第21話

「プラン変更ね。ただし柊をあんたに任せるというところだけは一緒。こっちの露払いは私の担当よ!」

「でも、それだと職員が!」

「あら? もしかしてそっちが素? なんだかずっと違和感があったのだけど納得がいったわ。貴方本当はもっと優しそうな気がしてたもの」


 そう言って塚森がニコッと微笑んだ。演技がバレてしまったが暁啓はなんだかホッとした気分になっていた。羅刹は変装時の口調の方がいいと言っていたがやはり違う口調は落ち着かない。


「とにかく私はこっちが片付いたら――」

『あ、あ、うむ。聞こえているか? どうやら厄介なことになってるようだがこっちは安心したまえ。某が片付けておこう』


 その時、再び無線が繋がり古風な女性の声が聞こえてきた。


(これってッ!?)


 口にこそしなかったが暁啓は鼓動がどんどん高鳴るのを感じ取っていた。何故なら無線から聞こえてきた声は――


「貴方、静ね! どういうこと! どうしてあんたがここにいるのよ!」

『詳しい話は後だ。それよりも今そっちに柊がいるな。申し訳ない。それは某のミスだ。柊を打ち損じた某の――いいか柊は決して不死――』


 そこでまたも無線が切れてしまった。


「くっ、大事なところで何なのよ! 早く! 応答しなさい!」


 塚森が無線機をバンバンっと殴りつけるがなんとその勢いでバキッと無線が壊れてしまった。しまったと言わんばかりに目を見開き塚森の肩がプルプルと震えた。


『あ~っはっはっは! これはおかしい! ププッ、貴方とんだ脳筋ですねぇ』

「うっさいわね! テレビとか大体これで直るじゃない!」


 ペルソナにいいように言われ塚森が怒鳴り返していた。


『お前みたいのがギルドマスターって本気か?』

「だから黙りなさいよ!」

「あはは……」


 羅刹にまでツッコまれ塚森は顔を真っ赤にさせて叫んだ。これには暁啓も苦笑いである。


「ウォオォォォオオ!」


 柊が叫んだ。その全身から今度は肉の触手が伸びてきた。


「旋風金棒!」


 暁啓は自らを回転させて武器を振り回した。既に風雷棒の効果も付与されている為風と雷が嵐となり触手を退ける。


「こんなもので僕は倒せない!」

『やれやれ厄介なものですね。ですが貴方に彼を倒せますか?』

「倒して見せる!」


 暁啓がスキルを行使し黒棒を巨大化させ柊を殴りつけた。


「鬼気!」


 鬼の気を纏うスキルによって更に火力が増す。棍棒を振り回し風と雷で柊を蹂躙する。その怒涛の勢によって柊が飛んでいった。だが柊はすぐに立ち上がる。傷も回復していく。


「あいつやっぱり不死身なの?」


 霧の中から出てきていたモンスターを倒しながら塚森が呟いた。モンスターを相手しながらも暁啓のことを気にかけていたようだ。


 戦いは一見すると暁啓が押しているようだが柊の傷は再生しまたどれだけダメージを受けても柊は怯まない。


「くそ、本当にモンスターが多いわね――」


 塚森の顔が歪む。その時、霧の中からゴロゴロと何かが転がってくる音がした。


「は? ちょ! 何よこれ!」


 霧の中から巨大な影が近づいてきた。それは大きな鉄球でありモンスターを弾き飛ばしながら迫ってきた。塚森はヒョイッと鉄球を避けた。そのまま鉄球は柊に向けて転がっていき押しつぶしてしまった。


「どや! これがうちのパワーアップした錬金術や!」


 続いて霧の中から飛び込んできたのは雷夢だった。どうやら鉄球を転がしたのは雷夢の錬金術の力らしい。このおかげで鉄球の軌道にいたモンスターが数多く倒された。


「あ! ヒロやん! 来とったんやねぇ」

「え?あ、はい」


 突然鉄球転がして現れた雷夢の姿に呆気に取られた暁啓。とは言えここに来ての援軍は心強い。


「せや! 未来姉はんからの伝言やで。柊は不死身ではない言うとったわ。ようみとけばわかるはずやというとったわ!」

「え? ねえさ、あ、いやさっきの無線の人と会っていたの?」

「瀬谷で~途中で助けてももろたんや。未来姉はん。えぇ人やん」

「……うん。そうだね」

「う~ん? ヒロ雰囲気なにか変わったん?」


 雷夢が小首を傾げた。一方で塚森はモンスターと戦いながら呆れ顔を見せる。


「あんたら何こんなところでイチャイチャしてるのよ! というかあんたヒロって名前だったのね」

「な! イチャイチャなんてしてへんで!」


 塚森に言われ顔を赤くしながら反論する雷夢。暁啓も戸惑いはしたが雷夢が姉から聞いたという助言に注目した。


「羅刹。何か気がついたか?」

『……それぐらいテメェで考えろ』


 つまりわからないんだな、と暁啓は判断した。なんとなくだが羅刹はわかっていればヒントぐらい示しそうな気がしたからだ。


「ヌッォォォッォオォオオオオ!」


 柊の叫び声。同時に鉄球が天上にめり込んだ。


「あちゃ~やっぱあれじゃあかんかったわ」


 額に手をやり雷夢が声を上げた。確かに鉄球程度で決着がついたなら苦労はないだろう。



「とにかく攻めて攻めて攻めまくる!」

「ヒロ頑張ってや! こっちはマスターと一緒に蹴散らすで!」

「全く。でも助かったわ。けど無茶は駄目よ!」


 雷夢と塚森の共闘の声が聞こえてきた。頼もしいなと思いながら暁啓は果敢にせめて立てていく。しかしどれだけ傷つけても柊の傷は再生する。おまけに柊は痛みを全く感じないようで暁啓が攻撃を仕掛けようと関係なく骨と肉を変形させて反撃してきた。


 本当にこれに勝てるのか? という疑念が頭を過る。しかし雷夢の言葉は姉の言葉だ。暁啓は姉の未来を信頼しているしいい加減なことをいう人物でもない。


「無駄だぁ! 俺は死なない!」

「――まだだ!」


 柊の骨と肉が複雑な形状に変化し複雑な軌道で暁啓に向かってきた。何とか暁啓はそれを裁きつつ手を考える。


「こうなったら――鬼人化!」


 柊の攻撃に対抗するために暁啓も鬼人化を解放させた。ステータスが大きく上がり暁啓のパワーとスピードは跳ね上がる。


「鬼の鉄槌!」


 強烈な一撃がヒット。更に暁啓の手から鬼の顔をした火球が生まれ投げつける。柊の体が燃え上がる。柊は怯まない。それは変わらない。


 だが――


「傷の治りが遅くなってきてる――」

『……なるほどな。完全に不死身というわけじゃなかったわけだ』


 暁啓の言葉で羅刹も得心が言ったように呟いた。柊の再生能力は正直厄介だ。だがそれも完璧ではないことがわかれば活路も見えてくる。


『柊一旦下がるのです!』


 その時、柊の持つ端末の声が聞こえた。柊はそれに従うように下がった。霧の中にだ。


「霧が一向に収まらないどころか更に濃くなったわ!」

「こんなん視界の確保も大変や!」


 塚森と雷夢の声を聞き暁啓はしまったと後悔した。柊の狙いはそれだったのだ。霧の中に入り込むことで視認できなくする。


「風神棒!」


 暁啓は黒棒に風を纏わせ振り回した。竜巻が発生する。霧を風で吹き飛ばすのが目的だった。しかし霧は晴れなかった。


「くそ! やはりダンジョン化の霧には効果ないのか――」


 霧に包まれ雷夢と塚森の姿も確認できなくなった。


「ヒロといったわね! 気をつけて。あいつ恐らく暗い場所程自由に動き回るわ。影の中を自由に動くようにね!」

  

 暁啓は塚森の話を聞きながら動きを止めた。暗くなるほど動ける範囲が広くなるということだ。できるだけ動かないほうがいいかもしれない。


 だが相手が暁啓の居場所を特定できるなら寧ろ悪手だ。動き回ったほうがいいのか気配を消した方がいいのか。


「グォオォオ!」

「旋風金棒!」


 叫び声が聞こえ思わずスキルを発動した。自然と範囲の広いスキルを使用してしまう。だがこの手の攻撃は隙が生まれやすい。


 しかも今殴ったのは柊と関係ないモンスターだった。


 ふと風切り音がした。音を頼りに何とか飛んできた何かを叩き落とすが一本が脇を掠めた。骨だった。


 モンスターに気を取られた一瞬の隙をつかれたのだ。怪我につながったことで焦りが生まれる。柊はウィルスを付与する。感染し発症したらモンスターに成り果てる。


 息を整えた。今のところ異常はない。掠めたぐらいなら問題ないのかもしれない。いや、そう願うしかなかった。

 

 しかし視界が確保できない。このままではジリ貧になる。この調子だと無傷で乗り切るのは難しい。


「せめて霧が晴れれば――」


 思わず声を上げたその時だった。


――ブォォォオン、という吸い込み音が聞こえてきた。まるで強力な掃除機で掃除でもしているかのようだ。しかし暁啓は気がつく。


「霧が――晴れてきてる?」

 

 そう。あれだけ濃かった霧がこの吸引音と共に薄れてきているのだ。


「何故だ! 何故霧が晴れる!」


 柊の声が耳に届く。どうやら霧を発生させた本人も何が起きたかわかっていないようだ。


「こっちも霧が晴れてきてる」

「一体どないなっとんねん」


 塚森と雷夢の声も聞こえてきた。様子からして霧を晴らしてる原因は二人でもないようだ。雷夢が叫ぶ。


「なんで霧が消えていくの?  こんなの誰かがダンジョン化の霧を晴らすアイテムを使ったとしか思えない。そんなものが存在するなんて聞いたことがないけど……」

「ふむ。そこに気がつくとは流石だね」


 塚森が発すると霧の中から声が聞こえてきた。それは今この場にいたはずの四人とは違う第三者の声。


「どうやら私の研究は上手くいったようだ。天然の霧ではいくらやっても無理だったが、これがスキルによって生まれた人口の霧であるなら晴らす事も可能というわけだね」


 霧が薄れ声の主が姿を見せる。白衣姿で髪の毛を独特な形で左右に分けた男性だった。丸いレンズの眼鏡を掛けていて手にはホースが握られていた。


「博士! そうか貴方の発明だったのね」

「え? おとん――」


 塚森が得心のいった顔で呟いた。だが暁啓が驚いたのは雷夢の発言。どうやら博士は雷夢の父親だったようだ。


「雷夢。来ていたんだね――」

『柊! その博士は今後厄介になります! 今すぐ始末なさい!』


 ペルソナが叫ぶと同時に柊の目が博士に向けられた。その手が膨張し博士に向けて伸びる。


「まずい! 博士には直接戦う力はないわ!」

「そんな、いややおとーーーーん!」

「疾風迅雷!」


 塚森と雷夢が叫ぶ中、暁啓は反射的にスキルを発動させ動いた。疾風迅雷を使い一瞬にして博士の正面に立ち黒棒で柊の攻撃を弾いた。だが、博士の身こそ守れたものの弾かれた柊の腕が暁啓の仮面をかすり、ぴしっと仮面にヒビが入った。


「あぁっ、仮面が!」


 慌てて顔を手で覆う暁啓。仮面を外さないようにするためだろう。だがその直後仮面が割れ地面に落ち暁啓の素顔が露になる。


「え? 嘘やヒロの正体は暁啓やったんか!」

「暁啓――そうか貴方未来の弟ね!」

 

 二人の声に暁啓がハッとする。これで完全に正体がバレてしまった。もうごまかしは効かない――

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