誰かが小説で、桜の樹の下には死体が埋まっていると言っていた。

 それが、全ての桜の下なら、手近な樹の根元を掘れば見つかるだろう。

 試しに、まだ若い桜の樹の根元を、深く掘ってみたが、見つける事は出来なかった。

 きっと、若く植樹されたばかりの桜には、死体は埋まっていないのだろう。

 もっと古く、大きな桜の下になら埋まっているのかも知れない。

 しかし、全ての桜の下に埋まっている訳ではないとするなら、それがどの樹なのか、探すのは到底不可能に思われた。


 そこで、私は考えた。

 分からないのなら、自分でその樹を作ればいいのではないかと。


 いつ埋めるかは、よくよく考えて、満月の夜にしようと決めた。

 花がまだ咲く前の寒い時期がいいだろう。


 その日が来るまでに、私は目的の樹の下を少しずつ掘り進めて行った。

 準備は整い、いよいよ今日が満月の夜だ。


 埋めるものは、昼のうちに用意した。


 いつも、綺麗になりたいと着飾っていたから、彼女にとっても、埋められる事は本望だろう。

 そう。

 もうすぐ、彼女の夢が叶うのだから。


 私は、花が咲くのを待ち侘びて、それから毎日、桜の樹を見に通った。


 来る日も来る日も通って。

 どのくらい経った頃か、ほんのりと花が咲き始めた。

 しかし、まだ、私の望む薄紅色には程遠い。


 そして、ついに桜が満開を迎えた。


 けれど、それは私の望む色ではなかった。

 どんなに着飾ろうとしても、醜いものは醜いままという事なのだろう。


 次は、本当に美しいものを埋めてみよう。


 私は、そう考えながら、母を埋めた桜の樹を後にした。

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