第二十二話

「う、うう、うううう……、緊張する……」

 控室。私はウェディングドレスを身にまとい、部屋の中をうろうろしていた。

「や、やっぱりやめておいたほうがよかったかな?こ、こんなに緊張するんだったら、なにかお薬飲んでおくんだったよ。タイムテーブル大丈夫かな?えっと、あの時は、ああして……」

 不審者みたいにぶつぶつとつぶやく。横目でスタッフさんがくすくすと笑っているのも知らないで。

 同じ式場で挙げているから、勝手はよくわかっている。スタッフさんも、私も。

 う~ん、少なくともスタッフさんは、というべき?

 自分の記憶力が情けなくなる。

「お時間ですが、よろしいですか?」

 スタッフさんが声をかけてくれる。

「E!?HA,HAI!!」

 声はもう緊張しすぎてどうにかなっていた。

 ゆっくりとドアが開く。カツカツとヒールの音をさせて、私はドアの前まで行く。

 一足先に、思春様が来ていた。あの時と同じ、ウェディングドレス姿で。

「美しいですよ、良き人よ」

 その一言だけで、嬉しすぎて、膝から崩れ落ちそうになる。

「おや、今日はもう終わりですか?まだ始まってもいないというのに」

「だ、だって、思春様に『美しい』なんていわれたら、嬉しすぎるよ」

「すみません。それ以外の形容詞が思いつかなかったもので」

「っっっっっ~~~~!!」

 こんな恥ずかしいセリフ平気でいえるんだから、思春様って、ずるい。

「さあ、始まります」

 そういって、思春様は私の手を優しく握る。

「初めての時と、同じだね。私が慌ててて、思春様は冷静で。なんかもう、ホント思春様には迷惑かけてばかり」

 私も、そっと思春様の呼吸に合わせた。

「いいえ、違いますよ」

「?」

「私も、心の中では凄いことになっているのです。まさか、良き人ともう一度、結婚式を挙げることができるなんて」

「そ、そんなに嬉しいの?」

「それはもう、この嬉しさを書き表したら、一冊の本では足りないでしょうね」

「……、嬉しい」

 もう、私は涙ぐんでいた。

「まだ泣くのは早いですよ、良き人よ。ああ、扉が開いて……」

 盛大な音楽とともに、結婚式は始まった。

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