるの?」
「それは」
「確証も無いのに陽太君を悪く言わないで」
氷室さんの声もいつも僕と話している時の優しい声じゃなくて、とても冷たい印象がある。
「私は澪を心配して」
「そういうのは心配って言わないよ。ただの自己満足」
「澪、私は」
「もう授業始まるよ。教室帰らないと」
「澪は?」
「私はまだ気分悪いから居る。だから教室に戻って」
(あ、まずい)
僕は咄嗟に逃げようとしたけど、それよりも扉が開くのが早かった。
「ちっ」
氷室さんの友達が僕を睨みながら舌打ちして教室に帰って行った。
(どうしよう)
最初の目的通りに氷室さんに謝るか、このまま教室に帰るか。
「うん、入ろ」
「って陽太君?」
せっかく来たのだから入らなければ勿体ない。なにがかは分からないけど。
「氷室さんごめんね。僕のせいで熱が悪化したよね」
「えーと、そのぉ」
氷室さんの頬がまた赤くなってきた。
「そんなしゅんとしないで、陽太君のせい……じゃないとは言えないけど、私のせいだから」
「やっぱり僕のせいだよね」
「だから違うの。えと、それより話聞いてた?」
「うん。聞こえてた」
「だよねぇ」
氷室さんが気まずそうな顔をする。
「ごめんね、あの子思い込みが激しくて。ちゃんと話せば陽太君がいい子だって分かってくれるはずだから」
「別に気にしてないよ? いや気にすることあった」
「なに?」
「コアラは凶暴じゃないよ」
「……あはっ。陽太君らしいや」
氷室さんが可愛い笑顔と一緒に言う。
「よし、陽太君。授業サボってお話してよ」
「うん、する」
そうして僕と氷室さんは保健室の先生に追い出されるまでお話を続けた。
教室に戻ると先生に怒られるのだけど、それより今は氷室さんとのお話の方が大事だと思ったから。
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