第十二話

 その日も空は晴れ渡っていた。曇りのない、透き通るような空の青。これで余命半年、っていうのがなければ、どれだけ心が満たされるかわからない。

 いや、いろいろ云々ぶつぶついっているけれど、私の心はもうすっかり満たされていた。

 純白のウェディングドレスを身に纏い、ブライダルプランナーの人にあれこれと質問していたからだ。

「なんとも、良き人のしそうなことです」

 私とはちょっとデザインの違う純白のウェディングドレスを身に纏った思春様が、やれやれといった表情でつぶやいた。

「でしょー?やっぱり好きな人との結婚式は何度しても嬉しいよね。なんでさ、結婚式は一回、っていう暗黙の了解みたいなのがあるんだろ。結婚記念日に、もう一度結婚式やるっていうのも、案外幸せなことだと思うんだけどなぁ」

「そう思うのは、良き人だけですよ。結婚式なんて、くたびれるだけです」

「ええー、ひどいー。私のために何でもしてくれるっていったじゃん!」

「ですが、いろいろと気苦労というものが多いのですよ、結婚式は。プラン通りに動かなければならないですし、招待客へも気を配ります。スピーチも多少そつがあっても、ニコニコしていなければならない。ホント、くたびれるものです」

「むー。せっかくの気分に水差さないでよ」

「おや?いつ私がこの状況を幸せでないといいましたか?」

 すっ、と思春様は私に近寄って、唇を奪う。

「……っっっ!!!???」

 ブライダルプランナーさんの前で、大胆だ。

「美しいですよ、良き人よ。もうこのまま、初夜へ向かってもよいくらいです」

「い、いやだよ。恥ずかしいし、まだ昼間だし……」

「……、はぁ。良き人よ。良き人はたまに言葉通りに受け取ってしまうので、私も困ってしまいます。そこが、可愛らしいところでもあるのですが。ですがまぁ、今日はこのくらいにしておきましょう」

 くすくすと笑っているブライダルプランナーさんをよそに、思春様は用意されている自分の部屋へ戻って行った。

「すみません。変な妻で」

「いえいえ。幸せな夫婦をこんなに間近で見ることができるのが、私どもの醍醐味でもありますから。ありがとうございます。本当に、仲の良い夫婦ですね」

「え!?えへへ~~。やっぱりそう思います?でも、最初に出会った頃は本当にひどかったんですよ?例えば……」

 昔話に花が咲いた。ブライダルプランナーさんはイヤな顔一つせず、一時間も話に付き合ってくれた。

 挙式は三か月後。おじいちゃんやおばあちゃん。もちろんパパやママだって、お姉ちゃんだって来てくれる。

 すんごく幸せな時間になるのは、今からわかってるのに、私はもう、幸せすぎて、ダメだった。

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