彼女の星

 僕と彼女は遠くの地で暮らしている。


 ある日、いつもは我儘わがままを言わない彼女が、どうしても、すぐに会いたいと言って来た。


 そこで、僕は有給を使って、久しぶりに彼女に会いに行く事にした。


 彼女は、僕を見ると嬉しそうに笑って、「見せたいものがあるの」と言った。


「何を見せたいんだい?」


 僕が聞いても、彼女は、「夜になるまで秘密」と口元に人差し指を当てて言うだけで、教えてくれなかった。


 そして、夜が深けた頃、彼女は体が弱いのに、何故か寒空の下、僕を高台に連れて行った。


 彼女は星空を指さして僕に微笑みかける。


「ほら、あの三角形が見えるでしょ?」


 言われて空を見ると、確かに三角形をかたどるように星が並んでいた。


「あの星がプロキオンで、あの星がペテルギウス。そして最後。あの一番輝いてる星が、おおいぬ座のシリウスなの」


 彼女は、「分かった?」と言って僕を見る。


「分かった。けど、急にどうしたんだい?」


 僕の質問に答えず、彼女は言葉を続けた。


「シリウスは二重星にじゅうせいと言ってね、見えないかもしれないけど、あの隣には暗い星があるの。本当は遠くにあるんだけど、地球からだと並んでるように見えるの。ね、面白いでしょ?」


 彼女が何故、急に僕に星を見せて、こんな話をはじめたのか、さっぱり分からなかった。


「あの暗い星はね。もうすぐ死んで消えてしまうんだって。まるで私とあなたみたいね」


 不穏な言葉に、僕が、「そんな事を言うなよ」と言うと、彼女ははかなく微笑んだ。


 それから数日後、彼女は息を引き取った。


 その時、彼女が僕に星を見せた理由が、やっと分かった。


 僕は彼女を想いながら、シリウスを見上げる。けれど、どんなに目を凝らしても、隣に彼女の星は見えなかった。

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