第二十七話

 あれから幾度目かの結婚記念日。

「またこの日を迎えましたよ」

 墓石を綺麗にしたあと、思春様が話しかける。

「最近調子どう?」

「まずまずですね。良き人がそばにいないことにも、いくらか慣れてきました」

「そっか、それはよかった」

「あら、そこはお怒りになるところではないんですか?『私を忘れちゃったの?』などと言って」

「いやいや、そんな執着はないよ。思春様は私なしでも幸せに生きていける人だから。私は、思春様なしじゃ幸せになれなかったけど」

「……、そういっていただけて嬉しいです」

「なんで?私ホント迷惑ばっかかけてたのに。感謝されるなんて、くすぐったいなぁ」

 私はポリポリと頭をかく。

「実をいうと、少し淋しいんです。良き人がそばにいないことが」

「ずっとそばにいるよ。ずっと。思春様に嫌われてもね。うざいでしょ?こんな女」

 思春様はうつむいた。数滴、雫がこぼれる。

「今一度、お会いしとうございます」

 思春様は泣いていた。よく考えたら初めてかも、思春様の泣き顔を見たのって。

「それはできないよ。私、死んじゃったんだし」

「ですが、ですが、ですが……」

 思春様は、すがるように墓石の前にひざまずく。

「ごめん。本当に、ごめんなさい」

「どうして、どうして私を残して……」

 そこで、思春様の言葉は途切れて、あとはわんわんと泣きはらすばかりだった。

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