桜
誰かが小説で、桜の樹の下には死体が埋まっていると言っていた。
それが、全ての桜の下なら、手近な樹の根元を掘れば見つかるだろう。
試しに、まだ若い桜の樹の根元を、深く掘ってみたが、見つける事は出来なかった。
きっと、若く植樹されたばかりの桜には、死体は埋まっていないのだろう。
もっと古く、大きな桜の下になら埋まっているのかも知れない。
しかし、全ての桜の下に埋まっている訳ではないとするなら、それがどの樹なのか、探すのは到底不可能に思われた。
そこで、私は考えた。
分からないのなら、自分でその樹を作ればいいのではないかと。
いつ埋めるかは、よくよく考えて、満月の夜にしようと決めた。
花がまだ咲く前の寒い時期がいいだろう。
その日が来るまでに、私は目的の樹の下を少しずつ掘り進めて行った。
準備は整い、いよいよ今日が満月の夜だ。
埋めるものは、昼のうちに用意した。
いつも、綺麗になりたいと着飾っていたから、彼女にとっても、埋められる事は本望だろう。
そう。
もうすぐ、彼女の夢が叶うのだから。
私は、花が咲くのを待ち侘びて、それから毎日、桜の樹を見に通った。
来る日も来る日も通って。
どのくらい経った頃か、ほんのりと花が咲き始めた。
しかし、まだ、私の望む薄紅色には程遠い。
そして、ついに桜が満開を迎えた。
けれど、それは私の望む色ではなかった。
どんなに着飾ろうとしても、醜いものは醜いままという事なのだろう。
次は、本当に美しいものを埋めてみよう。
私は、そう考えながら、母を埋めた桜の樹を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます