H5.5.17(月)くもり

 五月に入ってから顔を合わせるたびに十七日はなんの日だと言い続けていた甲斐があって、無事イオから誕生日プレゼントをせしめることに成功した。バーバリーのボストンバッグ。コピー品である。まさか一年も経ってから恨みを晴らされるなんて思っていなかった。去年もらったものはまともだったから完全に油断していた。先週、何が欲しいのかと尋ねてきた彼女がいつになくいい笑顔だったことが思い出される。性悪め。

 そういえばイオは院進することに決めたそうだ。そんなに大学が好きだったとは知らなかった。私は大学が大嫌いだから地元に帰るつもりだ。そう話すとイオはそっけなく「へえ」とつぶやいて、どこだっけ地元、とひとりごとのように言った。以前にも何回か教えているのだけれど、何に対しても興味の薄い彼女のことだ、覚えてくれているはずなどと期待してはいけない。山形だよと言うと彼女はやっぱり興味なさげな表情でうなずいていた。

 図書館で卒論用の本を数冊借りたところ大荷物になってしまい、イオに半分持ってもらった。普段なら対価なしには持ってくれないけれども、誕生日なのである程度優しくしてやってもいいかと思ってくれたらしい。帰ったら実家から留守電が入っていたので折り返した。卒業したらそっちに帰りたいんだけどと伝えると、ちょうどよかった、実は見合い話が来ていると言われた。相手は小学校の頃の同級生で、親の会社を継ぐ予定があるらしい。まあ悪くはないと思う。電話を終えたあと、玉の輿に乗れそうだとイオに話したが、私の借りた本を勝手に読んでいて返事すらしてくれなかった。その調子で卒論も私の代わりに書いてくれたらいいのに。

 夕方、イオが何も言わず突然ふらっと外へ出ていった。荷物を置いていったので帰るわけではないとわかり、どうしたのかと不思議に思いながら待っていると、三十分ほどして駅前のスーパーのレジ袋を手に戻ってきた。そしてなんと夕飯を作ってくれたのである。しかも私の好きなナポリタンだ。こんなにうれしいことがあるだろうか。今日は本当にすばらしい一日だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る