第二十七話
あれから幾度目かの結婚記念日。
「またこの日を迎えましたよ」
墓石を綺麗にしたあと、思春様が話しかける。
「最近調子どう?」
「まずまずですね。良き人がそばにいないことにも、いくらか慣れてきました」
「そっか、それはよかった」
「あら、そこはお怒りになるところではないんですか?『私を忘れちゃったの?』などと言って」
「いやいや、そんな執着はないよ。思春様は私なしでも幸せに生きていける人だから。私は、思春様なしじゃ幸せになれなかったけど」
「……、そういっていただけて嬉しいです」
「なんで?私ホント迷惑ばっかかけてたのに。感謝されるなんて、くすぐったいなぁ」
私はポリポリと頭をかく。
「実をいうと、少し淋しいんです。良き人がそばにいないことが」
「ずっとそばにいるよ。ずっと。思春様に嫌われてもね。うざいでしょ?こんな女」
思春様はうつむいた。数滴、雫がこぼれる。
「今一度、お会いしとうございます」
思春様は泣いていた。よく考えたら初めてかも、思春様の泣き顔を見たのって。
「それはできないよ。私、死んじゃったんだし」
「ですが、ですが、ですが……」
思春様は、すがるように墓石の前にひざまずく。
「ごめん。本当に、ごめんなさい」
「どうして、どうして私を残して……」
そこで、思春様の言葉は途切れて、あとはわんわんと泣きはらすばかりだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます