第二十話

「いよいよ結婚式も一週間後か」

 ぼそっと、思春様が口にする。

「私、最近ドキドキしてよく眠れない」

「いけませんね。当日に居眠りされたら私、泣きますよ?」

「う、うん……」

 そこで欠伸を一つ。

「……、今日はもう早く寝ましょうか」

 まだ時計は十時を回ったところだった。

「いいよ。まだ頑張れる」

「そういう言葉が出るときは、早く寝たほうがいいのです。さあ、寝ましょう、良き人よ」

「いやだ。だって、まだ準備が……、ん、ふぃ……」

 急に唇を奪われる。少し長い口づけだった。甘くて、ほんのり、やわらかい。

「ん、ぁ……ふ、ぁ……」

 そっと唇が離れると、私の瞼はとろんと垂れ、夢と現実との区別がつかなくなる。

「やはり、良き人を寝かしつけるのには、これが一番ですね。ふふ、可愛いですよ、良き人よ」

 そのご、私はお姫様抱っこをされてベッドへ連れていかれたらしいのだが、その時にはもう、ぐっすると寝込んでいたんだとか。


「はぁ、はぁ、はぁ……」

 私は肩で息をする。宗近も、次元も、そうだった。

「ったく、最近強くなりすぎてねぇか」

 ボロボロになった服を正し、帽子をかぶって次元はぼやいた。

「俺もそう思う。この三人で、ここまで追いつめられるとはな」

「あとちょっとなんだが、俺たちが持たねぇ」

「ああ、それには同意だ」

「また滝女郎に口吸いをしてもらうほかあるまい」

 私は駆け足で玄関に向かう。と、そこにはもう滝女郎の姿があった。

「口吸いかい?」

「ええ」

「あと一週間なら、なんとかなる」

 そういうと、滝女郎はいちごのところへいき、口吸いをする。

「ところでおばあさま。本当にあと一週間でいちごは死ぬのですか?これだけの生命力、とても死ぬとは思えません」

「死ぬ。確実に、な。これはまぁ、最後の悪あがきみたいなものだ」

「悪あがきがこれですが。洒落になりませんよ」

「あと対峙するのは一二度。それを越えれば、安らかな死が待っている」

 施術が終わったと見えて、滝女郎はおもむろに立ち上がる。

「招待状、ありがとう」

「おばあさまに送るのは、当然でしょう?」

「いちごが鬼であることを隠していたのに?」

「今はそんなこと関係ありません。ただ、我々の祖母として、来ていただきたい。それに、いちごが人でないことは、薄々感じていましたから」

「ほぉ……」

「アルコール依存症で、あれだけ酒におぼれても、死ななかった。あれはもう、妖の類と思いました。で、それが見事に当たった。それだけです」

「……、すまんな」

「謝る前に、早くいちごを寝かせませんと。今風邪をひかれては、非常に困るのです」

 そうだな、とだけ滝女郎は口にして、いちごを寝室へと連れて行った。

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