第三話

「酒を断って何年になる」

「そうだな~。三年くらい?」

 今日の夕食の胡瓜もとっても美味しい。

「もうそんなになるか」

「えへへ~。いやぁ、あの時は甚だ失礼を致しました」

「かまわん。そういうふうにしてしまった手前たちも悪いんだ」

「だけどさ、結局は、酒に溺れた私が悪いわけだし。思春様にも、ホント迷惑かけちゃいました」

「いいんですよ。ただ、三度も緊急搬送されたのは、正直心臓に悪かったですが」

「あはは……。面目ない……」

 私はオレンジジュース片手に、頭をかく。けれど二人とも「過ぎたことだ」とでもいうように、私がお酌したお酒を気持ちよく飲んでくれた。

「にしても、すまんな。今日は三日月が留守で」

「仕方ありませんよ。おじい様もお忙しいようですから」

「そうらしい。審神者女史も、たまには遊びに来てくれてもよいのだが」

「まあ、あのお方も、良き人と同じく真面目な方ですから」

「それをいうなら其許もだぞ、思春。まったく。なにゆえ、手前の周りにはこう真面目な輩が多いのか」

「おばあ様の、仁徳のおかげかと」

「ぬかすわ、わっぱが」

 そんなこといいながら、おばあちゃんはちょっと口角を上げる。あ、おばあちゃんが笑ったの見たの、久しぶりかも。私たちの帰省、やっぱり喜んでくれてるのかな?そんなこともないか。

 うん?私が審神者さんとおんなじで真面目?ありえん。あんな美人で知的で、行動力抜群の、私が勝てるとこどこにもない完璧お姉さんが、私と同じ真面目?

 ありえん。いいや、ありえんのだよ?おばあちゃん。

「ねえ」

 と私はいって

「私って真面目?」

 そうきいた。

「真面目も真面目。大真面目、バカ真面目よ。あのカッコつけハジキ男と、モラトリアムこじらせた女教師から、よくもまぁ、こんな生真面目な娘が産まれたものよ」

「い、いやぁ、パパともママとも血縁関係はないんですけど……」

「しかし、育てたのはあの二人であろう?よくぞこんなカタイ女に育て上げたわ」

「ええ。私もそう思います。言葉は悪いですが、お義父様もお義母様も、人を育てるのは苦手と思っておりました」

 う、う~ん。こ、これは、パパやママが弄られているのか……?娘としてこれは怒るべき?でも、一寸は好意的なような気もする……。

「つまり、どういうこと?」

「其許は幸せ者ということだ」

「良き人は幸せ者だということですよ」

 おばあちゃんと思春様が、口をそろえていう。

「気が合いますね」

「当然であろう。我が家族で、この部分に異存のある者はいまい」

 そこで話は途切れて、私たちは夕食を食べることに戻る。

 結局、私は真面目で、幸せ者、っていうことでいいのかな?そ、そういうもんかなぁ。自覚はないけど、二人がそういうってことは、たぶんそうなんだ。

 真面目と幸せ者。

 私には、あんまり似合わない言葉かもしれないけど、そういってくれる人が、二人もそばに居てくれるのはとっても嬉しいな。

 あ、こういうところが、真面目で幸せ者だったり、するのかな?

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