第二十四話
「ああ、よいところだったのに」
私はぽつりとつぶやく。目の前には、異形があった。
「夜も更けたころだ。これが今生の名残であるというのは、想像がつくが……」
刀を持つ手がかすかにふるえる。涙もこぼれているだろうか。だがいまは、そんなことを気にしている暇はない
「がぁ!!!」
本気にならなければ、これは殺せない。それほどまでに、力をつけていた。
「宗近!」
「応!」
宗近と私、それに次元や滝女郎もすでに参じていた。
「むぅ!!」
鋭く斬りこむ。しかし、鮮やかにかわされる。
「すばしっこいやつ!」
私は二の矢を放つ。それも、鮮やかにかわされた。矢継ぎ早に宗近が太刀を入れる。それは当たった。だが、致命傷ではない。かわせないとみると、軽傷で済むように体を大きくひねった。
「こざかしい!」
次元や滝女郎も応戦する。
「気を抜くな!これが、これが最期なのだ!やつもその気でいる!」
鬼気迫るもの。すべてを道連れに、己も死のうというのその覇気。ただならぬものが、いちご、もとい、この異形からはあふれていた。
「私は、私はこの異形を殺すのだ!決して、決していちごでは……」
そこまでいって、言葉に詰まる。刀を持つ手が震える。迷いが、私にはまだあった。
瞬間、私は次元に蹴り飛ばされる。それも数メートルは飛ばされただろうか。気が付けば、私が立っていたところに、異形が放った斬撃の跡があった。
「死にたいのか!」
次元の怒号が飛ぶ。私は泣いていた。もはや、戦える状況ではなかった。
「っち!」
次元は舌打ちをして、応戦する。こんな状況だというのに、私はうずくまり、嗚咽交じりに泣きはらしていた。
「戦え!思春!ここで戦えなかったら、すべては無意味と化すぞ!」
今度は滝女郎の怒号が聞こえる。だが、私の耳にはもう、なにも入ってこなかった。
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