第十五話
「よいのですか?招待状を出さないなんて」
家で、怪訝な顔で思春様が訊いてくる。式まで二か月、少しずつ、私たちは慌ただしくなっていった。
「うん。二回目の結婚式だし、これは私のわがままみたいなところが大きいから、親戚だけで済ませようと思って」
「そうですか。巻き込まれる親戚も大変でしょう」
「ま、親戚だけは?巻き込んでもいいっていうか?家族だし?」
「超理論ですね」
「結婚式くらい、超理論を正当化させてよ」
そういって、私たちはくすっと笑う。
「少し痩せましたか?」
「うん。あれ以来、ね」
「食欲は変わらないようですが」
「中の鬼が、よく食べるらしくって」
「食事の量を増やしますか?」
「いやだよ。太っちゃう」
「そうですか」
「それよりさ、私のプロポーズの言葉覚えてる?」
「はて?なんでしたか?」
「えー、覚えてないの?」
「最近年のせいか記憶力が落ちてきていまして」
「むー、結構頑張って考えたんだけどなぁ」
「なんにせよ、あの言葉で私は落とされたことだけは覚えていますよ。どんな言葉だったかは忘れましたが」
「う~ん、できればそこも覚えておいてほしかったんですけど……」
「いずれ思い出しますよ」
「思い出してよ?絶対だよ?」
「はいはい」
そういったところで、一階からおじいちゃんの声がする。
「朝餉、できたそうだ」
「はーい」
ばたばたと一階へ向かう。おばあちゃん自慢のお米、味噌汁、漬物、鮭などなど、純和風の料理だ。お皿も自分で焼いているらしく、かなりの値段がするそうなのだが、売る気はないらしい。
「妖の作った焼き物、人にどんな危害が及ぶとも限らん」とのこと。
じゃあなんで私たちは食べてるんだろう、っていうところはいつもスルーされている。
いつか聞けるといいな。
「いただきます」
元気よくそういった。
「お、今日も元気だな」
おじいちゃんが笑う。
「元気だけが取り柄の孫ですから?さぁ、がっつりいっちゃいますよー」
「いちご、米と味噌汁はいくらでもおかわりがある。ゆっくり食べるんだ」
「へーい」
そういって、ガツガツと食べ始める。やっぱりおばあちゃんのご飯は美味しい。私ももっと勉強するべきだったろうか。思春様と一緒に暮らし始めた頃は、悲惨だったもんなぁ。
「良き人よ、さすがにこれは……」
っていわれたこと何回あったっけ。
ありゃへこんだよ。ま、自業自得だけど。
今でもカオス料理作っちゃうことはあるけれど、最初の頃に比べれば、劇的な進歩がみられてるからよしとしよう。うん、私としてはよしということにしたい。
思春様が食べてくれるんだから、できれば美味しいもの、作りたいよね。
「今日はどうする」
ふいに、おばあちゃんが訊いた。
「どうしましょうか、良き人よ」
「う~ん」
私は首をかしげる。
「じゃあ、あの人に会いたい」
そういって私が告げた名は、依存症でだいぶお世話になったお医者さんの名前だった。
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