第九話

「其許はな、鬼の子なんだ」

「……、はぁ」

 いきなり、そうおばあちゃんにいわれた。

「覚えておらんだろうが、其許は人と鬼が交わって産まれた子。禁忌の子だ。本来、そういう形で産まれても、長生きは出来ん。が、其許は違った」

 淡々とおばあちゃんが話す。

「もう其許も二十を越えた。そして、其許の中にある、鬼の力が、少しずつ制御できなくなってきている」

「鬼の力?」

「そう。子どもの頃はな、燻っておるが、大きくなると、器が整ったと察知して、其許に眠っておる鬼が目を覚まし、其許を内側から喰らう。最近、夢を見るようになったろう?鬼の夢を」

 確かに。

 なんかよくわかんないけど、やたら鬼の夢を見る。でも、そんなこともあるかなって、気にしてなかった。

「審神者女史にいわせれば、あと数カ月だそうだ。其許が鬼に喰らわれるのは」

「……へ?」

 すう、かげつ?

 言葉が咀嚼できない。

「それって、どういう……」

 だから、聞き返す。

「あと数カ月で、其許は鬼になるということだ」

 おにになる……?

 どういう意味だろう。私、人間なのに。

「だからな……」

 ふいに、おばあちゃんが顔を近づける。

「おばあちゃん?なにを……、ん、ぁ……」

 ぴちゅ、と音がする。触れているんだ。おばあちゃんの唇が。

 思春様とはまた違った甘さがある。どっちかっていうと、濃厚な甘さが。

「ん、ん……、ぁ、ふ……ぃ……」

 長い口付け。時々ちゅぱと、舌を吸われる。

「……、ん。はぁ、一先ずは、これでよいか」

 数十秒の口付けのあと、おばあちゃんがつぶやく。

「口吸いというやつだ。これで、其許の中にいる鬼を、少し弱らせた。半年は持つだろう。半年が、其許の寿命だ……」

 そこまできいて、私はなぜかぐったりと疲れてしまった。あれ?なんで?ただ、おばあちゃんとキスしただけなのに……。

「疲れたか。もう、そこまで、鬼の力が強まっておるか」

 おばあちゃんが、ポンポンと、膝を叩く。

 私はよろよろと頭からおばあちゃんの膝にもたれ、そのまま、眠ってしまった。

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