第十九話

「呑気に散歩か」

 パパに呼び止められる。

「えへへー、いいでしょー」

「ったく、一カ月とちょっとで死ぬような奴のする顔じゃねぇな」

「んもー、いじわるいわないで。今とっても幸せな気分なんだから」

「わぁってるよ。水差しに来たわけじゃねぇ」

「じゃあ、なんで呼び止めたの」

「……、なんでだ?」

「そこ疑問形!?」

「あはは、悪い悪い。あんまり幸せそうだったから、つい水を差しに……」

「やっぱり水差しに来たんじゃん!」

「あ、バレたか?」

「もう!」

 私はぷりぷりと頬を膨らませる。

 パパは、けらけら笑っていた。

「もう行くよ思春様!ひどいパパ!いーっだ!」

 私は渾身の変顔をして、思春様の手を引いて歩き出す。

「なによ。あんなことするなら、今回に結婚式、パパ出席させてあげないんだからね」

「まあまあ、良き人よ。あの人も悪気があったわけではないんですから」

「悪気しかなかったじゃん!」

 まだパパに聞こえる距離で、私は大声を出す。

 ちらりと見ると、まだパパは笑っていた。てか、さっきより爆笑してんじゃね?

「まあ、確かに。あれは悪気しかありませんでしたか」

「でしょ!?ふーんだ。近くに暮らしてくれるっていってたから、甘やかしてくれるんだと思ってたら、ひどいよ!」

「あの人が、あなたを甘やかしたことありましたか?」

「ないよ!」

「……、どうコメントすればいいか困る返事ですね」

 私はまだぷりぷりと怒っている。

「せっかくの気分が台無し。ゴメンね。あんなパパで」

「いいえ。あれでも、根はいい人ですから」

「まあね。でも、ホントなんで話しかけてきたんだろ」

「さあ、なんででしょう。私には、なんとなくわかる気がしますが」

「え!ホント!?なんでなんで?」

「それは言わぬが花でしょう」

「ええ~~」

 私は大袈裟に声を出す。

「いってもたぶん、信じないでしょうから」

「信じる信じないは別。どうしてパパは声をかけたの?」

「ですから、言わぬが花といったでしょう。良き人はもう少し心の機微を感じる訓練を行うべきだと思います」

「あと一カ月で死んじゃう人間には、難しいことだよ、それは」

「……、わかっているではありませんか」

「?」

 私は首をかしげる。

「さあ、良き人よ。帰りましょう。早く帰らないと、草むしりの時間が減ってしまいます」

「あ、そっか。うん。じゃあ、はやく帰ろ」

 促されて、私も帰る。

 パパがなんで声をかけたのか、わからずじまいだ。

 パパ、ただいじわるがしたかったのかな?うわぁ、嫌なパパ。夫婦水入らずに割り込んでくるなんて。やっぱり、出席させないでおこうかな。

 でも、一応父親だし……。

 そんなことを考えていたけれど、草をむしり始めたら、私はすっかり、忘れてしまっていた。

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