雨の向こう側

 犬の散歩の途中に、少女はいきなりの土砂降りに見舞われた。

 雷も酷くて、犬は怖がって動こうとしない。

「早く帰ろうよ。びしょ濡れになちゃう」

 もう十分濡れてはいたが、少女はこのまま土砂降りの中にいたくなかった。

 しかし、どんなに引っ張っても、犬は全く動こうとしない。

「ねえ、帰ろう?」

 少女はもう半泣きで、その場に立ち尽くしていた。

 そうしてしばらく、もうどのくらい経ったのかも分からない頃、雨に変わって太陽の光が降り注ぐ。

 少女は真っ赤な目で空を見上げた。

 まだ、雨のやみきっていない空に、綺麗な七色の橋がかかった。

 少女はその橋の先を見つめる。

 すると、そこにはさっきまで動こうとしなかった犬がいた。

 そして、少女は思い出す。

 犬はもう傍にはいないのだと。

 今度は、少女の心に土砂降りの雨が降り始める。


「大丈夫。僕は元気でいるよ。だから、もう泣かないで」

 犬は虹の向こうで、そう思いながら呼びかける。

 けれど、少女にその声は届かず、犬も少女も悲しみの中にいる。

「ねえ、笑って。それが僕の願いだから」

 いつか一緒に笑える日が来るように。

 消える虹の向こうで犬は願った。

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