ガラスの雨

 ザリザリ……。

 ザリザリ……。


 ザラついた音を立てて、ガラスの雨が降っていた。


 硝子しょうこは床に寝転んで、スクリーンに映し出される、真っ黒な空を見つめていた。

 そして、ため息をく。


硝子しょうこ、何ヲ見テルンダイ?」


 硝子しょうこは話しかけられて、声のする方に顔を向ける。

 そこにいるのは、びた音を出すオンボロなロボットだった。


 ロボットを数に入れるならば、ここにいるのは2人きり。

 寝たきりの人間と、一体のロボットだ。


「空を……見ていた」

「空? 硝子しょうこハイツモ空ヲ見テイルネ。楽シイノカイ?」


 言われて、硝子しょうこは首を横に振る。


「だって、ここには空しかないから……」


 大きな戦争が起こって、雨が降った。


 シェルターに逃げ込んだ者。

 逃げ遅れた者。


 硝子しょうこは運良く近くのシェルターに避難ひなんをした。

 けれど、雨はシェルターさえすり抜けて、硝子しょうこに降りそそぐ。


「食べ物、探シテ来ルヨ」


 ロボットはとびらに向かった。

 

 ロボットが作られたのは50年前。

 避難民を助けるために作られた。

 けれど、製造から長い年月が経ち過ぎた。

 雨にさらされて過ごすうちに、劣化れっかの速度が加速していく。


「うん。待ってる」


 硝子しょうこはロボットの背中を見送った。


 シェルターの食料はもう尽きた。

 汚染おせんされた食べ物でも、食べなければ死んでしまう。


 硝子しょうこは、また空を見る。

 この広い空のどこかに、他に生きている人はいるのだろうか。

 いつか会う事が出来るのだろうか。

 そんな願いを込めて。

 けれど、硝子しょうこも長い間、待ち過ぎた。


「もう、疲れた」


 硝子しょうこはそう言って目を閉じた。


「タダイマ」


 ロボットが食料を持って帰ってくると、硝子しょうこはぐったりとして、挨拶あいさつもせずに横たわっていた。

 ロボットは、硝子しょうこが寝ているのだろうと思った。


「コレデ1週間ハモツト思ウヨ」


 ロボットは袋から缶詰を取り出す。


硝子しょうこノ好キナ桃ノ缶詰モアッタヨ。食ベルダロウ?」


 ロボットは缶詰のふたを開けて、硝子しょうこの目の前に置いた。


「マダ寝テル?」


 ザリザリ……。

 ザリザリ……。


 ザラついた音を立てて、ガラスの雨が降っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る