第3話
そして続く第二ステージ。ここは逃亡者となり追跡者から逃げることを目的としたステージだった。
このステージでは参加は全員で一斉に逃げ始めたものの追跡者から逃げるのは困難を極めた。だが暁啓は途中美香が追跡者を引き付けてくれたので助かることが出来た。
そして第二ステージも暁啓、雷夢、美香の三人は合格できた。全体的にも不合格者は七人で残ったのは十六人だけとなった。
「いよいよ第三ステージだが、ここで本格的にプレイヤーとしての資質をチェックさせてもらう」
連れてこられた部屋で高橋がそう言った。部屋の中には機械の隣接した席があった。
「何やすごそうなマシンがあんな」
「まさにここからの試験はその機械を使う。全員好きな席についてギアを頭につけるんだ」
高橋に促され暁啓もその席の一つに着いた。席は受験生全員が座っても余裕があるぐらいには数があった。
そしてギアを頭に装着する。他の皆も次々ギアを装着していく。
そして全員の装着が完了したのを認め、高橋が説明を続けた。
「これからこの機械でお前たちにはプレイヤーの疑似体験をしてもらう。起動すると同時にお前たちは仮想のダンジョンに移動する。お前たちの目的はそこで生き残ることだ。仲間と協力しても構わないが死んだらそこで終わりだ」
そこまで語り高橋は機械を操作した。すると暁啓も急激な眠気に襲われそしてそのまま意識を手放した――
「ここは――」
意識が戻った時、暁啓は霧に包まれた洞窟の中にいた。事前に高橋が言っていたことを思い出しこれが仮想空間かと一人納得した。
『無事仮想世界に入れたようだな。そこは仮想世界だがダメージを喰らえば痛みも感じる。ダメージがあまりに大きいとショック死に至ることだってありえるからせいぜい気をつけることだな』
高橋の声はそこで途絶えた。かなりとんでもない内容だったが試験には危険が伴うことは事前から知っていた。
だからこそこの程度は仕方ない。とにかく状況を確認しないといけない。
「プレイヤーの疑似体験と言っていたよね……」
改めて自分の姿を見たが、よく見ると端末らしきものを手にしていた。プレイヤーはこの端末を見ることで自分の状態を知ることが可能だ。
「戦士か……」
端末によるとジョブは戦士とのことだった。攻撃力と防御力、体力などは高いが魔法は使えないようだった。
レベルを見るに最初のレベルは0らしい。この状態から先ずソロで生き残る必要がある。
格好はシャツにボロボロのズボンだ。このままではあまりに貧弱過ぎる。武器もない。
黙っていても仕方ないので暁啓は行動を開始した。慎重にダンジョンの中を探索する。
少し進んだ先で緑色の子鬼に出くわした。ゴブリンという名称が頭をよぎった。ゲームなどのダンジョンでも見られるずる賢いモンスターだ。
それが三匹固まってウロチョロしている。当然丸腰の暁啓では戦う術がない。
一旦引き返し、別ルートに向かった。その先には宝箱が置かれていた。トラップの可能性もあるが今はとにかく何かしら装備品が欲しい。
暁啓は慎重に宝箱を開けた。幸いトラップは仕掛けられておらず中には一本のメイスと布製の防具が入っていた。防具はクロスアーマーだろうと知識からなんとなく察した。
シャツの上から防具を装備しメイスも持った。これで多少はマシかも知れないと考えるが、これでもゴブリン三匹を相手するのはキツイと思われた。
暁啓はゴブリンとは遭遇しないよう別の道を行く。そこに一匹の蝙蝠が現れた。ゴブリンよりは戦いやすい。そう思いメイスで戦い蝙蝠を叩き落とした。
――レベルアップしました。
端末から機械的な声がした。見るとレベルが1に上がっており強打というスキルを覚えいてた。
更に探索を続ける。せっかく覚えた強打を駆使して暁啓は現れるモンスターを倒して更にレベルを上げた。
そして暁啓のレベルが3に上がった頃に美香と再会した。
「良かった暁啓無事だったんだね」
そう言って美香は喜んでくれた。暁啓も美香との再会に安堵した。ただそこに雷夢の姿はなく代わりに男性が一人ついて来ていた。
「彼、伊織といって途中で出会ったの。折角だから協力して行こうって話になってね。暁啓も一緒に行くよね?」
そう聞かれ特に断る理由もなかったのでそこから先は三人で行動した。即席のパーティーだったが連携はわりと上手くいった。
美香はジョブが魔術師だった。男の方は盗賊らしい。
途中回避していたゴブリンも三人なら余裕だった。美香が魔法で眠らせ伊織が投げナイフで攻撃。更に暁啓も近づいてメイスで殴りつけた。
こんな戦い方をしながら奥に向かう。途中現れたスケルトンも暁啓のメイスであっさり片付いた。
「鈍器も強いのね」
「衝撃がそのまま行くから有効な敵も多そうだ」
美香と伊織に感心され少し照れくさくもある暁啓だった。
三人でダンジョンを進んでいく内に広めの空間に出た。そこに大型の獣が鎮座していた。
明らかにこれまでと雰囲気が異なった。
「ボスかもしれないわね……」
美香が呟くボスと呼ばれる存在は外のダンジョンにもいることはわかっていた。外に存在するダンジョンと呼ばれるエリアは一つの大きなダンジョンに思えて細かい区分けがされている。
それはこの国の規模に合わせた形であり都道府県から市町村によって定められそれぞれのエリアに合わせたエリアボスというのがいるようなのだ。
どちらにしてもいま目の前にいるモンスターがこれまで出現したモンスターと格が違うのは確かだ。
ここにいたるまでに暁啓たちもレベルを上げてきた。今の暁啓のレベルは8だ。これがどの程度化はわからないが、最初の0と比べれば成長している。
他の二人にしてもほぼ変わらない。美香だけがレベル9で1レベル高いぐらいか。
モンスターが先ず行ったのは咆哮だった。身が竦むほどの圧力ある声。
直後、巨大な獣が一直線に突撃してきた。暁啓は体よ動け! と必至に抗う。何とか動けるようになった瞬間三人が左右に散った。
ギリギリで避けたにも拘わらず生じた衝撃波で三人は地面を転がることになった。軽い痛み。ここに来て事前に言われていたことを思い出した。当たって無くてもこれだ。もし直撃したらその時点で終わる。
仮想空間とはいえ今のでこの痛みだ。もし直撃したらと思うとゾッとしない。
「暁啓一つお願いしていい?」
このモンスターをどう倒そうか考えていると、暁啓の側まで駆け寄ってきた美香から声がかかった。
「俺に出来る事なら」
「寧ろ君だからお願いしたいの。あのモンスターは突撃後に隙があるわ。そこに私が魔法でカウンターを決める。だから暁啓はあいつを引き付けて技を誘発して欲しいの」
「……俺からも頼む。隙が出来れば投擲で援護出来る」
美香と伊織にお願いされ暁啓も断る理由がないと思っていた。
「わかった。戦士は俺だけだしやるしかないね」
暁啓は覚悟を決めモンスターに体を向けた。
「こっちだ!」
そして唸り声をあげている大型のモンスターに向けて挑発の声をあげた。暁啓の動きにつられ目論見通りモンスターは身構えた。
「来た!」
暁啓に向けてモンスターが突撃してきた。暁啓は相手を引き付けてから避けようと考えていた。
その時だった――暁啓の背中に衝撃、爆発した。熱と衝撃にやられ暁啓はバランスを崩してしまう。
「ちょっと暁啓! 先ず私が魔法で引き付けるといったのにどうして作戦通りしないの!」
美香の声が聞こえた。暁啓は意味がわからなかった。最初の予定と明らかに違うことを言われたからだ。
しかし美香は暁啓が勝手な動きをしたから間違って魔法を当ててしまったと、そう言いたいようだった。
『グォオオォオォォォオォォオォオオ!』
暁啓がバランスを崩し転倒した時には雄叫びを上げたモンスターが迫ってきていた。
暁啓はとっさに防御の構えを取ったがその程度で防げるほど甘くはない。大型のモンスターの体当たりをまともに受けてしまい暁啓は吹き飛ばされダンジョン端の壁に叩きつけられた。
あまりの衝撃に息が止まった。全身の骨が砕けたような激痛。喉奥からこみ上げてくる血の感覚が妙にリアルであり地面に転がった暁啓の意識は次第に薄れていった――
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