エピローグ

 やはりというかなんというか、暁啓にとって大変だったのはペルソナを壊してからのことだった。博士の発明の効果もあり霧は晴れていったが、その後塚森が戻ってきて未来と暁啓を別室に連れて行った。


 そこで様々な話をした。勿論暁啓にも聞きたいことは山ほどあった。そして未来は言った。美香も呼んでやってくれと。


「未来――あんたのせいで私の兄は、あんたの裏切りで大勢死んだのに今更のこのこ何をしに戻ってきた!」


 美香はそのまま未来に飛びかかりそうな勢いだったが高橋が何とか止めていた。そんな美香に未来は先ず謝罪の言葉を述べた。


「君のお兄さんには済まないことをしたと思っている」

「ふざけるなそんな言葉で許されるわけがないだろう!」

「いいから黙って聞きなさい!」


 喚く美香を塚森が叱責した。どうやら塚森は未来から既に事情を聞いた後のようだった。


「――某も柊や暁啓のように黒い端末を持っている。名を修羅と言ってなこれを最初に持っていたのは……君の兄である黒井 正義だった」

「え? お兄ちゃん、が……」


 ずっと怒りに支配されていた美香だったが真実を聞かされ動揺を隠しきれずにいた。


「正義はあの日修羅に飲まれ、暴走した……そして某にも襲いかかってきた。必至に抵抗し止めようとしたが気がつけば某の刃は正義の胸を貫いていた……しかしそれで終わりではなかった。修羅は持ち主がいなくなったことで今度はまるで私の端末に移動した。そして私の端末は黒い端末へと変化し修羅と契約する事となった。修羅はとにかく強さを追い求める。故に自分の持ち主を倒した相手に乗り代わる……某は修羅によって暴走することを恐れ姿を消したのだ」


 そこまで語り終えると美香は俯き強く拳を握りしめていた。


「……これが真相だ。だが某が君のお兄さんを殺したのは事実だ。本当なら君に殺されても文句は言えない。だが私を殺せば修羅は殺した相手に乗り換える。だから済まない」

「何よそれふざけるな! 自分勝手なことばかり言って! えぇそうよ。どんな理由を並べたってあんたが私の兄さんを殺したのは間違いないもの! あんたは犯罪者よ!」

「それなら私も犯罪者ね。だって私も殺してしまったもの。モンスター化したとはいえ伊織を、ね……」

「ッ!? そ、それは……」


 塚森の吐露した言葉で美香に戸惑いが見られた。塚森はどこか遠い目をしている。


「……美香。僕が言っても納得は出来ないと思うけど、こんな世界になって誰もがきっとそれぞれ色んな物を抱えて生きている。それがたまたま悪い方向に出てしまっただけなんだ。姉さんだって本当は君のお兄さんを救いたかったはず。ギルドマスターは伊織を。そして僕だって出来れば柊を、でもどうしようもないことだってあるんだよ」

「…………そんなこと言われたって」

「……あのね。これもさっき聞いたのだけどきっと敢えて未来は貴方に言わなかったのだと思うけど、貴方のお兄さんは未来に刺された直後ありがとうと言ったそうよ。きっと美香のお兄さんは解放されたがっていた。その代償が命だったのが皮肉だけどね……」


 塚森の話を聞き、美香は暫し沈黙した。そしてゆっくりと顔を上げる。


「――そう。話はわかったわ。それでもすぐに貴方を許せるわけがない……少し考える時間をちょうだい」


 そして美香は高橋に連れられて部屋を出ていった。


「はぁ~本当ギルドマスターというのもしんどいものね。それで未来、あなたその修羅をどうするつもりよ?」


 美香との話にとりあえずの決着がつき、今度は塚森が真剣な顔で未来に聞いた。


「私は修羅と共に修羅を止めるつもりだ」

「止める? 一体どういうこと?」

「修羅とともに過ごす内に某もこやつのことをそれなりにわかってきた。こやつも色々と抱えているのだ。故に某は修羅と向き合ってみることにした。時間はかかるかもしれぬがな」

『ふざけるな! お前俺に何を言ったのか忘れたとは言わせねぇぞ!』

「勿論覚えているさ羅刹。だがな羅刹よ。修羅もどことなくお主に似ておる。だからもう少し見守っていてくれぬか?」

『……ケッ。やってられないぜ。だが覚えておけ。お前が修羅に飲まれたなら俺がお前を絶対に破壊してやる!』

「……あぁ。その時は任せたぞ」


 羅刹はそれ以上何もいわなかった。その後は今後の未来の処遇について話し合われたがギルドの監視のもと修羅と共にとりあえず行動を共にすることになった。


 もっとも公には未来の存在は秘密にすることとなりそれは暁啓の端末にしても一緒だった。それから少し経ち、暁啓は雷夢と一緒にハンバーガーショップに来ていた。


「ほんまこの数日で色んなことがありすぎや。せやけど、姉の未来はんと無事再会できてよかったやん」

「ははっ、そうだね」


 雷夢とハンバーガーを食べながら暁啓は笑顔を見せた。そして気になっていたことを聞く。


「えっと雷夢のお父さんって……」

「うんそうやで。博士言われてるあんひとがおとん。せやけどうちも実はおとんと距離をとっていたんや。おかんが死んだ時にもおとんは全く顔を見せへんかった。それが許せへんかった。せやけど今ならわかるんや。博士という立場故においそれと外には出られへんかったんやなって」


 どこかさみしげな瞳で雷夢が語る。博士と呼ばれていた人の本名が平賀 玄内だったと暁啓は後から知った。彼は発明家というジョブ持ちだった。そして発明家のジョブは自らが戦う力を持たずステータスも低い。


 しかし博士の発明品は今や無くてはならない存在。街に発生した霧を消すことが出来たのも博士の発明あってこそだった。


 そうった対処が出来る故に博士に万が一のことがないようギルド内で保護されていた。


「……そういえばまたあるんやろ。三宮解放戦」

「うん。姉さんの情報をきっかけにね実行に移される事に決まったんだ」


 これには柊の件も関係していた。手帳も後から解析され少なくとも柊が大阪で活動していたことが確かだと証明された。


 しかしこのままでは大阪に遠征に行くのも厳しいい。しかし三宮を解放し拠点を築ければ更に行動範囲を広げられる。それがギルドの考えだった。


 そして参加者には未来は勿論、暁啓も選ばれることが決定していた。それ以外は能力を見て決めていくとのことだった。


「うちも実力がついたからなぁ。参加できるよう頑張るで!」

「はは。その時は宜しくね」


 そして一通り話が終わった後、暁啓は雷夢と別れ街が一望できる高台にやってきていた。霧の影響で街の被害も多かったがそれも復旧しつつある。


『全くこんなところまで来て一体何を考えているんだか』

「はは。ちょっとね」

 

 羅刹にそう答えつつ、暁啓は未来と二人になった時に言われたことを思い出していた。姉は言ったもし自分が暴走するようなことがあれば、某は暁啓が殺して欲しいと。羅刹ともその約束で暁啓に送ることにしたようだった。


 正直暁啓は未来に怒った。折角再会出来たのにそんな縁起でもないことを言わないでくれと。姉は笑って勿論そんなつもりはないさと言っていたが、もしそんな日が来たら自分はどうすべきなのか、とそんなことをついつい考えてしまう。

 

「いけないいけない」


 頭を振り払い暁啓は踵を返した。とにかく自分に出来ることをしていこうと決めた。これから先きっと様々な苦難が待ち受けていることだろう。まだまだ平穏なんて程遠い世界だ。だが、それでも僕はこのRPGのような世界で生きていく――そう心に誓う暁啓であった……。

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このRPGのような世界で…… 空地大乃 @oozoradaithi

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